123. 七不思議と生徒会②
俺はシャロットとともに廊下を進む。
美術室があるのは旧校舎であり、渡り廊下を通り過ぎ、旧校舎の中を歩く。
「先輩は会長とどんな関係なんですか?」
「どうした? 急に」
「いえ……お二人は妙な関係だな、と思いまして。もう10年以上も一緒にいて何もないんですか?」
「何も……ないな。昔から親友だ」
ナタリーとはずっと一緒にいる。
だけど、シャロットが仄めかすような何かがあるわけじゃない。
「そうですか……そんなもんなんですね」
シャロットがぼそっと言った。
「まあ、そんなもんだよ」
ナタリーとの距離感に居心地の良さを感じている。
そうして歩いていると美術室の近くまで来た。
実は俺も幽霊はちょっぴり苦手だ。
一人でホラー映画は絶対見れない。
ていうか好き好んでホラー映画見るやつの気持ちがわからん。
あんな心臓に悪いもの見たら寿命が縮んでしまうじゃないか。
夜が怖くてトイレに行けなくなる。
だが、しかしだ!
男なら、どうしてもカッコつけなきゃいけないときがある。
それは女子が自分に頼ってくれているときだ!
可愛い後輩の前でかっこ悪い姿なんて見せたくないだろ?
そろーりと足音を立てないように歩きながら、ゆっくりと扉を開ける。
そして美術室の中を歩き、目的の絵画――【笑う肖像】の前まで来る。
「これだな」
「……はい」
カタカタ笑うと言われている絵画は、どこかの有名な画家が描いた初老男性の肖像画。
その肖像画の人物はどの角度から見ても笑っているように見える。
「問題ないように見えるが……」
とそんなとき、不意にカタンと音を出して絵画が揺れた。
するとシャロットが「きゃあ」と言って俺の腕にしがみついてきた。
肘に胸の感触が……考えるなって言う方が無理なほどの……大きなナニカ。
こ……これが伝説の二子山!
二子山という名前の通り山頂が2つある。
そう……2つあるからこそいいのだ!
均等に別れた二子山の間には見事な谷がある。
それは宇宙すらも飲む込んでしまうほどの包容力を持って、俺を迎えてくれる。
きっとその谷に落ちてしまったら戻れないだろう。
つまり、何がいいたいかというと――――最高だ!
「オーウェン先輩……? って、すみません……」
と彼女はパッと手を離し、恥ずかしそうに俯く。
「……こっちこそすまん」
完全に頭が異世界トリップしてたわ。
ごほんっとわざとらしく咳払いをして気を取り直す。
俺は壁に飾ってある絵画に触れてみた。
すると、ガタガタと揺らすことができた。
「どうやら、止めが弱いみたいだな」
と言った直後、扉から風が吹いて俺の頬をなぞった。
その風によってカタカタと音を立てて絵画が揺れた。
「まあ、七不思議ってのもこういうもんだよな」
「そ、そうですね」
風の音で揺れる絵画。
それがカタカタ笑っているように聞こえた……とおそらく真相はそんなところだろう。
わかってしまったら、なんだこんなことか、と拍子抜けする。
「じゃあ、行くか」
そして美術室を出ようとする。
その瞬間、もう一度風が吹いた。
振り返ると、美術室に飾られている一つの絵に視線がいった。
笑う肖像ではない。
ムンクの叫びのような、頬に手を当てた人物が悲鳴を上げているような絵画だ。
【ユーマの叫び】と説明に書いてある。
おそらく何かを叫んでいるのがユーマと呼ばれる人物だ。
ユーマと一瞬、視線が重なった気がした。
ぶるりと寒気がした。
俺はさっと視線を外し、美術室を出た。
そしてシャロットと話をしながら生徒会室に向かう。
だが、なぜかあの絵画が気になった。
なんていうか……こう、もやもやする感じだ。
俺はシャロットに、
「ちょっと用事あるから先行ってて」
と言ってから美術室に戻った。
そして、「ユーマの叫び」をよく見てみる。
悲鳴を上げていると思っていたが、よく見てみると顔を歪め助けを求めているように見える。
以前オーウェンの家にあった化け物の絵画とはわけが違う。
これは何かしらのメッセージを訴えているように見える。
顔の輪郭をなぞるようそっと絵画に触れた。
「オーウェン君」
突然声をかけられ、ピクリと肩が揺れる。
振り向くとそこには、
「カザリーナ先生!」
高等部2年、Aクラスの副担任となったカザリーナ先生。
カザリーナ先生は去年Aクラスの副担任としてサンザール学園に来た。
カザリーナ先生が来てくれたことで俺のテンションはマックスになった。
いや、もうほんと最高!
そして先生は俺のことをオーウェン君と呼ぶようになった。
まあ以前のような、家庭教師と生徒の関係でないから当然だ。
「こんなところでどうしました?」
「七不思議が気になりまして」
俺の言葉にカザリーナ先生は口元に手をあてた。
「ふふふ。七不思議ですか。私の頃もありましたけど……いつの時代もそういう話はあるのね」
「どんなのがあったんですか?」
「……校舎に続く秘密の地下道、とかです」
「今とは違う七不思議ですね!」
「所詮、生徒が面白半分に立てた噂ですから。ちなみに秘密の地下道の正体ってなんだと思いますか?」
カザリーナ先生に聞かれて、俺は少し考えてみる。
「うーん……。わかりません」
「クリスが学園に無断で侵入しようとしたときに作った道のことで、それが七不思議になったものなんですよ」
「無断で侵入?」
「遅刻の常習犯だったクリスが教師にバレないように学園に入る方法を考えて……そこで地面に穴を掘って学園に侵入しようとしたのです。全く……才能の無駄使いですね」
そういってカザリーナ先生は笑い、俺もそれにつられる。
「クリス先生か……。懐かしいです」
俺が中等部3年生を卒業すると同時に、クリス先生が学園を去った。
そして、彼女は現在魔導団に所属している。
魔導団はサンザール学園でもトップ成績でないと入れない、エリート魔法使い集団だ。
ちなみに2年前にセントラル高等部を卒業したユリアンも魔導団に所属している。
クリス先生の代わりにカザリーナ先生ということらしい。
クリス先生との別れは寂しく、別れる際の言葉が印象に残っている。
「この学園を頼んだぞ。何かあったらオーウェンがこの学園を守れ。お前がいるから安心してこの学園を去れる」
俺はクリス先生の言葉に頷き約束した。
サンザール学園の最高学年。
そして、四大祭で2度の優勝し二ツ星を持つ俺。
この学園に危険が迫ったら俺が守る、という思いを持って行動している。
「ところで……どうして七不思議を調べているのですか?」
カザリーナ先生が首をかしげる。
「最近、目安箱に七不思議での相談が多くて……七不思議を調べて欲しいって依頼があったので。単なる噂ならそれでいいんですが……」
「ふふふ。真面目ですね。確かに最近七不思議で生徒が盛り上がってますね。よっぽど危険はないと思いますが、何かあれば先生に相談してくださいね」
「はい! もちろんです」
俺の返答にカザリーナ先生は満足そうに頷いた。




