とある赤ちゃんの話 続あかちゃんタイム
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動けないという事は、それ自体が苦痛だ。
その苦痛から逃れようとすることは、自然な事ではないだろうか?
五月蠅い隣人。出れない檻。開いている天井。そして動けないボク。 だから余計にこう思う。
『ここから逃げたい』
そう思った時、ボクは浮いていた。 そう……空中に浮揚していたのだ!
真下には、さっきまで泣いてギャンギャン五月蠅かった隣人が、まだ涙が残る瞳でボクを見ている。
今はキャッキャと喜んでいる。
小さな手と短い腕を伸ばし、ボクを捕まえようとしている。
でも、そんな短い腕で空中のボクが捕まるはずもない。
天井から吊り下がっているモビールに、ボクの手が触れる。隣人には、ボクがモビールの飾りに見えている?
その瞬間、ボクの身体は、隣人に引き寄せられていった。
いや、ボクがベッドにゆっくり落ちて行ったのだ。
横に落ちたボクの頭を、キャッキャと叩く隣人。
そして、ボクは猛烈な脱力に負け眠りにつく……次のオシメの気持ち悪さに気が付くまで……
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時は流れ……
あれから何度オシメを換えて貰ったんだろう……。7回?いや8回……?
人が居ない時を見計らっては、ボクは宙に浮き、今は移動まで出来るようになった。
そう、ハイハイより先に、HighHighを覚えてしまったのだ。
バブバブ言ってる隣人を置き去りにして、室内を探索する。
窓のガラスは固定されており、とても出れそうにない。 取り敢えず窓は諦める。
窓の反対には机があった。 机の上には、哺乳瓶なんかの赤ん坊用品が綺麗に並べられている。
左の壁には、大人5人の全身がすっぽり映りそうな【大きな姿見の鏡】があった。
鏡に映るのは、宙に浮いた赤ん坊――即ちボク。
黒色の右と銀色の左。
黒色の髪と瞳。
銀色の髪と瞳。
そして隣人と同じ顔。
大体は予想できたのだ。
隣人の双子であり、黒色の髪と瞳。
銀色の髪と瞳は予想外だったけど、アノ人を考慮すると、その可能性もあった。
鏡に対しカッコいいポーズをとる。
パッ、パッ。パパッ。ザン! 完璧。 だが迫力は皆無。赤ん坊だから。
鏡に対し隣人のようなポーズ『赤ん坊』をとる。こっちの方が似合っている。
このポーズは使いどころは少なそうだが、油断は誘える。 まさか【このポーズの赤ん坊】が一人で移動してるとは、誰も思うまい。
また親指を咥える事で、効果が倍増するだろう。
鏡の自分から目を逸らし、さらに奥を見ると、ドアが映っていた。
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ドアを少し開け、隙間からこっそり覗くと、隣の部屋があった。
大理石の床、真っ白な壁紙、そして重厚な感じのする岩の天井。 基本的な造りはこちらと変わらない。
その部屋は、こちらの部屋が質素に見えるような、豪華な家具に、豪華な寝具、豪華なシャンデリアがあった。
白を基調にした家具や寝具は、汚れると直ぐに目立ちそうだが、目だった汚れは無い。
ただ、室内は豪華ではあるが、誰一人いない。
最近ボク達の世話をしてくれるお婆ちゃんが居ると思ったけど……。
豪華な部屋の左側に、これまた豪華なドアがあった。
あそこから外に出られるのではないか? 確信は無いが、直感でボクはそう思った。
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廊下があった。
ボクが覗くドアの隙間から、左右へ伸びる廊下は、大理石の床と柱で作られており、何処まで続いているのか終わりが見えない。
今出てきたドアの対面は窓になっており、その窓からなら外に行けそうだった。
右か、左か、窓の外か? 窓の外は地面だが、覗けばここが二階だと察しがついた。
たとえ二階でも宙を浮くボクには関係ない……はずだ。 たとえ落ちても叩きつけられる事はないだろう……たぶん。
ボクは迷った。そして考える。
窓の外か? 窓の外ならば、木々なんかの隠れる場所は確保できる。
ただし、似たような廊下が続くのだ。外からこちらを見れば、似たような壁が続く可能性が高い。 廊下にいても現在位置が見分けづらいのだ。
外に出れば、ここに戻ってこれるか? 何度かチャレンジすれば、可能かもしれない。
外の景色を覚えては、戻るようにするか? いや。木の葉も枯れるのだ。一気に景色を覚えるのは困難か?
このドアに何かの目印を付けるか? そうだ。それが確実だ。
目印は何がいい?ある程度は目立たなければならない。でも目立ちすぎてもいけない。
目立たなければボクが分らない。それだと意味がない。
目立ちすぎてもいけない。撤去される可能性が高いからだ。
う~ん……とりあえず、ヨダレでも垂らしておくかな。
ボクの移動は、宙に浮き移動することだが、速度が早いわけではない。 むしろ遅いだろう。たまに来るお婆ちゃんの歩く速度より遅いのだ。
この速度で、障害物の少ない直線の廊下を移動したら、たとえ小さな赤ん坊だとしても、すぐに発見されるだろう。
では、ここでは赤ん坊が宙に浮いて移動する事が、一般的だろうか?
否。 隣人はバブバブ言っていた。きっとあれが赤ん坊の正しい姿だ。 少なからずボクが持つ一般常識では、赤ん坊が宙に浮くなどあり得ない。いや、人が宙に浮くなど怪しい宗教くらいだ。 断じて否だ。
ということは、ボクは怪しい宗教の者なのだろうか? 解らない。いや、だが、その可能性は高い。あの家族なのだ。そう考えた方が自然かもしれない。
怪しい宗教、空を飛ぶ乙女、人々から崇拝、対立する信仰、過激化する抗争、狙われる命。 ボクの安全が危険で危ない!
そうだ。だから、ボクの安全が確保されるまで、この事は隠さなければならないのだ。
では、ボクの安全の条件とはなんだ?
隣人の隣で寝て、食料を貰い、寝て、オシメを換えてもらい、時に寝て、宙に浮き、探索し、そして寝る。
こうした自由行動ができることだろう。
では、誰に見つかれば危険だ?
母親? いや、母親が危険な時点で詰んでいる。 それに最近は姿を見ない。
父親? いや、母親以上に姿を表さない。
仮面のヒト? 多分、父親の付き人だ。だから父親とセットだ。
おばあちゃん? 多分、父親や母親に報告されるだろう。 ただ、最近はこの人しか見ないので、対策はこの人だけで――
その時だった。
『何じゃコヤツは』
『赤子でおじゃる』
『赤子が宙に浮いておるぞ』
『だから最近の赤子は……』
その人達が何時からそこに居たのか解らない。何を言ったのかもボクには解らない。知らない言語だ。
ボクは後ろを振り向いた……
4色、いや4人の少女が居た。
ボクは彼女達の目を順番に見ていった。
赤、緑、黄、青。
いや、そこには誰も居ないはずだ。 少なからず、さっきは誰も居なかったはずだ。 人の気配さえ無かった。
だけど居る。そして居る者は仕方ない。
ボクは床までゆっくり下りて行き……ポーズ『赤ん坊』をとった。 そして親指を口に咥え
「ばぶ」
これで誤魔化せたはずだ。このポーズをとった赤ん坊は無敵なのだ。そして止めの一言「ばぶ」。
完璧だ。完璧のはずだった。
このタ…イミン……グで……眠く…な…計




