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「……アンタだって、自分の顔に鱗があって良い思いはしていないだろう?」
「………」
「分かってる。アンタなら、きっと本当に綺麗だと思ってくれている。それは疑っていないのだ。……だが、」
笠原は、再び視線を足元に落とした。
「アンタが、全身鱗に覆われていってしまう夢を見た。……凄く、怖かった。それが現実に起きたら、皆の前で起きてしまったらと思うと、もっと怖い」
一つ一つ、言葉を聞いている内に明崎は気が遠くなる感覚を憶えた。
ぼこり、と何か沸こうとしている音を明崎は自分の中で聞いた気がした。
「いつこれが、範囲を広げるか分からない。だから、もし俺の為に動いてくれようと考えてくれているなら、やめて欲しい。アンタがいらぬ危険に晒されてしまう。これ以上、迷惑を掛けたくないのだ」
まただ。
また、似たようなことを言っている。
また、他人のことばかり言って、
自分を置いてきぼりにして──
「アンタまで化け物呼ばわりされるようになったら、俺は……」
表情を強張らせる笠原は、堪えるように布団をきゅうっと握り込む。
その両目の奥底には、どうしようもない悲しみと怯え、そして自責の念を湛えていた……
──それを見た瞬間、明崎の中でついに怒りが堪え切れず暴発した。
「だから放っとける訳ないやろぉっ!!!」
叫ぶようにして声を荒げた、その勢いは近くの水という水にリンクした。
台所の水道からは壊れた様に水が噴き出して、目の前のコップでウーロン茶は破裂する様に辺りに盛大に飛び散り──掛けた。
明崎が済んでのところで、コップの中で破裂を留めたからである。
水道の水は、それから間もなく明崎の手で直接止められた。
笠原は余程驚き入ったのだろう、身を竦ませたまま呆然と明崎の姿を目で追っている。
部屋の入り口まで戻った明崎は、笠原と目が合っても溜息しか出なかった。
だが先ほど、水が暴走し掛けたお陰というとおかしいが、止めることに意識が向いた時に怒りは若干削がれた。
そして水道の蛇口を直接止めに行って帰って来た、この時間も脳のオーバーヒートを冷ますには少しだけ役に立った。
「……カッとしてもうた。ごめん」
「………」
「でもな、これは怒るわ」
一息に歩み寄って、笠原の傍に再び屈んだ明崎は彼の手からコップを取り上げた。
「鱗出てきた日の昼休みさぁ、さっきのこと言い掛けとったやろ?」
「……アンタ、そんなことまで覚えて、」
「君転校してきた時と全っ然変わらへんで」
怒りは若干削がれただけであって、まだ収まった訳じゃない。
すっかり明崎の怒気に気圧されてしまった様子の笠原に、更に詰め寄る。
「ええ加減にしいよ。何で毎回1人で抱え込もうとするん?こっちは迷惑掛けたってええ言うてるやんか。何でなん?そんなに俺信用ならん?」
「そういうことでは……」
「この1週間徹底的に避けてくるし、今も俺のこととにかく追い出そうとするし……そういうのが腹立つねんて。君さっきから俺の気持ち踏みにじってる」
「………」
「……もう腹括ってんねん、こっちは。そらぁ、顔にまで鱗が出てきたんは驚いたけどさ……でも決めたんや。俺は何があっても紫己のこと、見捨てる真似はしたくないねん」
分かってくれるだろうか。
僅かに祈る気持ちを籠めながら、困惑した笠原の顔を覗き込む。
「だから……君のこと放っとかれへん」
分かって欲しい。
「それで君に避けられてまうと、俺……どうしようも無くなってまうからさ。……もっと頼ってよ」




