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エピローグ

「――というわけで、魔王さんのおかげでなんとか前に進めそうです。ありがとうございます。」


「そっか、それは良かった。

ねえ、このお団子もう焼けてるかな?」



2回目のプレゼンが終わってから更に1カ月が経った。


こだわりの強い清水さんと何度も打ち合わせをして小さな変更を繰り返し、清水さんの工房兼住宅はようやく最終のプランが確定した。


これからは実施設計となり、とにかくひたすらに手を動かして工事用の詳細な図面を仕上げていくことになる。


そんな内容を大まかに説明しお礼を述べるも、対面に座る魔王は焼き網の上のお団子に夢中になっている。


「まだ30秒くらいしか経ってないじゃないですか。そんなにすぐに焼けませんよ」


「でも表面が乾いてきた感じがするし、そろそろひっくり返してもいいんじゃないかな…?」


「焼き目がつくまで待ってくださいって、さっき店員さん言ってましたよ」


今回の件、困りきっていた私のために魔王が魔界の住宅ツアーに連れ出してくれた。


正直言うと全くもって期待していなかったのだが、魔界の個性的な建物達は思いの外たくさんのヒントを与えてくれた。


基本プランが決まった今、改めてお礼をしようと考え、少し前にオープンした和風のカフェに魔王を誘ってみた。


テーブルの上のミニ七輪でお団子を焼くスタイルは、魔王が好きそうだと思っていたのだ。


私の考えは正しかったようで、店に入った瞬間から魔王はずっと嬉しそうにソワソワしている。


「そろそろいいかな?ほら、もう焦げ目がついてる」


「本当だ。いい匂いがしてきましたね。

それで、その清水さんなんですが…魔王さん、聞いてます?」


「ああ裏面も焼かなくちゃ…!けれどこの待ち時間も楽しいものだなあ」


何度もクルクルと団子の串を回す魔王は、見たことないくらい興奮している。


喜んでいただけてなによりだけど、少しくらい話を聞いてほしい。


しかし魔王が話を聞かないのはいつもの事でもあるので、勝手に話を進めることにする。


「打ち合わせの際はいつも清水さんの工房にお邪魔してるんですが、毎回お茶を入れてくださるんです。


それで、湯呑を何気なく褒めたら『気に入ったなら持ってけ』って何個も頂いちゃって……」


清水さんの工房で使われている来客用の湯呑は、全て清水さん手作りの一点物だ。


有名な陶芸家である清水さんの作品は、ものによってはウン百万円の金額で取引されることがあるらしい。


清水さん曰く『そこら中に転がってる、価値のつかない駄作』らしいが、その言い分を真に受けて簡単に受け取る訳にはいかない。


かなり強めに遠慮したのだが、それを上回る押しの強さに負けて受け取ってしまった。


しかも遠慮する度になぜか数が増えてしまい、最終的には四客の湯呑を頂いた。


我が家にあるカラーボックスにカゴを入れただけの食器棚に収めるにはあまりにも貴重過ぎる逸品に、完全に持て余してしまっている。


「それで今日その内の2客を持ってきたんですが、良かったら魔王さん貰ってくれませんか?」


手元の紙袋から新聞紙で梱包した湯呑をテーブルの上に取り出す。


新聞紙を剥がし、淡い桃色の湯呑を魔王から見えやすい位置に並べた。


団子しか見えていないようだった魔王が、ようやく視線をあげ、湯呑を手に取ってシゲシゲと眺める。


「いい品物だね。

だけど、これはサクラに贈られたものでしょう?

僕が貰う訳にはいかないよ」


「大丈夫です。清水さんも人に譲ってもいいと仰ってましたから」


正確には、『多すぎる、一客で充分だ』と主張した私に対して、引くに引けない清水さんが『使わなかったら誰かにやるか、オークションにでも出してお茶代にすりゃあいいんだ』と言ってきたのだが。


その日同行していた上司にも渡そうとしてみたが、湯呑は使わないからと断られてしまった。


さすがにオークションに出すわけにもいかず、譲り先をどうするか考えた時、真っ先に思い出したのが魔王城の立派な茶室だった。


「これ、お城のお茶室で使うのにもピッタリだと思いませんか?


それに、清水さんの新築プランがまとまったのは魔王さんのお陰でもありますから。


魔王さんが受け取ってくださると嬉しいです」


「それなら、いただこうかな。

ありがとう、シミズにもお礼を言っておいてね。


そうだ、ねえサクラ。

今度これでコーラを飲みながら一緒に映画を観ようよ」


「それはちょっとどうかと思いますが……」



魔王城での取り扱いに新たな不安が生まれたが、とりあえずは受け取って貰えて良かった。


どの様に使われようと、私の部屋で眠らせるよりよっぽどマシだろう。


これで私の用件は済んだので、スッキリした気持ちで七輪の上のお団子をひっくり返してみると丁度良い焦げ目がついていた。


「美味しそう。もう食べてよさそうですね!」


「あれ?サクラのやつの方が焼き目がきれいだね」


「魔王さんはひっくり返し過ぎなんですよ。でもほら、あんこを載せちゃえばわかりませんよ」


香ばしく焼けた団子の上にたっぷりとあんこを乗せて口に運ぶ。


なめらかで甘いあんこと、もっちりとしたお団子のほんのりとした塩味が美味しい。


対面の魔王はあんこではなく甘じょっぱい醤油たれをつけて嬉しそうに食べている。


ふと見上げると、壁の高い位置に1枚の水彩画が飾られている事に気がついた。


そこには一本の立派な松の木が描かれており、真剣な目で松の木を見つめる清水さんの猫背の背中を思い出す。


(私が良いと思って考えた建物が、清水さんにとっても良い建物になってくれるといいな)


建物は完成するまではどうなるか分からない。少しの不安と期待が入り交じった感情を、今は心の奥に閉じ込める。


とりあえず今日はしっかりと休んで、明日からまた頑張ろう。


休むことだって仕事の内だと自分に言い聞かせ、2つ目のお団子にきな粉をたっぷりまぶして頬張った。

※4章構想中です


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