第34話 噂と聞き込み
朝は静かだった。
宿の下に降りると、
昨日の賑わいが嘘みたいに、
通りは落ち着いている。
ユイは、外套を整えながら言った。
「別で動く」
理由は、すぐ続いた。
「調べ物があるの」
俺は頷いた。
ミレイアも、
特に不満は言わない。
「夕方に戻る?」
「そのつもり」
それだけで、
ユイは人の多い方へ向かった。
背中は迷っていない。
ミレイアと二人で、
露店の並ぶ通りに出る。
昨日よりも、人が多い。
声が交差して、
匂いが混ざる。
「ねえ」
ミレイアが、
近くの男に声をかける。
「王都って、どのくらい遠い?」
男は一瞬考えてから、
肩をすくめた。
「歩き?
やめとけ」
それだけだった。
別の店。
年配の女が、
布を畳みながら言う。
「遠いよ。
でも、行けない距離じゃない」
言い切りはしない。
「ただね、
途中で嫌になる」
理由は語られなかった。
酒を並べている男は、
少し違うことを言った。
「馬車があれば、
どうにかなる」
「今は?」
「時期が悪い」
それ以上は、
口を閉じた。
王都の話になると、
空気が変わる。
声が下がる。
「規律が厳しい」
「細かい」
「息が詰まる」
誰かが笑って、
付け足した。
「優秀なやつは、
王都から出てく」
冗談みたいな口調だった。
だが、
誰も否定しなかった。
昼を過ぎても、
話は揃わない。
距離も、
日数も、
危険も。
言う人によって違う。
はっきりしているのは、
一つだけだった。
「歩きは、勧めない」
それだけが、
共通していた。
夕方。
ユイが戻ってくる。
疲れた様子はない。
だが、
少し考え込んだ顔をしている。
「どうだった?」
俺が聞く。
「今日の分は、こんなところ」
曖昧な答えだった。
「明日、
もう少し深く聞く」
断定でも、
期待でもない。
「今日は、
情報が散らばってる」
俺は頷いた。
ミレイアも、
納得した顔をする。
日が落ち始める。
街の色が、
昨日より濃い。
「明日だな」
俺が言うと、
二人とも頷いた。
今日は、
ここまで。




