表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作SF長編【彼女の時空】「ずれ」は、人類最後の武器である。「静かなる最適化への、人類最後の反逆。カフェ「あおい」から連なる一本の伝線から始まった」  作者: Taku
『彼女の時空「1巻」:卒業』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/51

第20話 非合理の武器【未来】第3話「田中の熱」

田中がカフェ「あおい」のテーブルから「stocking_night_0612」を転写してから、さらにニ週間が経っていた。


あの時は傷そのものを発見することが目的だった。しかし今は——違った。傷はすでに、ただの記録であることをやめ、彼らの感覚に伝線を生じ始めていた。



昼休み、田中がEのデスクに駆け寄ってきた。彼の息は荒く、周囲の目を盗むようにして差し出された彼の右手は、親指から手首にかけて真っ赤に腫れ、生々しい水ぶくれができていた。


この管理都市において、調理も暖房も全て自動化された世界で、「火傷」を負うこと自体が、徹底的に排除されたエラーそのものだった。


「Eさん、またカフェ『あおい』の遺構に行ってきたんです。テーブルの裏の傷に触れたら……今度は本当に熱かった。火を触ったみたいに、皮膚が爆ぜる音が聞こえた気がしたんです」


田中は震える指でノートを開いた。そこに、力強くも震えた文字で「stocking_night_0612」が転写されていた。


何度も何度も、鉛筆の芯が折れるほどの筆圧でなぞられたその文字列は、紙を深く凹ませている。


Eは自分の指先を見つめた。思い出す。田中が傷に触れたと彼が主張するその瞬間、物理的に離れたデスクにいたEの指先にも、鋭い、刺すような熱が走った。


それは脳の錯覚などではない。皮膚の受容器が確かに感知した、物理的な熱量だった。距離を超えた同期。


窓から差し込む人工光が作る影が、机の上を微かに揺れたように見えた。まるで、目に見えない次元で現実の布地が歪み、百年前の光景が染み出してきているかのように。


田中はノートをEに押しつけた。

「この筆跡……誰かの執念みたいだ。座ると話したくなる噂は、本当でした。僕が座った瞬間、誰かと話したくなったんです。胸が苦しくなるくらいに。もうこの世界にはいない、百年以上前の誰かと」


Eはノートに触れた。炭化した記憶のような紙の感触が、彼女の指にかすかな、しかし否定できない熱を伝える。


カフェ「あおい」の存在が、彼らの安全な現実を侵食し始めていた。田中の熱が、物理的に影を動かし、Eの体にまで届いている。百年前の誰かが、暗闇の底からこの熱線を通じて、今、彼女の手首を強く掴んだのだと、Eは確信していた。

――『中継セクターX支局画像保管庫』――

※最下層にノイズとして格納

観測LOG_29:『100年を超えて伝わる熱』

https://x.com/KEI67266073/status/2064652477534998643

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ