八章 車両衝突
時間が凍りついた。
疑問への解答など、どうでも良くなる状況であったと言える。その男がやっていた事は、どうあっても反逆行為と取られるものだ。
容赦なく吐き出された攻撃に、直感的にカウンターを叩き込んだヒサシゲは、いい手ごたえを感じながら、攻撃を振り切る。その力の慣性に逆らう事が出来ずに地面を転がり、ラディアンスはポーオレの足元に転がった。
意識はあるようだが、漏れ出す呻き声の様なものが、さらに周りを戦慄させていた。
お天道様の娘であり後継者であるクルワカミネの人間に容赦なく蹴りつけた男は、吐瀉物まみれとなった上着を脱いで、舌打ちしている所だった。
だがそこで視点がポーオレとぶつかる。先ほど行った行動の方がよっぽどだと言うのに、ヒサシゲからしてみれば、一番怖いのはポーオレの様で顔を青くさせ表情が固まった。つい一時間ちょっと前に、中々に際どい事していたポーオレのことを思い出しているのか、青かった顔が赤くなったりと色々と忙しい状況になっている。
これが三十間際の男の対応なのかと呆れるが、基本的には思ったことに一直線という、わかりやすい馬鹿であり、大切な物に関しては糞真面目という性格である為、惚れている女性の分かり易い扇情的な姿など、純情といっても過言ではないヒサシゲにとっては、どう対応していい物か分からない。
流石にここで無神経な言葉を言うほど、馬鹿な男ではなく、なにより付き合いからここでごまかしたら色々と困るのは目に見えていた。
何より彼は知っている。
ポーオレという女を追い詰めた時、本当に困るのが自分だと。今はまだ動揺しているからいい、思考にチラつく彼女の痴態を忘れるように頭を振って、必死に冷静を装う。自分が何をしでかしたか知らない無知の余裕は、現状で一番先が見えてないにも関わらず、誰よりも正しく状況を選ぼうとしていた。
といってもそれは、ポーオレという人物に関しての事だ。
「ひ、ひーす、ヒース君。あなたは今なにをしたと」
同様が見て取れるポーオレだが、あまりないのだが彼女は余裕がない時か、ヒサシゲが聞いていない所だけでしか「君」付けない。幼い時からヒース君と呼んでいた名残だが、どちらかといえばこっちが素だ。
明らかに余裕がない彼女を見て、どうにか誤魔化せると内心で笑うヒサシゲは、できるだけ平静を装う。
「ゲロかけた女を蹴り飛ばした。いや、誰だってするだろうこんな失礼なやつ」
「いつも無礼なヒース君の言うセリフですかそれは、いえそれよりもあなたは、それ人が」
「あの片眼鏡女がどうしたんだ。一応手加減はしてある、と言うか俺の弱さを知ってるだろう。どうせ大したことない」
その言葉にポーオレは、火が付いたように怒り出す。
間違いなくヒサシゲの無思慮な行動と言動に、彼女も耐え切れなくなったのは間違いないだろう。
「大した事をやらかしてるんですあなたは、いつもそうやって余裕を振りまいて、自分が今何をしたか正確に把握していないでしょう」
色々溜まった感情もあるのだろう。
基本的に女心がわかる男じゃない、なにより分かっていても、自分の夢を優先させるクズだ。絶対に死んでしまう人を諦めさせる方法がなく、最後には自分もついて行くと、ポーオレに決意させたような奴だ。
そんな男だがポーオレの態度に、これは流石にマズイとは思ったのだろう。
ポーオレを怒らせて勝てた試しはない。過去からの敗北の歴史がそれを物語っているのだが、なにより泣いた子供と女に勝てる男はそうはいない。
「あ、いえ、知りません申し訳ない」
「でしょうね。そうだと思いますよ。あなたに汚物を浴びせた淑女にあるまじき人は、クルワカミネのお姫様です」
衝撃の発言ではあった。
いきなり人に汚物をぶちまけた女が、クルワカミネの後継者であると言う。一瞬だが目の前が真っ暗になる程度の衝撃はあった。
冗談だろうとは思わない。だが、これが次代の支配者であると言われれば、誰だってこう思うだろう。生体認識によって運用される要塞列車クルワカミネは、どうあっても支配者が決まっている。
つまりヒサシゲはクルワカミネに、処分される理由を作ってしまったのだと理解する。
真剣だったポーオレの目を覗けば、否定という発想はない。同時に、状況が一変したことも理解できた。
目撃者は過半数、これは殺されても仕方ない次元の問題である。
「そうか、都合がいいかもしれないな」
だが自然とそんな言葉が自然と湧き出てきた。
自然と緩む口が、きっと彼の感情の全てを表わしてしまっている。どうせ、喧嘩を買うつもりだったのだ彼は、クルワカミネが彼から奪ったペナダレン、それを奪い返すのはそういう事だ。
なら、どこがスタートだって結局変わらない。
それに驚いたのはきっと、聞いた人間全てであっただろう。
この世界で唯一の世界に喧嘩を売る所業のどこが、都合がいいと言えるだろうか。そんな理解不能な宣戦布告、その言葉にいろいろな反応はある。
だが、怯えたと言うのなら、きっとポーオレだった。彼女だけが、世界で一番彼の性格を知っているから。
この男はやると言ったら、死んでもやり遂げようとする人間だ。
周りの枷無く動く人間は、時として千の兵にすら勝る狂気がある。常に死ぬ覚悟が出来て行動できるなら、それだけで人は化物の仲間入りをする。
傍から見れば痴話喧嘩にしか見えないくせに、状況としてはクルワカミネに対する宣戦布告と混じって色々と面倒な状況が作られている。そこに口出ししようにも、見様によっては今生の別れと言えないこともない。
「ひーす君、あなたは、あなたという人はもう、なんでそう」
「殺されたときは仕方ないって事でよろしく頼む」
複雑といえば複雑な状況は、周りの声の一切を遮断した。時折聞こえる外の喧騒以外は、とても静かなものであった。
そこに答えづらそうに、意見がありますと手を上げる片眼鏡のお嬢様は、ひどく居心地が悪い思いをしていた。
「いやですね、私は簡単にそんな事で人を処分しないからね。非があるのは間違いないし、大した怪我してないから」
「馬鹿お嬢様は黙っていて下さい。あなたがどうと言う問題ではありません、あなたのお父様が問題なのです」
お前も大概だと、口にしたくなるような自然な暴言だが、壁外の才媛であるポーオレに言われるなら誰も否定できない。
この辺りは、教育係と言う建て前のある物であるから、ヒサシゲと違いさしたる問題はないのだが、血族に対して暴力を振るうということに対して、それ相応の意味を示さなければ、権威が傷つきかねないのだ。
ここは王領、企業国家であったとしても、頂点に座すのはやはり王様と変わらない。
そこを歪ませてしまえば、下はどうあっても上を甘く見る。この閉鎖された世界で、それがどれだけ致命的なものか分からないものはいないだろう。
そしてまだ平穏が続いてたかが、五十年程度の時間しか経っていないのだ。元々薄い均衡で成り立つ、外界から途絶された世界は、多少の歪みさえも破綻の可能性を残す。
その要因となりかねない事態であるとも言えるヒサシゲの行為に、差別は市内が苛烈なほど厳しい支配者であるラディアンスの父が許す筈もないのだ。
未だ上では派閥闘争も当然のように存在し、ほかの要塞列車の後継者たちと緊張状態が続いていない訳ではない。五十年程度で、その辺のことが消えるわけではない。
その状況に波紋を立てる行為を認める為政者が世界にいるのなら、それを暗愚というのだ。
「皆が黙ってくれてればいいだけじゃない」
「人の噂に戸を立てられないのは、世界が証明し続けています。あなたは自分の重みをまだ理解していなかったのですか」
「いやいや、ポーオレさん。気にしなくていいって、どうせ遅いか早いかの内容だったんだ」
彼女が心配しているのはそういう事じゃない。
止まらなくなる。それが一番恐ろしかった、ヒサシゲは前を向いていて歩き出す。そうなった時、ただ早く、遠くを目指し出す。
その時ぽつんと一人立ち尽くす彼女が、彼に手をかけられるのか、その時置いてきぼりになる自分が思い浮かんで泣きそうにすらなる。動き出させてはいけないと、ポーオレに確信させるだけの愚直さがある。
根っからの開拓者である彼は、誰も進んだ事のない無人の野を賭ける事に躊躇い等ない。その姿が彼女にとっては、身近であり最も感じ続けがトラウマじみた恐怖。
「――――っ、あな」
衝動的に叫びそうになる彼女の感情をヒサシゲは全て無視して首を横の振る。
「ポーオレ、あっちが売ってきた喧嘩だ。買う事なんざ大した事じゃない」
「買わないで、お願いだから。なんで私の所為で、エースの首飛ばさなきゃいけないのよ」
「いや、電気椅子だろう」
冷静な指摘であるが、そんな情報を知っても特にこれから利益がある訳ではない。
自分の所為で憧れていたエースの処刑が決まるなんて、普通に考えて嫌に決まっている。なのに、どちらかと言えばそれに乗り気であるエースがラディアンスの思考を混乱させる。
「いやですね、流石に私が大声で嫌がれば。お父様も諦めますよ、後遺症があるわけでもないから服役とかですみます」
「それほど甘いかはわからんが、服役と死んでもゴメンだね。俺は半年経てば西域を開拓する、これで意外で時間を使う暇はないんでな」
「刑期を終わらせてからでいいじゃないですか。それほど変わることじゃないでしょうヒース」
それでもやっぱり彼は横に首を振る。
分かっていた事ではあったが、やっぱりヒースはヒースのままだと当たり前の事を思う。周りはなんと思うだろうかこの彼の態度を、まるで現実を介していない夢想の愚か者とでも例えるかもしれない。
「冗談じゃない。なんで、俺がクルワカミネの都合で生きなくちゃいけないんだ。俺からペナダレンを奪っておきながら盗人猛々しい」
ヒサシゲがこう言いだしたら、もう誰の言葉も意味がない。
この彼を黙らせるには、力尽く以外の選択肢は今まで存在しなかった。だがそんな彼がどれだけ殴られようとも諦めなかった一線であるなら、全ての努力が無駄になっていた。
そして今回は、それに関係するものであった。
いつもいつもこんな事でヒサシゲに迷惑をかけられて、ポーオレは結婚の機会を逃し続けてきた。
我が儘ばかり言う、子供とさして変わらない男。いっそ捨ててやろうかと何度考えただろう。一体ヒサシゲの何が魅力なのかわからないと言うのに、誰かに盗られるのだけは許せなかった。
だがいつも奪われる。よりにもよって夢なんて言葉で、自殺志願の戯言にポーオレは振り回され、欲しい男を奪われる。
胸焼けのする様な苛立ちを感じながら、荒れる自分の心を冷静に見物するようして、一息呼吸を落ち着けると、テーブルを殴りつけた。鉄製のテーブルがひどく鈍い音を立てながら歪む。
「知った事ですかそんな事、私が嫌だと言っているんですヒース君。新婚旅行前だというのに、新妻放ったらかしてどこかに行こうとしている夫は殴られたって殺されたって仕方ないんですよ」
「なんですかその理解不能な理論は、新婚旅行とか新妻とか夫って。ポーオレか、あのふざけた噂をばら撒いたのは」
「そうですよ。そうしておけば、取り敢えずあなたの行動を掴み易いですからね。都合がいいと考えました」
西域開拓について行くとは心中の様な行為だ。彼女からすればその程度の決意をするのは当然の事であったが、どこか浮世離れしているヒサシゲには、だからどうしたと思うようなことなのだ。
日常で決まってしまった当たり前に対して、疑問を抱く人間なんていないのだから当然のことだろう。
「お前も俺の邪魔をするんだな。最大の難敵だとは思ってたけど、仕方ないか」
「余裕の口ぶりですね。今回ばかりは逃しませんよヒース」
ヒサシゲのこの感覚は、はっきり言って正気とは言い難いだろう。
西域に向かう事に対して欠片の疑問も抱かない。それはペナダレンを奪われてからいっそう顕著になった。
少なくとも今までなら、ポーオレの怒りを読み取って冗談で済ませるぐらいの事はしたはずなのだ。
けれど今となってはそれすらない。
完全に意識の方向が定まってしまっている。だからこそ彼女はより苛立つのだろう。
ヒサシゲは前を見て走り出した。彼女は自分からヒサシゲが離れていく事を理解する。誰より近いから、その事実に納得してしまう。
それをさせない方法は、きっとついて行くか、一生飼うかのどちらかだ。
前者は難易度が高すぎる。後者は現状では最も容易い方法だ。夢ばかり見て現実を見ない大馬鹿者には、少しばかり頭を冷やす時間が必要なのだと、ポーオレは確信していた。
怒りを吐き出し振り下ろされた拳によって歪んだテーブルも、全てはヒサシゲの所為であり、自分を何一つ大切にしない彼に対する不満の表れである。
「そうだな、きっとそうなる。それに、クルワカミネ如きで俺がどうにかなるか、俺をどうにかできるのはお前か、あれぐらいだ」
「それにしては余裕がありすぎると思いますがヒース。私に追い込まれてどうにかなるとでも」
「ま、そりゃなぁ」
どうにかしてしまうだろう。
その余裕よりも、すでにもう準備は出来ているのだろう。戦力だけならヒサシゲの方が上である。
単一結晶を握ったのなら、次の行動は見て取れる。それにたいして彼女が対応出来るはずがない。この世界でたった二人しか存在しない技術だ、感覚だけで判断して完全に結晶を把握する行為。
何度試してもポーオレは出来なかった。そんな代物である。ただの戦力において、勝てるものは、簡単に存在しない。不意打ちなどならともかく、それ以外の方法ははっきり言って不利にしかならない。
「まさか接触反応で私を甚振るつもりですか、この忘八者。男なら女の一つや二つ受け止めなさい」
「しないから、大体なお前しかいないんだけど受け止める相手」
「そんなこと当たり前です。私以外にそんな事をするなら、どうなるか分かっているでしょうねヒース」
「理不尽過ぎるよポーオレさん」
もはや言い掛かりレベルの暴言だが、つい口を挟んでしまうぐらいには、ポーオレの言動は支離滅裂ではあっただろう。
だがそうやって会話に割ってはいる事によって、ラディアンスは痴話喧嘩の渦中に無理矢理飛び込む事になる。極限まで停止に近い冷気をまとったポーオレの姿に、やってしまったと自分の失態を嘆くが、今更そんな事をご自由にと言うわけにも行かない。
「流石にちょっと落ち着こうポーオレさん、どう考えたって理不尽だし、なによりね、私の所為でもあるからおとがめなんて」
「冗談を言っている暇はありません。まさかここで、本来なら重大監視対象を逃がすつもりですか」
「ポーオレさん多分だけど、あなた限定だから、どう考えたってポーオレ限定の監視対象だから」
ここで口を挟む者はいなかったが、壁外の彼の所業を知っている人間ならポーオレが正しいと言うだろう。
どう安く見積もっても、監視を用意しなくてはいけない程度にはヒサシゲは危険な男だ。しかしどう考えても今回ばかりは、ポーオレのは七割以上が私情というやつだろう。
「お嬢様教育ですが、あなたの憧れの人物ですが、決めたら止まらない大馬鹿者です。
何より一番の問題はヒースは、敵に対して容赦しない性格であり、こう言いだした時には既に勝ちの道筋を立てている時です」
「付き合い長いとすぐにバレるか、それに俺の欠点も把握済みだろう」
「欠点」
あくまで余裕を崩さないのは、七割ハッタリだがそう思ってもらえれば困らないし。
そうじゃなくてもさしてヒサシゲは困らないからだろう。ここで困るのはやはりラディアンすだけだ、だがそれを聞けばきっとだが彼女は嫌な顔をする。
「そこの男は、強情で頑固で我が儘で、欠点には事欠かない人物ですが、私にだけは暴力振るわないんですよ」
ふざけた話だが何より痛いのは、ヒサシゲはどういう状況下にあっても、ポーオレに対して直接的暴力が出来無い所にある。
「もうこれ以上のノロケはいらないよ。私はここで起きた事は知らないから、もう二人でやってよ」
「それはダメですよ。ヒサシゲを監禁しないといけないんですから、一度ちゃんと話をする機会が欲しいですし」
「何でそんなに発言が怖いかな。前にも思ったけどポーオレの言動は、なんか愛情が深いと言うか重いと言うか」
溜息が出る。
惚気けは出てくるし、何かと発言がいろいろとアレな知り合いに少々疲れてしまうが、彼女は余裕があり過ぎたと言えるだろう。
ここにいる人間の中で、随一の行動力を持った男が黙っている時など、悪巧みを考えている時ぐらいのものだ。ただ視線をポーオレから外す事もなく、じっと状況を定めつつあった。
いやこう言うべきだろう。さらに己の状況を悪くさせる方法を模索していたと。
「それ以前に物騒すぎる。大体な、なんで俺がそんな面倒な事をする必要があるんだ。やると言ったらやるんだよ、誰に邪魔されたって変わりはしない」
「状況を悪くさせるような事を言わないそこの人。ファンだってね、失望させられる様な事をしたら、数の暴力でアイドルだって甚振る物なんだよ」
「知らんよそんな事、俺は邪魔されるならたとえ自分を庇ってくれてる人間だって使うぞ」
いつの間にかラディアンスの近くにたっていたヒサシゲは、楽しげに笑っていただろう。
何をしでかすかわからない大馬鹿は、そこで予想したくない暴挙に出る。
直感的にそのことを判断したポーオレは、全力でヒサシゲを殴りつけようとするが、会話に一度でも集中してしまえば、誰だって何かをするに決まっている。
「そこのバカ二人、ヒースを止めなさい。そこのお嬢様にこれ以上の何かをします」
「いきなり言われても」
「無理に決まっているでしょうが」
その言葉のあとに、その男は確実に何かをやからした。
まるで何かに包まれるように、ポーオレの拳は力を失いヒサシゲを捉える事が出来なかった。反発因子の所為だろうが、一度でも攻めの機会を与えれば、彼ならこの程度はやってのける。
防御は紙だが、攻撃だけなら随一と自負している理由はこの辺だ。
しかしそんな事を考える事すら出来ない程に、ポーオレは別の感情に染まっていた。
「ヒース君、あなたは何故そんな事をしているのですか」
「いや、ずっと考えていたんだよ。どうやったらクルワカミネに、いやペナダレンを奪おうとした奴ら全員を困らせられるかって、ならこれが一番だと思ってな」
「そんな事はどうでもいいんですよ。なんでそこのお嬢様を抱きしめてるかと聞いているんです」
「ポーオレさん、明らかに私人質になってるよ。大事なのはそっちじゃないと思うけど、この二人絶対おかしいよ、視点が明らかにブッ壊れてるから」
納得してしまうが、それに対して介入出来る程、ほかの人間は変人ではない。
百年の恋も覚めそうなものだが、どうにもそういう事もない様で、ポーオレは確実にいつもの調子を忘れて嫉妬で顔を真っ赤にして怒っていた。
なにより、そのポーオレを見ながら、平然とクルワカミネの次期後継者を人質に取るコイツの性格が問題だ。ただ嫌がらせのためだけにやっている可能性すらある、この愉快犯はただ迷惑和をかけるだけの行動をとった。
それが命に関わる事だろうが知った事ではないのかもしれない。
敵対してはいけない理由が誰だって分かるだろう。この二人は、似た者同士というより、同じぐらいに変人と言われて仕方のない性格をしている。
関わるだけで、迷惑がほかの人間に飛び火するような、そんな存在なのだ。
「じゃあポーオレ、俺は西に向かう準備をするから、どこかの能面男に人のもの奪ってただで住むなと伝えおいてくれ。あとは娘は預かった、返して欲しくばビーフジャーキーに一生改名しろって言っておいてくれ」
「まって、待ってお願いだから。どう考えたって要望と行動が釣り合っていないよ。というよりビーフジャーキーに改名させられるために、誘拐される私が報われない」
「嫌がらせできればそれでいいから。相手が嫌がるなら、それが一番の幸せだ。それにお前もクルワカミネだろう、ならなお前にも嫌がらせになるだろう」
無茶苦茶だった、本当に彼は嫌がらせしか考えていない。
ペナダレンの事を出さないのはきっとだが、自分で奪い返す為だろう。こんな馬鹿だが、要塞列車世界において、重大すぎる暴挙もあるまい。
既に次の支配者として認証された彼女以外が、このクルワカミネを完全に動かす事が出来るのに、この世界を人質にとったような行為であるはずなのにビーフジャーキーである。
「ビーフジャーキーの娘さん、あれが約束守ったらちゃんと返してあげるよ」
「嫌だ、この人最低すぎる。ファンだったのに、なんでこんなに」
「お嬢様、言っておきますがヒースに手を出したらどうなるかわかっていますね。スルメに改名してもらいますよ」
酒の肴にしかならない名前ばかりに、同じような価値観を二人がしている事を納得するが、そんな名前に改名されては威厳以前に人として恥だ。
触れるな、近寄るな、関わるなとは、壁外もよく例えたものだ。無茶苦茶な事を平然と言い続ける二人に、壁外出身のエース達は背景に徹することを心に誓った。
「ま、気にすんなそっちは、俺は言っておくがポーオレ以外に恋愛感情は抱いていない。それにお前だけで十分だろう」
「わかっています。ただ、私がそこのビーフジャーキーの娘に脅しをかけているだけです」
「はい、はい、じゃあ、勝負と行こう。
敗北条件は俺がクルワカミネを旅立ったとき、ポーオレがペナダレンに乗っていたら俺の負けでいいか。それかクルワカミネに捕まった時、それが妥当か」
はいと頷くポーオレは、何故か嬉しそうに笑っていた。
先程から事あるごとに惚気る二人だが、なんで私はこんな事に巻き込まれたのだろうと、疲れきっていたラディアンスは、今日行った行為の全てがきっと間違っていたのだと反省していたが、後悔は先に立たないから後悔と言うのだ。
「巻き込まれる私は最悪ですけどね」
「知ったことじゃない。お前のオヤジが勝手に人のものを奪うから悪い。喧嘩を売られりゃ買うのが花ってものだろう。どこかの古典で言ってたじゃないか、火事と喧嘩は華ってな」
「両方、巻き込まれたら面倒極まりないとですけどね」
「分かってるなら私を巻き込まないでよ」
知るかと二人して言いやがる。
同時にもう諦めるしかないことも理解した。疲れきった息が、彼女はから何度も吐き出され、好きにしてと諦めた。
しかしそこに疲れをさらに増大させる発言が重なる。
二人からすれば、いつもの会話なのだろうが、巻き込まれて初めて聞かされる人間には、きっとふざけた言葉だっただろう。
「そういえばポーオレさんや、結婚してくれるか」
「死んでもゴメンです。常識を考えてから、再度申し込んでください」
「そりゃ残念だ。じゃあまたな、ビーフジャーキーの改名楽しみにしている」
また振られたかと、困ったように笑うヒサシゲは、当然ですと言い返すポーオレの言葉に一度うつむいた。
悩むだけ無駄なふたりの関係だが、ラディアンスにとっては止めのような言葉出会ったのは間違いない。
「もう嫌だこの二人、誰か、誰でもいいから助けて」
震える嘆きの声を受け取るものは誰もいない。
関わり合いになりたくないのは、誰もが一緒である。
なによりヒサシゲはもう動き出した、こうなってしまっては捕まえられる人間は、コルグートぐらいの物である。加速因子の発生による曲芸じみた軽業は、一瞬にして二人を見失う程の代物だ。
物理的に逃げを打つヒサシゲを捕える事の出来無いポーオレは、ただ策を打って捕獲する事しかできない。だからそれをゆっくりと見て、くるりと傍観者二人に笑顔を作っていう。
「さて二人とも、これからヒースを捕まえるので、ご助力お願いできますね。誘拐犯を捕まえないといけないので」
それを断る事が出来るものなど、きっとこの世界にはヒサシゲぐらいしか存在しないだろう。
執筆BGM
高橋優 こどものうた 絶頂は今 素晴らしき日常
Village People GO WEST




