第42話 利用と選別
狼のような鳴き声が、夜を裂いた。
低い。
喉の奥で擦れる音。
次の瞬間、人の掛け声が飛ぶ。
「倒せ!」
「押せ、今だ!」
荷台が横に跳ねた。
右へ。
左へ。
木枠が軋む。
身体が持っていかれる。
「もう一回!」
衝撃。
車体が傾き、そのまま横へ崩れた。
荷が跳ねる。
木が軋む。
俺は床に叩きつけられた。
「……っ」
ミレイアの身体が滑る。
腕を伸ばして引き寄せる。
息を呑む音。
外から怒鳴り声。
「出ろ!」
狼が吠える。
近い。
商人が先に這い出る。
「な、何だこれは!?」
俺も外へ出る。
冷たい夜気。
松明の火が揺れている。
正面に、人。
八人。
その横に、狼が数匹。
首輪の金具が光る。
道を塞がれている。
商人が叫ぶ。
「お前ら……!」
笑い声。
「やー、ごめんごめん」
レヴァルが前に出る。
変わらない笑顔。
「利用させてもらったよ。助かった」
顎で商人の荷を示す。
「目的はこっち。荷物、置いてって」
バルクスが荷を抱え、走ろうとする。
影が前に出た。
ヴァルシア。
身体は震えている。
けれど足取りは軽い。
「もう、抑えなくていいよー」
短剣が閃く。
一瞬。
商人の足が崩れる。
遅れて悲鳴。
セルヴァンも倒れる。
狼が低く唸る。
レヴァルが肩をすくめた。
「走られると面倒なんだ」
商人が呻く。
「金ならやる! だから――」
レヴァルが頷く。
「うんうん。金も貰うよ? もちろん」
軽い声。
「でも一番は荷だ」
男たちが商人の荷を奪う。
袋を裂き、中身を確かめる。
金も抜く。
無造作に。
俺は袋に手を入れる。
銀貨を掴み、前に投げる。
「……これでいいか」
レヴァルが俺を見る。
「そんなに持ってないよね?」
足元の銀貨をつま先で寄せる。
一拍。
「先行ってるから。ヴァルシア」
その言葉で、外の四人とゼルドらが動く。
商人を引きずり、荷を抱え、闇へ消えていく。
悲鳴が遠ざかる。
残ったのは、俺たちとヴァルシア。
レヴァルが振り返る。
「ユイ、だっけ」
目が細くなる。
「気づいてた?」
ユイは何も言わない。
レヴァルは笑った。
「匂い、変えてた事を」
返答を待たない。
「ま、いいや」
背を向け、闇へ消える。
静かになる。
松明の火だけが揺れる。
ヴァルシアが、ゆっくりこちらを見る。
震えが止まらない。
獣のような目。
ミレイアの膝が折れた。
腰が抜ける。
ユイの手が俺の袖を掴む。
強い。
引く。
動け、という力だった。




