19.平和の夜
夜、ダリウスが寝室にやってきた。
最近、セドリックは早く帰りたがるので、そのせいかダリウスも仕事を早く切り上げて少し早い時間に来るようになっていたのだが、今日は思ったより遅い到着だった。
リゼは迎えながら、少しドキドキしていた。昼間に見た笑顔がまた見たいと思った。
会うたびに少しづつ距離は縮まっている気はするが、ダリウスもリゼも自分から話すタイプではないので、夜の寝室でも会話はほぼない。
ごまかすように少し酒を飲んで寝る。三日に一度くらいはやることをやる。そしてお決まりのように腕枕でごろごろして、しばらくするとダリウスは王宮に戻っていく。
でも実は、リゼはダリウスと過ごす夜はそんなに嫌ではない。たまにぽつりぽつりと他愛もない話をしたり、様子を窺うように寄り添ったり。お互いが探り探り近づこうとしている感じは、自分には無縁だと思っていた恋の駆け引きのようにも感じる。
そう思えるようになったのは、ダリウスが優しいからだ。言葉は足りず、誤解を招くような言い方はするが、リゼを傷つけたりはしない。
乱暴に触れる事もないし、何かをさせようとしたりもしない。壊れ物を扱うように大事にされている。
「宝石が欲しいのか?」
グラスを片手に、ぽつりとダリウスが言い始めた。何を突然、と思ってダリウスを見ると、言い訳のように続けた。
「ベルローが持ってきた宝石、見てただろう」
昼間にやってきたベルローは、ダリウスとリゼとセドリックに、贈り物を持ってやってきた。
リゼには、宝石がふんだんに使われた大きなネックレスを。
ベルローはリゼがつい目を奪われているうちに、巨大な石像を宮殿の庭に運びこもうとしたのだ。
巨大石像は、単純に、迷惑だった。
何かを受け取ると今後も関係が続いてしまいそうで、すべて受け取らないことにした。
「いえ、欲しいと言うか……美しいものは好きですので、つい」
本音を言えば、宝石は好きだ。しかし高価なものをねだっていると思われたくない。
ダリウスには、馬鹿な女だと思われたくなかった。
「そうか」
ダリウスはなぜか難しい顔をしながら、小さな箱を取り出し、ぽん、と、乱暴にリゼに渡した。
「それは、美しいものに入るだろうか。俺にはよくわからん」
箱を開けてみると、緑色の宝石があしらわれたブローチが入っていた。
「ベルローの土産はすべて返してしまったから、その。急いで用意したし、小さいし、好みではないかもしれないが」
「……私にですか?」
「……ああ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
ゴニョゴニョと言うダリウスを遮ってお礼を言うと、ダリウスの表情が少し緩んだ。
「ダリウス様が選んでくださったのですか?」
「……俺にはそういうのはわからんから、緑で、とは言った」
「緑がお好きなのですか?」
「……目の色と同じなら使いやすいと聞いたから」
そこまでしたなら、君のことを考えて選んだくらい言っても良いのに。
この仏頂面で選んだのだろうか。可愛げが無いなんて誰が言ったのだ。
リゼが嬉しくてブローチを見つめていると、ふと気付いたようにダリウスは言った。
「そう言えば、お前の好きな色も知らない。聞いてからにすれば良かったか」
リゼは自然に微笑んだ。
ダリウスはそれを見て、照れたように目をそらす。リゼはダリウスに身を寄せた。驚いて離れようとするダリウスに、えいやと抱き着いた。大きい。腕も胴も太くて、まったく手が回らない。でも、振りほどかれることもなかった。
「いえ、これが嬉しいです。私もダリウス様の好きな色を知りません。私もダリウス様に何か贈りたいです」
「そ、うか」
いつもはベッドでしか聞けない、少し上ずった声がして、背中にダリウスの腕が回った。
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ダリウスの首に腕を回して、いつもは終わるまで目を閉じて耐えているだけなのだが、今日はなぜか少し余裕があった。
行為自体が怖くなくなったような気がする。今まではダリウスは酷いことはしないという信頼感だけで身体を預けていた。
でも今日は、なぜかあまり怖くない。
いつも通りの一通りのことが済んで、いつも通りに抱き寄せられて腕を枕にして横になる。
前からこの時間は好きだ。裸で抱き合っているのはさっきまでと変わらないのに、身構えなくて済むからかもしれない。ダリウスの雰囲気は穏やかだし、筋肉のついた身体は触り心地がよくて、後、なんだか良い匂いがする。
大きな手が、ゆっくり髪を梳くように頭を撫でる。暖かい手が気持ち良い。
ふと、目の前にある立派な胸筋に触りたくなった。男の人も触られると変な気持ちになるのだろうか。そんなことを思ってそっともりあがっているところに触れてみた。
固そうに見えて、意外と弾力がある。女の子の胸とはもちろん大違いだが、今枕にしている腕ともまた感触が違う。
「どうした?」
少しだるそうな、甘い声がして、ダリウスがこちらに寝返りを打つ。
「いえ、……綺麗な、身体だなと思って」
「は?」
そんな答えは予想もしていなかったようで訝しげに聞き返される。
少しイタズラ心が動いて、目の前の胸筋にちゅうと吸い付いてみた。
「、おい」
狼狽するような声が可愛い。いつもは堂々としてるのに。
「このくらいでは、痕はつかないのですね」
もともと少し濃い色の肌だからだろうか。
もう一度、もう少し強く吸い付いてみるが、やはり痕はつかない。
「リゼ、何を」
ダリウスは少し慌てているようで、リゼは調子に乗った。吸い付いたところをぺろぺろ舐める。
そのまま上目遣いにダリウスの顔を見ると、目を見開いて固まっていた。
あ、私からやってはダメだったのかしら。
急に恥ずかしくなって離れようとすると、
「お前、俺がどれだけっ…、」
苦しそうな声がして、押さえつけるように組み敷かれた。
「……お前の身体の方が、よほど綺麗だろ」
リゼを見下ろして唸り声のような声で言うと、胸の間に顔を埋めた。
「あっ、やぁ……」
ジュッと噛み付くように強く吸われて、ピリッと痛みが走る。
「……どうだ?」
「え?」
吸われたところは赤くなっていた。
ダリウスはそこをぺろっと舐めてリゼを見上げる。やり返されたのだろうか?
獅子の様と言われるだけあって、上目遣いの視線は鋭くて熱くて強い。
「なんだか、私、食べられてるみたいだわ……」
思った事を口にする。ダリウスは「ぐっ」とうめいて、リゼの身体に顔を伏せた。
「ダリウス様?」
「……こうなった責任は取ってもらうからな」
「え?」
グイッと引っ張られ、身体を跨ぐように向い合わせに座らされた。
「あ、んっ」
もう片方の手で背を抱き寄せられて、吐息混じりの低い声がぞくぞくする。首筋を舐められて、うずうずしているのがぞくぞくに繋がって、頭が痺れた感じがした。
リゼは何かしたくて、口元にあった形の良い耳を唇ではんだ。




