54.おかえりなさい
王都からモンフォールの本邸まで一昼夜。
セドリックは、久しぶりにエレナに会えるというので心は浮き立っているのだが、頭は不安でいっぱいである。
久しぶりに帰ってきた領地の邸宅は、やはり王都のタウンハウスよりずっと美しく感じた。
静かな庭にたたずむ、大きな屋敷。
いつもはフラフラしている息子らしく裏口から入ってしまうのだが、今日は久しぶりの帰宅だ。ちゃんと正面から帰らなければならない気がする。
セドリックも仕事ができてしまったので、そろそろこちらの屋敷の管理も考えなければならない。
今の使用人たちはダリウスがここにいたことを知らない。もうダリウスが暮らしていた痕跡はないだろうから、体制を見直しても良いだろう。
こちらはタウンハウスよりも使用人が少ない。見栄っ張りな父はタウンハウスは豪華に美しく整えているが、こちらはセドリックに任せきりだ。
先日ダリウスが来た時は、王都から使用人もつれてきてくれたので正直助かった。
だが、エレナをダリウスの部屋に送り込んだ実行犯も父が連れてきたメイドだった。
やはり自分で選ばなければ信用できない。
前回は色々あった。ダリウスにあきらめさせることができたのは良かったし、どうであれエレナとの婚約が認められたのも良かった。
しかしやはり、去り際のエレナの不審な目が心に残る。
どうしてあんな事言っちゃったかな……
君はもう逃げられない、と言われたら怖いに決まっているではないかと、後から大変後悔したのだが、言ってしまったことは仕方ない。
そんな思いで、セドリックはエレナに会うのが少し怖い。
婚約を解消したいと言われたら。もう逃がしてくれと泣きつかれたら。
自分はどうするだろう。大人しく従ってやれるとは思えない。屋敷のどの部屋なら閉じ込められるかまで暗い気持ちで考えてしまう。
そんな鬱々とした気分で足を進めた。
「おかえりなさい、セドリック」
しかし、エントランスに入ったとき、聞きたくて仕方がなかった声、見たくて仕方がなかった笑顔が飛び込んできた。
「ああ、」
エレナは憂いのないすっきりと晴れ晴れとした表情だった。出かける前に見た怯えた雰囲気はない。
いつもの可愛いエレナが、セドリックににっこり笑った。
それに安心したのもあった。その暖かくて本当に待っていたと言わんばかりの笑顔に、セドリックはふらふらと引き寄せられ、そのまま抱きしめた。
久々の、屋敷の若君の帰宅である。エレナを筆頭に、屋敷にいる人間はすべてそろって出迎えていた。
少ないと言っても大人数である。いつも落ち着いたセドリックのいつもと違う行動と雰囲気に動揺が走った。
「ちょ、ちょっと、皆さんが」
「大丈夫だよ」
「な、なにが大丈夫!?」
エレナは人目を気にしてあわあわとしていたが、そんなのは知らない。
「ただいまエレナ。会いたかった」
周りに聞こえないように囁く。このまま部屋に持っていこう。うん。そうしよう。
このまま抱きしめていれば少し元気になりそうだが、人目が気になるなら仕方がない。
「皆がいないところならいい?」
「セドリック!?」
ふわりと抱き上げて、そのまま部屋に向かう。
「お、お茶でも飲んで、一休みしたら!?」
「あー、お茶。僕の部屋もってきて」
その様子を見ていたメイドが顔を真っ赤にしてお茶の用意のために去っていった。お茶の用意はしていたので持っていくだけだが、この様子では早くいかないと大変な事になってしまいそうである。
エレナは軽い。これならどこへでも持っていけそうだな……仕事中に膝の上に乗っけておいたりできないかなと、無茶な事を考えながら、セドリックは自室のドアを開けた。
「……え?」
セドリックは部屋に一歩入って、足が止まった。




