14. セバスの独白
セバスは先々代からペッパー家に仕えており、最も古くからいる使用人だ。
今でこそ、落ち目のペッパー家と嘲笑われるが、先代までは一流の魔法使いを輩出する名門だった。
特に先代は、魔法に関して国内有数の使い手だった。
その名は、国外まで轟いており、領民からも信頼されていた。
だが、先代は妻とともに不慮の事故で亡くなり、そこからは坂を転げ落ちるかのように、ペッパー家は落ちぶれていった。
現当主であるブラック・ペッパーに魔法の才能がなかったのが最たる原因だ。
貴族社会では魔法が重んじられる。
伯爵家を継いだ段階では、ブラックも領主としての責任を一生懸命果たそうとしていた。
だが、突然領主を任されたことと、偉大過ぎる先代の面影が、ブラックを苦しめた。
何をしても先代と比べられ、周囲の期待に応えることができない。
その事実から彼は、逃げるように暴飲暴食を繰り返すようになったのだ。
いつしか、好き放題遊ぶ愚かな領主に成り下がっていた。
セバスの話を一切聞かなくなり、完全に手が付けられない状態になっていた。
そして、ペッパー家の嫡男であるオーウェンは、ブラックに似たのか、粗暴な振る舞いをする少年に育っていた。
セバスがオーウェンに仕え始めたときには、すでに何を言っても手遅れ。
ブラックを見限ってでも、オーウェンの教育に専念すべきだった。
ペッパー家はオーウェンの代で潰えるかもしれない。
セバスは自分の力不足を呪った。
先代達に申し訳ない。
だが、今更悔いても仕方ない。
せめて、セバスだけは最後までペッパー家に忠義を尽くそうと誓った。
それが自分の役目だ、と。
そんなとき、オーウェンの様子が突然変わった。
まるで、人が変わったかのような振る舞いをし始めた。
オーウェンは相手が誰であっても感謝の言葉を忘れず、敬意をもって接するようになったのだ。
今まで、使用人を見下し、暴力を振るってきた子供とは思えない。
使用人に敬意を持って接する貴族が、はたしてどのくらいいるのだろうか。
だが、オーウェンの姿は、貴族の在り方としては間違っている。
「坊ちゃまは人の上に立つ貴族です。下の者に敬語で接してはなりません」
と注意したことがあった。
それに対して、オーウェンは、
「目上の、それも尊敬する相手に、どうして敬語を使ってはならないのですか? 天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、です。ろくに学びもしなかった僕が、彼らの上に立ち、指図する資格はありません」
と答えたのだった。
貴族とは元来、平民の上に立つものだ。
それは、この世界の常識と言ってもいい。
その根底にあるのが魔法至上主義であるものの、貴族は偉いというのは人々の共通認識だ。
それを否定することは社会全体を否定することに繋がりかねない。
だから、決して、オーウェンの考え方は褒められたものではない。
だが、セバスはオーウェンの考えに共感するところがあった。
何もしていない貴族がそれほど偉いのだろうか。
貴族としての務めを果たさない、現当主ブラック・ペッパーは本当に敬う存在なのであろうか。
そう思ってしまうことは度々あった。
だから、セバスは、
「今の言葉を、他の人の前では口にしないでください」
と口止めした上で、
「私は坊ちゃま……。いえ、オーウェン様のことを誇りに思います」
と言った。
オーウェンは「学ばないものが人の上に立つ資格はない」という言葉を体現するかのように、魔法を学んでいった。
当初、オーウェンの変化を不審に思っている使用人は大勢いた。
しかし、彼の努力を目の当たりにした使用人たちは、次第に彼を応援するようになった。
彼の人柄が変わってから、2年以上経つ。
もう、この家にはオーウェンに負の感情を抱く者はいない。
きっと、この落ちぶれたペッパー家を、彼ならば立て直すことができるはずだ。
オーウェンが立派に育っていく姿を見てそう考えた。
そして、彼の成長を間近で見れることをセバスは嬉しく思った。
今日もオーウェンは朝から魔法の練習に明け暮れていた。
それを側で見ているセバスは、
「ペッパー家は安泰です」
と、亡くなった先代に向けて呟いた。
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