24.術が解けない
ダリウスは会議を兼ねた晩餐後に離宮に向かった。
セドリックからヴァリオンの懐に入ることに成功したと告げられたのは昼だった。ヴァリオンはエレナがモンフォール領に居たので、セドリックが関与していると思い接触してきたらしい。
エレナを無事に離宮に逃がしたので、しばらく二重スパイをすると打ち明けてきた。
今まで、敵はヴィスコーの方だと思っていた。幼いダリウスに毒を盛り続け、消そうとしてきたのはヴィスコー公爵だ。それはダリウスを殺しヴァリオンを王位につけるためだったが、どうやら今ではヴィスコーとヴァリオンとの間には溝ができているようだ。
ヴィスコー公爵は今ではヴァリオンを半分諦めているらしい。ダリウスが王位についたときに公爵家が衰退するのを避けようとダリウスとの関係修復を模索しているという。であれば、ヴィスコー公爵については様子を見る、ヴァリオンは問題にならないように見張る、ということになった。事態は思ったよりもうまく進んでいる。
しかしセドリックも体は一つしかない。なのでダリウスは久々に一人で行動している。もちろん護衛はつけているが、それでもいつもよりも身が引き締まる思いがする。
セドリックが王都に来るまではこうだった。誰が信用できるかもわからずに孤軍奮闘していた。それがセドリックが来て少し楽になった。
リゼが来てからは一日が楽しいとさえ感じるようになった。最初は、仲が良いふりをするために毎日通っていたのに、最近は夜が待ち遠しい。
しばらく離宮にはエレナが逗留している。
ダリウスにとってエレナは幼い頃の憧れで、今では親友の妻である。改めて顔を見ても以前のような高揚は全くなかった。
それでも久しぶりに顔が見られてよかった。今ではエレナは、気安い関係でいられる数少ない友人の一人だ。
エレナが密命を帯びているようなので、今日はリゼと長く一緒に居られないかもしれないが、少しの時間でもリゼを返してもらおう。
そんな風に思いながら、うきうきとした気分で離宮を訪ねた。
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リゼがいるはずの寝室の扉を開けると、出迎えたのは寝着姿のエレナだった。
「あれ? ダリウス殿下」
きょとんとしてエレナは言う。ダリウスはなぜおまえがここにと言いかけて、口をつぐんだ。
……これは、本当に、エレナか?
さすがに侍女が一人で妃の寝室で、自分がそこで寝る準備をしていることがあるか??
寝室にエレナがいたのはこれで3度目だ。1度目はダリウスの好みの女だと思われ献上されていた。2度目はリゼの術だった。
これも、リゼの術だろうか……夢を見させるという聖女の術……なぜ? そんなことを、今する必要がある?
「リゼか?」
「え?」
「すまない、もうやめてくれ。昼間、お前に失礼なことを俺はしたか?」
「??」
「いや、考えてみれば少しはしゃぎすぎたかもしれない。旧友に会ったようで嬉しかったのだ。ろくにお前と話さずに戻ってしまった。……それか?」
「殿下?」
エレナはいぶかしげな顔をしているが、一向にリゼには見えない。なぜだ、前回は気合を入れればリゼに戻ったのに。
昼間のリゼを思い出す。エレナと話しているとき、目が泳いでブローチに触っているのを見た。その時確かに、少しだけ、嬉しかったのだ。いつも余裕の彼女が自分を気にしているようで。
「すまなかった。お前の気持ちを確かめるような事をしてしまったかもしれない。お前は俺の責任に付き合ってくれているだけだから、多くは望んではいけないと自分に言い聞かせていたんだが、……つい、調子に乗ってしまった。許してくれ。俺は」
言葉を重ねてもどうしてもリゼに見えない。術が解けない。どうしたらよいのだろうか。
……認めればよいのだろうか。認めてもよいのだろうか。
しかし、聖女の術が、相手の夢を見させることならば、リゼは俺がエレナを愛していると思っているという事だ。それは、その誤解は嫌だ。
ダリウスは決意する。これでリゼが困ってももう知らない。覚悟しろよと心の中でつぶやく。
膝をついて彼女の手を取った。真剣に目を覗き込む。
「俺は、リゼを、愛しているから」
彼女は真っ赤になって固まっている。
それでも術は解けない。
「なあ、許してくれ。俺はリゼを抱きしめたい、キスをしたい」
ダリウスは泣きたくなってきた。どうしたらいいのだ。どうしたら怒りが解けて、リゼに会えるのだろう。
「そ、それは」
真っ赤になったエレナは叫んだ。
「それは、本人に言ってくださ~~い!!!」
++
とりあえず寝室からは出た。
エレナは着替えて出てきた。
「……で、お前が本物のエレナで。リゼはどこにいるんだ」
「ダリウス殿下こそ本物ですか? いつもあんななんですか? お二人」
「ちがう! ほっといてくれ! 忘れろ!」
「完全に尻に敷かれてるじゃないですか」
「そうじゃない! いつもは違う!」
「私はなんだか安心しました」
「俺をそんな目で! 見るな!」
聞けば、久しぶりに話をしながら一緒に寝ようということになっていて、準備してリゼを待っていたという。
生暖かい目を向けられながら、ダリウスは顔から火が出そうだった。
「それよりリゼはどうしたんだ!」
「リゼなら、殿下がお戻りの後、ヴィスコー公爵に呼ばれて出かけましたよ」
「ヴィスコー公爵? さっきまで俺は公爵と一緒にいたが会わなかったぞ」
「え? ずいぶん急がされていたみたいですけれど……それに確かに少し遅いですね」
ダリウスはいやな予感がした。公爵は先ほどまで一緒だったがそんなそぶりは無かったし、今波風を立てる必要は無いはずだ。
エレナがこちらに来たタイミングだ。それと入れ替わりでリゼを捕らえたか……
「ヴァリオンが何か動いているのかもしれない。行ってくる」
「あ、じゃあ私も行きます」
「お前が?」
「一応スパイなもので、公爵邸の中はそこそこ詳しいですよ。それに」
エレナは少し迷ってから言った。
「もし、ヴァリオン殿下が暴走してるなら、たぶん、あそこなんで」




