第71話 【継承の具体化】 第1話 「二人の第二継承者」
継承者の息子——第二継承者は、父から一枚の古いメモと、ある「リスト」を受け継いだ。
「過敏な五感」「特定の周波数に対する異常な反応」「無価値なデータへの執着」......
彼はその言葉を、何度も何度も読み返した。
「過敏な五感」とは、具体的に何を指すのか。感覚が「過敏」であればあるほど、AIの「最適化」から外れるのか。それとも——別の何かなのか。
彼は自分の経験を思い返した。
子供の頃、彼には「数字に色が見えた」。
7は青かった。深く、吸い込まれそうな青。3は赤かった。血のように鮮やかな赤。9は黄色かった。夕日のような、温かい黄色。
教室の黒板に書かれた算数の問題が、カラフルな模様に見えた。テスト用紙の数字が、虹色に輝いた。
「気のせいだ」と先生は言った。母もそう言った。「そんなもの、どこにもない」と。
彼は自分の目を疑った。何度も見直した。でも、数字の色は消えなかった。
それは「過敏」なのか? それとも「異常」なのか?
彼はノートに、思いつくままに書き出した。
「7は青い」
「3は赤い」
「9は黄色い」
「聞こえないはずの音が聞こえる」
「見えないはずのものが見える」
「感じないはずの温度を感じる」
書き出せば書き出すほど、答えから遠ざかる気がした。
「......わからない」
彼は呟いた。父は答えを教えてくれなかった。ただ——「守れ」と言っただけだった。
彼は自分の指先を見つめた。かすかな熱が、そこにあった。
その熱は、子供の頃に「7の青」を見たときと同じものだった。
それが、唯一の手がかりだった。
同じ頃、東京に勤めている石川の女性の息子——もう一人の第二継承者も、母から託された言葉に苦しんでいた。
「百年後も消えない何かを、仕掛けてほしい」
彼は技術者だった。デジタルアーカイバの前身となる企業で働くエンジニア。
彼には子供の頃から「機械の機嫌がわかる」という感覚があった。調子の良いサーバーは「静かに唸り」、悪いサーバーは「悲鳴を上げる」。同僚は「気のせい」と笑ったが、彼には確かに聞こえていた。それが、彼の「ずれ」だった。
彼の手元には、以前、継承者の息子から受け取った光莉が遺した古い記憶媒体があった。かなり古びた特殊な媒体。誰かが意図的に「処理できない」ように設計したかのような、異質なフォーマット。
彼は最初、それを職場の端末に挿入しようとした。
指先が、かすかに熱くなった。
——違う。
この媒体は「悲鳴」を上げていない。むしろ——「待っていた」ように静かだ。




