まんぞくなカフェ
一体、私はコーヒーをすすることにした。コップのフチに口をつけ、ズズッと音を立てながらすするコーヒーは何とも美味しく感じられた。豆がかもし出すとくゆうのみりょくによいしれた。店内はひどく静かで、マスター以外の人間はこの店の中には一人もいない。店の中の音楽はせいひつなオルゴールが流されており、よりいっそう、コーヒーの美味しさがきわだっていた。
「ああ、おいしい。」と私が一言つぶやくと、マスターは手を止めこちらをちらりと見やり、口角を上げる。が、すぐに元の作業にもどる。こんなに客がいない中でやるべき作業が残っているのかわからなかったが、実際にカップを布でふいている所を見るに、残っているんだろう。
メニューを広げて見てみると、卵をはさんだ、レタスをはさんだ、とまとをはさんだ、ハムをはさんだ、みずみずしくにくにくしい、うまそうなサンドイッチの写真がある。私は手を上げマスターにこのサンドイッチを注文しようとした。
コーヒーのおともきくうふくをみたそうとしたのだ。この大きすぎず、小さすぎないちょうどいいサイズのサンドイッチが私には合っていると思った。
ただ一つだけ困ったことがあるのだ。このサンドイッチの名前が分からないのだ。いやごへいのないように言っておく。正確には分かるのだが、この名前であっているのかが分からない。
写真の下には、『パッカローニ・メッソ』とかかれている。果たして、このサンドイッチの名前なのだろうか。私はひどくこんわくした。
一人でなやまず、マスターに聞いてみるということだってできる。ただ私はこう見えてかなりのみえっぱりなのだ。名前を知らないということを知られたくなかった。だから私は強く出ることにした。誰にだ?ほかでもない自分に。
「すみません」と一言かけると、マスターはカップをおき、こちらに足早に歩みよってくる。コツコツ、マスターのくつが床とこすれ合う音が、店内に静かにひびきわたり、オルゴールの拍を取っているようだった。
「このパッカローニ・メッソを一つ。」なるべく発音で知らないということがバレないように短く告げた。マスターは少しばかりの間をあけて首をたてにふり、カウンターの中へとひっこんで消えていった。
「注文は通ったのだろうか。」と小さくつぶやくと、マスターはこちらを見ながら小さくうなずいた。一体何故喋らないのだろうか。マスターはかもくだ。この店だって私以外の客が入っているのを見たことがない。
もっとも今日来たのが初めてだった。
私がレッサーパンダだから、どうせ言葉などわからないだろうと、あなどられているのだろうか。全く、とため息を吐いた。
なんて思っていると、入り口のベルがカランカランとけいかいな音を立てる。私が入店したときも、なった。
「いらっしゃい。」とマスターが口を開く。
なんだあいさつしやがって、私のときはにこやかにほほえんだだけだったのに。くやしがる。
だが客をみるとなっとくした。ぼうしをめぶかにかぶり、もう春だと言うのにコートをはおってやがる。毛皮があるというのに、ずいぶんと寒がりなやつだ。
しかしぼうしとこーとをぬぐと、何と、彼はマーモットだった。それならばいたしかたない。マーモットならばあいさつされて当然だし、コートをきているのも当たり前だ。
マスターもマーモットだからこそあいさつしたのだろう。
ほどなくして、マスターが小皿に乗せた「パッカローニ・メッソ」をしんちょうに持ってくる。湯気がまいあがる。「パッカローニ・メッソ」はとても美味しそうで思わず私はかぶりつく。とても美味しい。
マーモットはれいろうな声で、「コーヒーと、ラモンデニタシュを。」とマスターに注文した。
なるほど、さすがはマーモットだな、と私はそんけいしたのだった。




