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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第二章】聖女達の婚姻 ~王太子のセカンドラブは義務と責任から始まる~
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6.離宮の夜2


「伝えておかなければならない事がある」


 ようやく落ち着いて、ずるずるとソファーに戻ろうとすると引っ張り上げられた。

 座ったのを見て、リゼを気遣うでもなく、話し始めた。


「ええ」


 リゼはまだ目元を赤くしていたが、落ち着いては来ていたので頷いた。

 何か慰めてくれてもいいのに、とは思ったが。


「表立っては言えないが、私は身近な者に命を狙われている。おそらく、今後は其方も対象になるだろう。近づいてくる人間には気を付けろ」

「え?」


 思ったよりも重い話が始まった。


「父上、母上。それからモンフォール伯爵家の人間は、事情もわかっている上で信用できる。その他は私を慕ってくれていても取り込まれている可能性もある。どんな者でもセドリックに確認しろ」

「そんな」

「特に第一王子のヴァリオンと、その母親で父上の寵姫ヴェロニカだ。彼女の出自は知っているか?」

「ええ、ヴィスコー公爵の」

「そうだ」


 ヴィスコー公爵は保守派の筆頭だ。第一王子の祖父であるにもかかわらず、王国の伝統を守りダリウスを擁立している。


 革新派の過激な一派は優秀なヴァリオンを推しているが、それをヴィスコー公爵が抑えている。


 リゼはそのように、聞いていた。


「ヴィスコー公爵は、保守派とお聞きしておりますが」

「そのように見せているし振舞っている。しかし本当は私が死ぬのを待っている」

「なぜ……」

「今私が死ねば、ヴァリオンに王位が行く。ヴァリオンは神の子ではないから、保守派をまとめるためには”しかたなく”ヴァリオンが王位を継ぐしかない」

「……」

「私は幼いころから病弱だと評判だったからな。今でも不治の病に侵されていると思われている。私が死ねば、平和で豊かな国と地位がヴィスコーに転がりこむ算段だ」

「不治の病、なのですか?」


 目の前のダリウスは鍛え上げられた立派な体躯で、不治の病とは思えない。


「いや、もうすっかり健康なのだが、もうすぐ死ぬかもしれないと言う噂があった方が双方都合がいいのだ。それでそのままにしている」


「……なるほど……」


 リゼはその意味を考える。


「殿下にとっては、その方が表立って行動を起こされることはないですし、ヴィスコー公爵にとっては、その噂があれば突然殿下が死んでも怪しまれない。そう言う事でしょうか」

「そうだ」


 ふとダリウスは笑んだ。リゼは驚いた。自分に微笑みかけるとは思わなかった。


「其方とは、そういう話もできるんだな」

「い、一応、出は貴族ですから……」

「そうだったな。知性のエリュシア家。賢いはずだ」

「……」


 仕事の話だからか、女に話すような内容でもないのにちゃんと判ろうとしたからか。

 昼間、愛がどうこうと失礼な事を言っていた時より機嫌が良い。


 リゼは、嫌な気はしなかった。

 気が強いと眉を顰められたり、賢しらで生意気と言われる事も多かったので、ダリウスが認めてくれたように感じた。


「ならば話は早い。私の妃となれば危険であることは分かるだろう? できる限り離宮から出るな。出る時は私かセドリックを必ず伴う事。そしてもう一つ」


 ダリウスはリゼのほうに手を伸ばした。

 頬に、ダリウスの厚い掌が触れる。


「できるだけ早めに子を作らなければならない」


 真剣な群青色の瞳は甘くはなかったが、強さと覚悟があった。


「もし私に何かあった時、次の神の子が必要だ」


 神の子、王。

 花の神に護られしイルヴァレア王国の、王と聖女の子は神の子と呼ばれ、生まれた時からこの平和を繋ぐための存在と決まっている。


 ダリウスは神の子だ。


 ダリウスはエレナよりも大事にしなければならないものがあり、それを当然のように受け入れている。


 エレナの事は、ダリウスに許された唯一の我儘だったのかもしれない。それをあっさり手放して、それでも恨み言も言わずリゼに向き合っている。


 ……エレナが無事だと言うのなら、いつかあわせてくれるなら。


 私も責務を全うしなければ……と、リゼは思った。




 ダリウスの顔が近づいてきた。真摯な群青色の瞳。身体が強張る。目を閉じるとそっと唇が重なった。


「ん…」


 口づけは存外丁寧で優しく、痛めつけられることはなさそうだと内心ほっとした。

 しかし、ダリウスの力は強く、身じろぎしても思わず手を突っぱねても、まったく動かない。

 両頬を軽く押されてただけで口が開かされ、熱い舌が入ってくる。いつの間に口をつけていたのか、ウィスキーの味がする。


「んん」


 長いキスの後、ダリウスは口を離すと唇を伝う唾液を舐めとり、「ちゃんと鼻で息してるか?」と、聞いてきた。

 そうか、鼻で息すればよかった、と、はあはあと息を荒くしていたリゼは気が付いて赤くなった。


「手を」


 ソファーについていたリゼの両手を取って、ダリウスの首に抱き着くように促す。おとなしく腕を肩に回すとダリウスはリゼの膝裏をもって持ち上げた。


「きゃ」


 思わず強く抱き着く。

 ダリウスはそうして軽々と抱き上げるとベッドに下ろすと、リゼを見下ろして、真面目な顔で言った。


「目を閉じて、少し我慢していてくれ」


 ダリウスの目に自分が映っている。怯えた顔をしているように見える。怖くないと言ったら嘘だが、覚悟は決めたはずだ。

 それに、先ほどのキスで胸のあたりが温かくなった気がする。……酷いことはされない。


 リゼは意を決して言った。


「だ、大丈夫です、わたしにえんりょ、なさらず」


 自分の声とは思えないほどか細い声が出た。自分は強気ではきはき物を言うタイプだと思っていたのに、情けない……

 そう思うと急に恥ずかしくなった。


 目がおよいで、ダリウスの顔が見られない。


 ふ、と、ダリウスが息を漏らす。おでこから髪を梳くように頭を撫でられた。


 高い鼻が額に当たる。


「これから、よろしく」


 その囁くような声は優しく、耳から心に響いた。


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