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支配と理解  作者: 御中御庭より
2章 東国旅編
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第39話 道標と逸脱

朝の空気は冷たかった。


火の残り香が、

まだ布に残っている。


馬車が動き出すと、

揺れが身体を起こしてくる。


歩くより、ずっと楽だ。

それだけが、はっきり分かる。


ユイが水袋を一度だけ触った。

残りを確かめるみたいに。


何も言わない。

そのまま戻す。


道は続いている。


轍があり、

草が踏まれている。


迷う感じがない。


レヴァルが前から声をかけてくる。


「寝れた?」


軽い。


ミレイアが頷く。


「うん。ちょっと寒かったけど」


その言い方が、

どこか楽しそうだった。


ゼルドが短く言う。


「朝は体が固い。

 転ぶなよ」


それだけ。


商人二人は今日も口数が少ない。


バルクスが、

荷の角を直す。


セルヴァンが、

それを見て頷く。


道具の音だけが会話みたいだった。


昼に近づくほど、

陽が強くなる。


影が短くなる。


馬が鼻を鳴らす。


レヴァルが、

馬の首を軽く叩いた。


「よく走る」


ヴァルシアが手綱を握ったまま、

小さく息を吐く。


震えはある。

でも、止まらない。



ゼルドが、唐突に言った。


「知ってるか。

 この辺り、夜になると獣が寄る」


昨日の匂いが、

ふと頭をよぎる。


柑橘。


ミレイアが、

窓の外から目を離してゼルドを見た。


一瞬だけ。


そのあと、

何も言わずに視線を戻した。


俺は、その動きを追わなかった。



道の先に、

小さな街が見えた。


建物が低い。

煙が上がっている。


レヴァルが言う。


「ここで一回、馬を変える」


当たり前みたいな口調。


ゼルドが続けた。


「疲れた馬で夜を越えるな。

 事故る」


商人二人が、

その言葉だけは聞いていた。


街に入ると、

匂いが変わる。


干した草。

焼けた油。

馬の汗。


馬車は、広場の端で止まった。


人が寄ってくる。


手綱が渡され、

馬が連れていかれる。


レヴァルが伸びをする。


「今日はここまで」


軽い声。


でも、言葉は切れていた。


「ここから先、夜になると特に危ない」


笑って言うのに、

目は笑っていない。


「無理して進まない」


ゼルドが、淡々と足した。


ユイが頷く。


「分かった」


柔らかい声だった。


ミレイアも、

小さく息を吐く。


「休めるね」


俺は、何も言わなかった。


止まれる理由がある。

それだけで、十分だった。



この街の空は、まだ明るい。


それが、

少しだけ不安だった。

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