とある戦士の話 1
モリス村にて
オラの名はヨサーク。 雷のヨサーク。
このモリス村じゃ、ちったー名の知れた大戦士だべ。
ちゅうても、一年前までは、おっ父と一緒に木こりをしてたんだべ。
ちゅうても、斧は危険じゃゆうて、木を切るのは大人の仕事ゆうて、斧は振らせてもらえんかったんじゃ。
ある日、おっ父がオラの肩を叩いてこうゆうたんじゃ。
「お前も大きゅうなったし、今日から斧、振ってみっか?」
当然オラの答えは決まっとる。 オラはおっ父の斧を受け取ったべ。
斧の振り方はとっくに知っとる。 毎日おっ父を見てたんじゃ。 じゃから迷わず斧を振り上げたんだべ。
したらば、オラの振り上げた木こりの斧に、雷様がご降臨されたんじゃ。
オラは三日三晩、気を取り戻さんかったらしい。
村長は、命があっただけでも不思議じゃゆうて、もう起きんかも知れんゆうて匙をなげたそうだべ。
んだども、オラは復活したんだべ。 魔力持ちとしてな。
魔力持ちのヒュームは貴重なんだべ。
村長も昔は魔力持ちの戦士だつって、迷宮でブイブイゆわせとったとかゆっとるんだども、ブイブイってなんだべな?
魔力持ちは、魔物を狩るのが仕事なんじゃゆうて、木こりはさせられんそうじゃ。
んだどもオラ、魔物なんぞ恐っかないもん狩るのは無理じゃゆうたんだども……。
ついこの間だも、村のお近くの御貴族様が、巨大化した魔物を倒しにでたとかで、村がその話で持ち切りになった事があったべ。
まぁ、御貴族様とか、ご領主様とかが、どえれぇ魔力持ちだとか聞いた事があるんじゃが、そんなお偉ぇ方なんぞ見た事もねえべ。
まぁこの間つっても、こんな田舎じゃ伝わるのが遅すぎて、何年も前の話かも知れんがの。
★
村長宅。 囲炉裏の前にて。
胡坐をかいて座るのは村長とオラの二人。
村長が火箸で囲炉裏の火を突きながら言う。
「魔物が狩れるようになったら、ワシの娘を一人、嫁にやろうではないか。」
村長の実子は6人。全員女だべ。
長女のイーワ(18)姉は、街のお貴族様に召されたとかで、もう村にはいないべ。
次女のイーシ(16)姉は、街のお貴族様の三男が婚約者とかゆうて、次の村長候補なんだべ。
三女のスーナ(12)は、オラと同い年なんだども、遠回しにゆうて、不細工だべ。
四女のアリノス(6)は、村長の後妻さんとの娘で、後妻さんに似て一番めんこいんじゃ。
五女のハチノス(5)六女のクモノス(4)おっ父曰く「あいつハッスルしすぎじゃ」とかいゆうてたけんど、ハッスルってなんだべな?
「したらば、アリスで」
アリノスは、自分の名前が嫌いじゃゆうて、「アリス」と呼ぶようにゆうて来るんじゃ。
顔をひくつかせ村長は言う。
「スーナが……ヨサークと同い年じゃったろ? スーナは許嫁もおらんし、ちょうど良いがの?」
村長がスーナを推してくるべ。
「スーナと、魔力持ちのヨサークなら、次の村長も任せられるかもしれん。その方がこの村のもんも、安心じゃろう。」
村長は魔力持ちが務める。 それが村の安寧を守るためなんじゃそうじゃ。
だから、ワザワザ街のお貴族様の三男が、次の村長候補になったちゅうことじゃ。
だども、街のお貴族様の魔力持ちの息子が、こんな山村に来るとは思えんのじゃが……。
とはゆえオラはスーナは絶対いやじゃ。
「オラもうアリスと恋仲なんじゃ。」
オラは真顔で嘘を付く。 何故ならスーナはブスじゃから。(ちなみにイーワさんとイーシさんも、スーナと似ている。)
ぷるぷると震えだす村長。
「なん……じゃと……」
顔が真っ赤になって、血管が浮き出している。
そう……村長はアリスを溺愛しているんだべ。きっと上三人がブスじゃった分、溺愛してるんだべ。
「将来を誓い合った仲なんじゃ。」
オラは真顔で追加の嘘を付く。 何故ならスーナがブスじゃから!(ちなみにイーワさんとイーシさんは、スーナよりゴツゴツしてる。)
「……嘘を……付け……」
ぷるぷる村長は、オラの嘘を見破った。
どないしよう。 嘘を見破られてしもた。
生まれてこの方、嘘なんぞ付いた事が無かったから、簡単に見破られてしもうたんじゃ……。
そもそもアリスは、まだ6歳。 恋だ愛だと言うわけもなし。それにオラもこの村じゃ恋など無理だべ。
「次の村長はイーシさんの旦那様がなるんじゃないのか?」
「ぅうむ……その事なんじゃが……」
その時じゃった! 天がオラに味方した!
「あ! お兄ちゃん!!」
オラを見つけたアリスが、ちょこちょこと歩いて来て、オラの胡坐の上に、ぽふんっと座る。
顔と顔が当たりそうなくらい近いべ。 いや、村長の角度から見たら当たってる様に見えてるべ……。
ぷるぷる村長が持っていた火箸がカランと落ちる。
「わ~い。遊びに来たの~?」
無邪気に笑いながら懐いてくるアリスは本当にめんこいんじゃ。
勿論恋などしとらんけどな。 妹みたいなもんじゃろ。
「よ~し分かった!! アリノスをくれてやろう! じゃが条件がある!!」
アリノスと呼ばれたアリスが不機嫌になる。
んでオラはスーナルートが無くなった事に歓喜してしもた。
じゃがこの歓喜がぷるぷる村長には、どう見えたのか……。アリスを娶れる事に歓喜したと思ったかもしれん。
ぷるぷる村長は大声で言う。
「アリノスは、そこら辺の木っ端魔物を狩れる程度じゃ、やる事は出来ん!」
スーナなら、木っ端魔物でもいいらしい。
アリノスと呼ばれたアリスがもっと不機嫌になる。
「……ドラゴンじゃ……アリノスが欲しければドラゴンを狩れるようになれ!」
ぷるぷる村長が何か無茶をゆいだした。
アリノスと呼ばれたアリスが更に不機嫌になる。
そしてアリスが叫んだ。
「なんでパパはそんな事を言うの! パパなんて大嫌い!!」
◆
説明しよう。
アリスは自分の事をアリノスと呼んだ事にご立腹であって、ドラゴン云々、恋愛云々は意味が解ってない。6歳だから。
だが、ぷるぷる村長はちがう、アリノスとヨサークの恋仲を引き裂く事に怒ったと思ったのだ!!
◆
ぷるぷる村長は泣きそうな顔になり、すぐに怒りの形相に変化する。
「アリノスちゃん……くっ……ヨサーク……魔王じゃ! アリノスが欲しければ魔王とドラゴンを狩ってこい!!」
無茶が追加された。
「パパなんて本当に大嫌い!!」
そう言って、オラに抱き着いてくるアリス。 「よしよし」と優しく頭を撫でてやる。 オラのほっぺに、アリスのほっぺがぷにっと柔らかい。
「アリノスちゃん……」
ぷるぷる村長は、残像が見えそうなほどにプルプルだべ。
その時オラはこう思った。
アリスと夫婦になる奴は大変だべ……と。




