第83話 【異常値の世代】 第1話 「異常値の子供たち」
22世紀半ば頃。
影のAIが検知する「異常値」は、年々増えていった。
東の町で、「音」が色に見えるという少女がいた。西の村で、「匂い」で感情を読むという少年がいた。南の施設で、「数字」が生きているように見えるという青年がいた。
彼らは皆、社会から「変わっている」と見なされていた。
でも——彼らは「おかしい」わけではなかった。ただ、「普通」ではなかっただけだ。
第四継承者は、その一人ひとりの名前をノートに書き込んだ。
「いつか、この『種』が芽吹く日が来る」
彼はそう信じていた。でも——その「いつか」が来る前に、消えてしまう者も多かった。
ある少年は「処置」を受けた後、自分の指先を見つめて言った。「……何も感じない。昔は熱かったのに、今はただの指だ」
第四継承者はその言葉を聞き、自分の指先が熱くなるのを感じた。この熱だけが、彼らを繋ぐ最後の糸だった。
だが——彼は同時に、別の声を聞いていた。自分の心の奥から。
「でも、この子はもう『普通』になった。これで、彼は幸せなんじゃないか?」
その声は、いつもそこにあった。彼が「異常値」を守ろうとすればするほど、強くなる。
「だって——普通が一番、気持ちいいんだから。」
異常値の子供たちは、学校で「浮いていた」。
「なんでそんなことが見えるの?」と笑われる。
「なんでそんなことが聞こえるの?」と疑われる。
「なんでそんなことが分からないの?」と気味悪がられる。
彼らは次第に、自分の「感覚」を話さなくなった。隠すことを覚えた。自分を偽ることを覚えた。
「普通」になるために。
でも——「普通」になればなるほど、彼らの「異常値」は深く、鋭くなっていった。
まるで、押し込めれば押し込めるほど、反発するバネのように。
ある少女は言った。「私、『見える』って言わなくなってから、友達ができた。でも——その友達は、私のことを何も知らない。私は、私じゃない誰かになっている」
その言葉は、第五継承者の胸に深く刺さった。
彼はノートに書き込んだ。
「彼女は『普通』を選んだ。でも——その『普通』の中に、彼女自身はいない。誰も彼女の『見えるもの』を知らない。誰も彼女の『感じるもの』を共有しない。」
「それでも——彼女は『気持ちいい』方を選んだ。傷つかない方を。笑われない方を。」
「それが、この社会の『正しさ』なのか?」




