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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第一章】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~
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30.夢か現か

 

「ギース、あの人、目を覚ましましたよ」

「おお! それは僥倖」

「それで、……何か混乱してるようなので、ラベンダーを分けて欲しいのですけど」


 ギースは怪しむ様にエレナを見る。


「何故?」

「ラベンダーは気持ちを落ち着ける効果があるでしょう? ゆっくり休ませたいから」


 ギースはもうわかっているのだろう。エレナの力が野良の加護持ち程度では無い事。そのエレナが全力でラベンダーを使ったら、どんな効果があるか。


「……何か不都合な事が有ったか」

「どうやら、私を恋人か何かと間違えているようで」

「何かされたか」

「え、いえ、そんな事は」


 ギースはがしっとエレナの肩を掴んで真正面から向かいあった。


「髪が乱れている。顔が赤い。心拍も上がっている」

「本当に大した事はありません。だけど……はっきり意識が戻った時、彼も気まずいと思いますから」


 そうは言ったものの、顔が熱いしギースをまっすぐ見られない。

 あんな事があって、平静を装えるほどエレナはそう言う事に慣れていない。ダリウスの熱を持った身体、心臓の音、びくともしない腕。エレナを見つめる瞳の熱。そう簡単に忘れられるものでは無い。


「チッ これは困った。わしの首が飛ぶ」


 俯いたエレナを見て、ギースがぶつぶつ呟く。


「……わかった。何もなかったのだな。そう言う事にしよう。自分の分も持っていけ」


 そう言って干してあったラベンダーを二束エレナに渡した。


「よいか、主人殿には言うなよ。そんな顔を見せたら、せっかく助けた命が消えかねん。わしの命も危険だ。忘れろ」


 ◆◆◆


 ダリウスは強いラベンダーの香りの中で目を覚ました。


 エレナの夢を見ていた。夢の中で自分はモンフォール家の長男で、でもダリウスと呼ばれていた。


 人のいない屋敷。もう走れるようになったのだとエレナを追いかけて、捕まえる。

 腕に閉じ込めると逃げようともがいたが、それすら愛おしくて絶対逃すまいと抱きしめた。


 起きたく無かった。夢の中にもう一度入れないかと再度目を閉じた。

 しかし眠りも夢も訪れず、ダリウスの意識は覚醒していく。わき腹が引き攣ったような気がして、今度こそはっきりと目が覚めた。


「エレナ」


 エレナがいなかったか?

 夢の中だけではなく……腕の中に


 起き上がって目が眩み、また倒れ込む。


「起きたか」


 眼鏡の男がダリウスを覗き込んだ。


「分かるか? ぬしは怪我をして森で倒れていた。たまたま加護持ちがいて傷は塞いだが、まだ安静に」

「なあ、ここに、エレナがいたはずだ」

「エレナ? ああ、加護持ちが恋人か何かと間違えられたと言っていたな。夢でも見たのだろ」

「会わせてくれ」

「そのうちな。今はわしで我慢してくれ」


 眼鏡の男はそう言うと手際よく診療を行う。


「うむ、あとは栄養をとってしっかり寝れば元に戻るであろ」

「……?」


 ダリウスは男に既視感を覚えた。

 丸い眼鏡の奥の硝子の様な目、特徴的な抑揚のある喋り方。


「お前、名は何と言う」

「命の恩人に対してその言い草は何だ」

「……お前、モンフォール家の侍医だな、ここはモンフォールの屋敷か?」


 それにしては、随分と狭い部屋だ。清潔だが貧相な造りで、無駄な物は一切ない。

 男はダリウスに顔を近づける。しげしげと目を覗き込む。


「……驚いた。ぬしは、あの坊ちゃんか」

「!?」

「無事に大きくなったのだな、随分と頑丈になったようだ。見違えた」


 そう言って懐かしそうに目を眇めた。


「ぬしの成長した姿を見られるとは。嬉しいの。だが……わしに会った事は秘密にしておくれ。長生きしたい」


 そう言って興味を失った様子で立ち去ろうとする。


「おい、まて、ここはモンフォールの屋敷では無いのか? お前、家の者だろう?」


 言い募るダリウスを無視して去って行く男はふと扉の前で振り返った。彼は何気ない口調でダリウスに告げる。


「モンフォール家で坊ちゃんを見ていた医者は死んだのだよ」

「死んだ……?」


 どう言うことだ、と聞く前に医者はそそくさと出て行った。


 ダリウスは天井を見上げて考える。

 ダリウスがモンフォール家にいた事は秘密となっている。ちなみに表向きは、その期間は離宮で寝込んでいたことになっている。


 そのことを知る者が消された事は、有り得る話だ。

 消されたとして、誰かが助けたと言う事か。ここで死んだはずの人間を匿っていると言うことか?


 ではエレナも、ここで生きているのではないか。あれは夢ではなかったのでは? 

 この胸の上に載っていた頭、腕から抜け出そうともがく細い身体……あれは夢でも自分の想いが見せた幻でも無く、本当にあったのではないか。


 だとしたらなぜこんなところにいるのか……あの医者のように、死んでいなければ生きられなかったのだろうか?


 教会が消そうとしたのを、モンフォール家が助けた? 

 そんなはずはない。俺はあのときは取り乱したが、エレナや教会を罰するような事はしていない。


 教会が忖度した? 否、俺が彼女を気に入っていた事は分かっていた筈だ。俺の意向を確かめずに酷い目に合わせる事は無いだろう。


 だとすると……


 ダリウスは一つ可能性を思いつく。それは辻褄はあっていたが、ダリウスは認めたくはなかった。


 ……彼女自身が、どうしても、俺から逃げたかったのか。

 それで死んだことにして、モンフォール家に助けを求めた……


 ダリウスは目を閉じて深いため息をついた。


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