115. 決勝戦
翌日、四大祭の最終日。
全ての試合が終了し閉会式を迎えていた。
俺が棄権したこと以外は滞りなく進行したらしい。
その棄権が結構な騒ぎになったらしいけど。
ということで、中等部の優勝はベルク。
そしてその一段下に立つ俺。
授賞式が始まると学園長が初等部から順に、入賞者に賞状を渡していく。
初等部の優勝者だけは特別にトロフィーをもらっていた。
「では次に中等部部門の授賞式に移る」
まずはベスト8に進んだ者達。
ナタリーもそこに含まれている。
彼らは各々学園長から賞状をもらっていく。
ベスト8の賞状もなかなかに価値があるものだ。
それに続いてベスト4。
カイザフとユリアンだ。
彼らは静かに賞状を受け取った。
優勝が見込まれていた二人だ。
特にユリアンに至っては優勝候補筆頭だった。
しかし、さすがは中等部3年生の二人。
悔しい表情を一切見せず、堂々と賞状を受け取っていた。
そして、俺の順番になる。
闘技場が少しだけざわつく。
決勝戦に姿を見せなかったことで、様々な憶測が飛び交っていた。
ユリアン戦の傷が完治していない。
第三王子に脅された。
決勝戦にビビって逃げ出した。
などだ。
「静粛に」
学園長の一言で会場が静かになる。
「準優勝おめでとう。これからの活躍を期待する」
祝いの言葉とともに賞状を受け取る。
「ありがとうございます」
俺は恭しく頭を下げたあと、一歩後ろに下がる。
そして、最後にベルクの番だ。
「優勝おめでとう。その功績に応じ一ツ星を授けよう」
そういって学園長がベルクにバッチを渡そうとする。
バッチには星が一つ刻まれている。
「どうした?」
だが、ベルクはバッチを受けとろうとしない。
ざわざわと騒がしくなる会場。
異変を察した学園長が、視線で早く受け取れと威圧感を出す。
「このバッチは受け取れません」
「受け取れない? それはどういうことだ?」
学園長がベルクを鋭く睨む。
「優勝者でない僕が受け取る資格はないということです」
「それは……オーウェンが棄権したことを言っているのか?」
「こんな状態で得た星付きに意味などありません」
「意味がない……か。では、どうする? この星付きバッチを捨てろとでも言うのか?」
学園長がベルクに視線を向けながら問うた。
星付きバッチを捨てる、というのがどういうことか。
最も栄誉ある証の受け取りを拒否すれば、今後にも影響が出てくるだろう。
それを拒否するベルクに不審の目を向ける人々。
しかし、そんな視線を意に返さないとばかりにベルクは堂々としていた。
そして、真っ直ぐに学園長の目を見返し「はい」と頷いた。
異例の出来事に会場のざわめきが一層強くなる。
「静粛に!」
学園長は先程とは違い、もはや怒気すら含んだ声で叫んだ。
「お前の都合で受け取りの拒否はできない。優勝者にはバッチを受け取る義務がある」
「はい。わかっています」
「だが、お前の気持ちもわからないでもない。誰かが意図的に優勝を操作したとなれば、その方が問題だ。長い歴史のある四大祭が穢されたも同然。ならば、だ。もう一度決勝戦を行うのはどうだろうか?」
学園長の提案で再び会場の騒がしくなった。
そのざわめきは外部の介入が示唆されたから……ではない。
そんなことよりも観客の関心を引いたのは決勝戦の再戦についてだ。
再戦というよりは、実現というべきか。
四大祭始まって以来の出来事だ。
だが、決勝戦の実現に対し、否定する意見はほとんど出てこなかった。
むしろ、誰もがそれを望んでいるかのようなそんなざわめき。
ユリアンを打ち破った俺と身体強化のみで決勝まで勝ち上がったベルク。
加えて俺たちはお互い1年生だ。
この対戦を楽しみにしていた人は少なくない、ということだろう。
「どうだ? これなら問題なかろう」
「はい。ご厚意に感謝致します」
ベルクは深々と頭を下げた。
「ということだ、オーウェン。お前はどうする?」
観客を含めた会場全体の視線が俺に向くのがわかった。
「ベルク。本当にこれでいいんだな?」
俺は念を押すように聞いた。
「君と戦いたい」
ベルクが一切の迷いなく、澄み切った瞳でそう告げてきた。
それなら俺の回答は一つだ。
「戦わせてください」
「異例だが、こういうのも悪くないな」
学園長が俺の言葉を受け、会場に響き渡る声で言う。
「では! これから中等部部門の決勝戦を行う!」
その宣言により、会場が爆発的な盛り上がりを見せた。
つまり、彼らは消化不良だったのだ。
クライマックスでいきなり照明が落ちたようなもの。
王国最大のエンターテイメントを存分に楽しめることに彼らは興奮しているようだ。
そんな中、すぐさま会場のセッティングが行われた。
そして、俺はベルクと向かい合う。
クリス先生から星付き制度の裏側を知ってしまった。
それでも一ツ星が欲しい。
一歩進んだと思ったら一歩下がっている。
全然前に進まない……そんな現状を打開するための証が欲しい。
俺がなりたいのはただの魔法使いじゃない。
一流の魔法使いなんだ。
そうでなきゃいけないんだ。
「後悔するなよ」
「後悔はしないよ。ここで君と戦わなかった方が後悔する」
「そうか。……手加減はしないからな」
「当たり前だ」
ベルクと短い会話したあと、俺達は黙って審判の合図を待つ。
体は万全の状態ではない。
昨日の傷がまだ癒えていない。
回復魔法は本人の治癒能力が低ければ機能しにくい、とファーレンが教えてくれた。
連戦で疲弊した体にモネの事件だ。
体が悲鳴を上げている。
だが不思議と負ける気がしない。
唐突に開かれた決勝戦なのに、酷く冷静な自分がいる。
騒々しかった会場も、今この瞬間だけは静かだ。
自分の吐く息と風を切る音が聞こえるのみ。
臨時で審判を務めた学園長がすっと右手を上げる。
そして、
「中等部部門、決勝戦開始っ!」
学園長が手を下ろし、開始の合図が会場に響く。
それと同時にベルクが動くのが見えた。
急速に接近するベルク。
それを俺はいつになく冴えた頭でみていた。
すっとベルクに向かって人差し指を向ける。
自分の弱さを捨てよう。
人を傷つけるのが怖かった。
人を傷付けたくなかった。
自分の心が傷つくのが怖かった。
だから【銃弾】が使えないでいた。
だけど、そんな甘さはもう捨ててしまおう。
ベルクはこの一瞬に全てをかけているかの如く、猛然と迫ってきている。
そんなベルクに向かって照準を合わせる。
狙うのは太もも。
呼吸がゆっくりになる。
時が経つのがゆっくりに感じられた。
全てを一瞬に詰める気で俺はベルクを見据え――――
「――――銃弾!」
バンっという発射音が会場全体に響き渡った。




