51.セドリックの処遇
「よく来たな、その顔を俺の前に出せた事、褒めてやろう」
「……殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「ご機嫌は麗しく無いに決まっているだろう」
人払いし二人になったダリウスの執務室で、セドリックはただ頭を下げていた。
「モンフォール伯爵から、お前が俺の下で働きたいと言っていると聞いた」
「……」
「お前から言ったわけでは無さそうだな。だが、正式に俺の側近に任ずる事にした」
「殿下、どうぞお気遣いなく。私の顔などみたく無いと仰っていただきますよう」
「少しでも領地から遠ざけてやろうという俺の嫌がらせだ。ありがたく受け取れ」
セドリックはまた帰れないと言う事を噛みしめる。
しかしダリウスにはもう頭が上がらない。やろうと思えばセドリックの所業を持って、モンフォール家やエレナなど如何様にも出来るのだ。
ダリウスはエレナの幸せを考えて乱暴な事はしないだろう。しかし、もしそのうち何かあれば……
そう考えるとこれからのセドリックの働きは、エレナが人質に取られているようなものだ。手を抜けるわけがない。
今まで以上に逆らえない関係になってしまった。
「もし、彼女を王都に呼ぶなら出自を誤魔化すくらいはしてやる。教会も黙らせる。表向きは他人の空似で通せるだろ」
「彼女に宮仕は荷が重すぎます」
「出仕させよと言うのでは無い。社交界くらいはあるかもしれないが。お前もこれからはパートナーが居ないと面倒だぞ」
「お気遣い感謝します」
「しかし、浮かない顔だな。俺から婚約者を奪っておいて、幸せそうでも無いのも腹が立つ」
お前が呼び出したからだろ。と、内心悪態をつきながら、別れ際のエレナの様子をふと思い出してしまう。浮かないのはそのせいだ。
本当にエレナの事になるとうまく隠せない。
セドリックはエレナの心の距離が離れてしまったのを感じて焦っていた。
どうせエレナは逃げられないのだから、今まで通りエレナのためにできる限りのことをして、またゆっくりと愛情を感じてもらえればいい。
そう自分に言い聞かせるが、エレナの沈んだ雰囲気に、取り返しのつかないことをしたのではないか、後先考えずに村から飛び出してしまうのではないかと不安になった。
――私、外に出ても逃げないわよ
逃がさないように必死になっていることを見透かされたのだろう。
それでも連れてくることはできなかった。
王都では、エレナという新しい大聖女が殉死したというニュースはまだ風化していない。タウンハウスには本物のエレノア・アッシュフォードを覚えている使用人もいるだろうし、知り合いに会うこともあるかもしれない。
そう思うと、まだ連れてくることはできない。
しかし、それ以上に、やはり逃げてしまうのではないかと不安だったのだ。
――今なら咲くのかしら。
ダリウスへの想いが今更になって芽生えることもあるかもしれない。僕から逃げたいと思ったときに、ダリウスが手を伸べたら? もしあんな言葉聞いたら、ダリウスの気持ちだって再燃してしまう。
社交界だと? 冗談じゃない。他の男の目に触れさせるなどもってのほかだ。
聖女の清らかな雰囲気と純粋さ、白い髪も相まってまるで雪の妖精のようだ。それだけでも魅力的なのに、礼儀作法や仕草は王太子妃になるべく叩き込まれたせいで華やかで人目を惹く。
純朴そうな顔立ちと華奢な体は目立たないかもしれないが、あれは、厄介な男に目を付けられるタイプだと思う。ダリウスの執着がそれを裏付けている。
厄介な男その2のセドリックはそう思いながら、それでも少し、王都の夜会での、華やかなドレスのエレナを想像した。……僕のものだと見せびらかしたい……だめだ、目立ってはだめだ。
とにかくこれ以上、エレナを連れてくるような話はしたくはない。
セドリックは仮面を被りなおすつもりで顔を上げて微笑んだ。
「御役目、謹んでお受け致します。これからは誠心誠意お仕えするとお約束致しましょう」
「これから、『は』、な。素直な奴だ。その言葉違えれば次は無い」
「もう、貴方を騙す様なことはしませんよ」
「その能力は俺と国の為に使えよ。……見て見ぬ振りをしてやっているのを忘れるな」




