第1話 少女の罪
きっと、誰かのために生きるなんて私には過ぎたことだったのだろう。
覚悟でも決意も、誰かのために生きるために必要なものではなかった。
風が、私の背中を押しました。
(過去)
「もう、高校生だってよ、私たち」
桜が舞う四月の少し前。ろくでもない季節だと、私は思う。
桜、邪魔だよ。変な匂いもするし。
「ちっちゃいよな」
なんとなく馬鹿にされたように思った私は、隣を歩いている海斗を肘で小突く。
「痛っ、暴力反対だって」
「これは、罰よ!」
これからも、私たちってこんな感じなのかな、と思いながら、新品のスニーカーで道路の花びらを踏み潰さないように歩く。
「あんたと一緒のクラスじゃありませんように!!」
冗談のつもりで、私はそんなことを言いながら手を合わせた。
「絶対に、一緒のクラスでありますように!!」
私と同じように、海斗は手を合わせた。
「せっかくの貴重な男子の枠を、海斗に埋められるのはもったいないんだから、絶対来ないでよね」
すると海斗は、少し上を見ながら、「俺達幼馴染じゃん」と返してくる。
そうだ。
本当に、幼馴染すぎる、というべきだろうか。
私も海斗も、家が近くて、幼稚園からずっと一緒だった。
私たちは、あんまり勉強が出来なかったので、高校まで一緒になってしまった。
まあ、友達を作るのが苦手な私からしたら、結構助かることではあったのも、事実だ。
桜がひらりと舞い、わざわざ私を避けて地面に落ちていく。
「マジで、こんな近いところに高校があってよかったよな〜」
まあ、それはそうだな。徒歩で、一〇分しかかからない。
他の高校に行った中学の同級生たちは基本、電車での通学を余儀なくされているわけだ。
その分、きっと友達と遊んだりするお金が増えたと考えれば、きっといいことなのだろう。
「それは確かにそうだよね」
きっと、私と海斗では歩幅も違うだろうけど、彼は私の小さな歩幅に合わせて、てくてくと隣を歩いている。
すると、ふわりと肩に花びらが乗った。
私は、なんとなく彼の肩に手を伸ばした。
が、その前に彼がそれに気がついたようだ。
私は、すっと手を引いた。
「あれ、取ってくれてもいいんだよ」
彼が私の方に体を傾けてきた。
「なにそれ、わかったよ」
といって、私は強めに彼の肩をひっぱたいた。
パン、という小気味いい音が鳴り響き、そのついでに彼の肩に乗っかっていた花びらがひらりと地面に落ちていった。
「痛っ、暴力は駄目だよ。もう、高校生なんだし、」
「うっさい!」
海斗の方こそ、高校生になったのだからもっと真面目になってほしいものだ、と私は内心つぶやく。
風が吹く。
私は制服のスカートを両手で抑える。
強めの風が、パタパタと彼の体に密着しているシャツと、私のスカートをはためかせる。
そして、風が止むと、少し遅れて桜の花びらがこちらに舞ってくる。
ほんと、めんどくさい季節だ。
段々と、私たちの周りを歩く同じ制服を着た学生の数が増えてくる。
その中に、男女で登校している学生なんてものは、ほぼ零に等しい。つまり、私たちだけなのだろう。
ちょっと恥ずかしい気もするけど、でも、別に私たちはただの幼馴染なんだから。
「ちょっと、端によろうぜ」
海斗が無理やり私を道の端に寄せてくる。
彼の体に押されるがまま、私は端へ寄り、また二人横に並んで学校に向かって歩き出した。
海斗は、少し周囲の様子を気にしているようだった。
「そういえばさ、私たちの他にもオナ中の子いたっけ?」
海斗は「へ?」と言って私の方に顔を向けたあと、思い出したかのように前を向いて歩きながら、「何人かいたと思うよ」と言ってきた。
まあ、それなら心強いか。
高校の校門だ。別に、中学の時と大して変わりないけれども、それでもまだ入学式の残り香が意図的に残されている。
新入生を歓迎する、紙でできた花がついたアーチ。看板。それらを今は、桜の花びらがほんのりと彩っている。
「あ、でっかく張り出されてるじゃん」
昇降口の前に黒板があり、そこに新たなクラスが張り出されていた。
いよいよ、私たちは高校生になるのだ。
まあ、入学式はもう少し先だけれども。
「名前あった?もしかして、不合格だったとか、」
少し遅れてやってきた海斗が、そんなことを言うので、今度は彼のみぞおちに肘を入れる。
「ゴホッ」と言って、海斗が腹を抑える。
「縁起でもないこと言わないでよ」
私は新たな春の始まりに期待を寄せる烏合の衆の中から、なんとか背伸びして、紙に自分の名前がないか確認する。
もちろん、合格の証書みたいなのが届いたのだから、これで不合格でしたなんていうのはあまりにもひどい話だ。
「あのさ、海斗はそっちの方を見てよ。こっちに名前がないか確認するから。あったら教えるから」
そういって、一旦二手に分かれた。
そして、できれば肉眼で自分の名前があることを確認したかったが、他の人にも迷惑がかかるといけない、と思い、手を伸ばしてスマホで写真を撮り、写真の中から探し出すことにした。
私は、一度人混みから離れて、自分の名前がないかスマホの画面を拡大する。
が、見当たらない。
どこかで見落としたんじゃないか、と二周目に突入しようとしたところで、少し離れたところから海斗がやってきた。
「あれ、見つかったの?」
すると、海斗は嬉しそうに私にスマホの画面を見せてきた。
「ほら、俺の名前の隣に、」
・・・私の名前だ。
「俺達一緒だってよ。良かったじゃん」
私はスマホから顔を上げて、彼の顔を見た。
ちょっと照れくさそうに、少し後ろの方を彼は見ていた。
ほんと、ここまで一緒になるものなのか。神のいたずらだな、と思った。
「また一緒なの?まあ、じゃあ、よろしく」
私は、彼のスマホを握っていない方の手を握り、よろしく、と手をブンブンと揺らした。
「痛いって。また暴力じゃん」
そう言いながらも、彼は別に抵抗してくるわけではなかった。
「そんな力入れてないもん」
そんなことを言いながら、私たちは同じ教室に入っていったのだ。
(現在)
ザーッザーッザーッザーッ
ゴォォォォォ……ッ、 ゴゴゴゴゴゴ……、
「暇なら私と来てっ、壊れた世界を探っ検っ、時代の危機が迫るっ、稀代の事態になるっ」
私は、なんで、あんなことを。
この重苦しい世界に、私なんてものは必要ないと思った。
いや、それすら良く言い過ぎかもしれない。
足が震える。
今日はあいにくの雨だ。
ほんと、煩わしい。
雨が何かを洗い流してくれるわけがない。
きっと、もっと、汚されて、私は、・・・。
彼とは、あんなにずっと一緒だったのに。
絶望する資格すら、私にはない。
ただ、速やかに断頭台に上り、その運命を受け入れるべきなんだ。
ただ、
でも、
願わくば、またあの日に戻ってこれたら良いな、と思う。
いや、ダメだ。
私は、一歩踏み出す。
そして、もう一歩踏み出す。
それにしても、雨はすごいし、川もものすごい濁流と成り果てている。
そして次に、チャポン、という音が一つ聞こえると、世界は少し、静かになりました。
かなりの長編になる予定です。
よろしくお願いします




