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3

「紫己……紫己!」


笠原は眠りながら涙を零していた。

酷くうなされていて、汗も掻いている。

余程怖い夢を見ているのだろう。

両肩を掴んで思い切り揺さぶると、笠原はビクッと大きく目を見開いて覚醒した。

丸で溺れ掛けた所を救出された人間の様だ。

汗びっしょりで忙しない呼吸を繰り返す笠原は、やがて目の焦点を明崎に定まらせる。


「あ……ぁ……団之、介?」


掠れた声で、泣きながら笠原は手を伸ばしてきた。

恐る恐るといった様子で、左頬の鱗に触れて、周辺の柔い肌を指先でそっと撫でる。

鱗が広がっていないか確認しているような動作。


「うん……何も無いよ」


明崎はその仕草に痛々しいものを覚えて、思わず笠原の手を取った。


「ゆめ……?」

「夢。ぜーんぶ終わったんやで」


鱗が広がっていない無事な右頬に触れさせると、笠原はその掌で確かめるように包み込んだ。

そうして、ほぅっと安堵した吐息を吐く。


「良かった……」


そんな言葉を聞きながら、明崎はもう片方の手で笠原の頬に伝った涙を拭った。

それで濡れた感触に気づいたらしい笠原は、明崎の頬から手を離した。

自分の指で涙の流れた箇所に触れると、途方に暮れた表情を浮かべる。


「泣いたのか……?」

「寝ながら泣くって相当やで」


何か飲む?と明崎が聞くと、笠原は自分の乾いた唇に触れて、それから頷いた。

飲む物以外にも、明崎愛用の超メンソール系汗吹拭きシートを持っていってやろうか。

あれで拭いた後の爽快感を、是非とも体感して貰いたい。

部屋を出て、ウーロン茶と汗拭きシートを持って戻ると、笠原は布団の上から膝を抱いて座っていた。

何か思い詰めた様子で瞳を伏せている。


「持ってきたで〜」


暗い雰囲気を払拭させようと、明崎は敢えて明るい声で言ってみる。

傍に屈んで、コップを差し出した所で笠原はようやくこちらを見た。


「……すまない」


コップを両手で受け取られた。

しかし笠原は、そこからコップに口を付けようとしない。


「……喉、渇いてへんの?」

「………」


明崎の問いに対して、笠原は一度口を開き掛けた。

が、それもすぐ閉じられてしまう。

何か言い淀んだ様子だった。


これだ。

この前の昼休みの時にもやっていた。


「どないしたんもう〜。お腹空いたん?」


言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのだ。

そう思いつつ、笑ってその先を促した。


「……アンタ」

「うん」


笠原は思い詰めた表情のまま、やがてぽつり、とこう言った。


「俺の傍に、来ない方がいい」


さしもの明崎も、これには笑みを消した。

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