13. 握手
その後、俺とナタリーはすぐにラルフに見つけられ連行された。
誕生日会会場の隣にある部屋で、ラルフと向き合うようにソファに座らされていた。
これは人生詰んだかも。
もともと、詰んでいたようなものだったけど。
底辺が最底辺になっただけだ。
ははは、何も気にすることはない。
だから、そんなに眼光を鋭くして睨まないでくれよ。
アルデラート家の当主さん。
……めっちゃ怖いです。
「それで、お前はどうしてナタリーを連れ去ったんだ?」
威圧感たっぷりの声で尋ねてくる。
うおー、こえー。
額から汗が……。
「え えーと、友達の誕生日を祝いたくて……」
言い訳になってないよな。
誕生日を祝うのに連れ去る奴がどこにいるんだろう。
あ、俺がいた。
「そうか。ナタリーの友達なのか。ペッパー家の嫡男と娘が懇意にしているとは知らなかったな」
これは絶対怒ってるよな。
誕生日会に娘を連れ去られて、怒らない父親なんていないよな。
それに相手はくそ野郎として有名なペッパー家の嫡男だ。
ふう、やっちまったぜ。
「お父様。彼とは今日知り合いました」
「今日……とは?」
「はい。先ほどバルコニーで話して友達になりました」
ナタリーはそう返す。
俺なんかを友達と呼んでくれるのか。
ありがとう。
「ナタリーの、友達か」
ラルフは相変わらず鋭い視線で俺を睨む。
「は、はい。友達をさせていただいております」
友達をさせていただくって何だよ。
自分で自分の言ってることがよくわからん。
「………………」
しばらく沈黙が続く。
ちょっと、息が詰まるんだけど。
早くなんか言ってくれ。
「そうか……。私は誤解していたようだ。どこの馬の骨かわからんやつが、ナタリーを連れ去ったと思ったが、友達だったか」
そう言って、ラルフは、ははははは、と笑いだした。
何がどうなっているんだ?
なぜ、そこで笑うんだ?
ちょっと意味がわからん。
いや、怒って欲しいわけじゃないけどさ。
「オーウェン君。これからもナタリーと仲良くしてやってくれ」
「……は、はい?」
どうして、そういう結論になったんだろう。
お偉いさんの思考回路はわからん。
ラルフは機嫌よさげにソファから立つと、部屋の外に向かう。
「ナタリー。しばらくしたら会場に戻りなさい。主役がいつまで経っても姿見せないと不審に思われるからな」
「はい……。すぐに参ります」
ラルフはバタンと扉を閉める。
俺は彼が部屋を出たことを確認すると、ぐったりとソファに倒れた。
「あー。緊張したー」
「あなたでも緊張するのね」
「当たり前だ。アルデラート家の当主様だぞ」
王からの信頼も厚く、国の中枢を任せられる人物だ。
さらには魔法の扱いにも長けている。
俺なんか、社会的にも物理的にも一瞬で葬り去ることができる。
そりゃあ、緊張する。
「でも、案外良い人だったな」
「そんなことはないわ。……きっと、お父様はオーウェンが役に立つと思ったのよ。そういう基準でしか他人を見ない人だから」
役に立つ……か。
どういう基準で判断したのだろう。
「俺にどんな価値があるのかわからんが、お咎めなしで良かったよ」
「ええ。そうね。お父様が言っていたように、あなたとはこれから長い付き合いになりそうだわ。よろしくね」
ナタリーは右手を出し、握手を求めてきた。
「ああ、よろしく」
俺は一度手汗を拭いてから、握手に応じる。
こうしてナタリーの誕生日会は幕を閉じた。




