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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第一章】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~
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16.エレナの居場所

 

「エレノア様、ごきげんよう!」

「ごきげんよう、マリー」


 ヴァル・フルールには子供が5人いる。


 乳飲子のエルザと五歳の双子のワードとガー。十歳のマリーと十四歳のリチャードの兄妹。

 マリーは最近はエレノア嬢の立ち振る舞いを真似して気取っている。


 最初は大好きなセドリック様を狙うライバルと認定されて、無視されたり睨まれたりしていたのだが、ハーブを一緒に育てたり、礼儀作法や貴族のお辞儀の仕方などを教えてあげたら、懐いてくれた。

 エレナは年の離れた妹が出来たようで、可愛くて仕方がない。


「クローバーが沢山咲いたのよ。エレノア様、花冠作れる? 教えてあげようか」

「じゃあ一緒に作りましょうか」

「うん」


 牧場の脇から伸びる小道を通って坂を登る。小高い丘の頂上は一面のクローバー。太い樫の木が一本だけ立っている。

 ヴァル・フルールが湖に向かって一望できる、エレナもお気に入りの場所だった。

 すぐ下には、マリーの家も見える。


 春を連れてくる風は暖かく良い香りがするが、木を大きく揺らしていた。


「今日は風が強いわね」

「そう? 私全然平気ー」


 エレナはスカートと髪を押さえながら、座り込んで遊び始めたマリーに付き添ってしゃがみ込んだ。

 花輪を作ったり、四葉を探したりしながら遊んでいると、「おーい、マリー」と、リチャードが呼ぶ声が聞こえた。


「あっ!」


 マリーはぴょこんと起き上がる。


「そうだ、お手伝いあった。エレノア様、あたし戻るね!」


 そう言って、来た小道ではなく、家に真っ直ぐ向かって急斜面を駆け降りようとした。


「マリー、危ない!」

「大丈夫よ、近道あるの」


 そう言って滑るようにかけだした時、一際強い風が吹いた。


「!!」


 思わず目を閉じる。樫の木がヒュオオオと音を立てて軋んだ。


「ああ!!!」


 マリーの悲鳴が聞こえた。見ると今ので足を踏み外したのだろう、斜面を転がりおち、低木の茂みに頭から突っ込んでいた。


「マリー!!」


 慌ててエレナも斜面を降りる。駆け降りるのは身軽な子供でもなければ無理だが、エレナもこの程度の斜面、躊躇はしない。スカートを上手く使って滑り降りる。

 なんとかマリーのところまで行って、抱き起こした。


「いたあい」


 斜面に座らせて様子をみる。強く打ってはいるようだが、骨は折れてはいないようだった。

 枝であちこちを切ったようで、顔や足にたくさん傷がつき、血が出ている。額にざっくりと一際大きな傷ができていた。


「立てそう?」

「無理ー」


 騒ぎが聞こえたようで、リチャードが来てくれた。


「家の裏に抜ける道があるから、手伝ってもらえますか」


 リチャードと一緒にマリーを担ぎ上げて、何とか運ぶ。


「家に寝かせるから、エレノア様、ギースを呼んできてください」

「わかったわ」


 ギースを呼びに行く。ギースは何やら薬を作っているところだったようだが、すぐに準備を整えた。

 ギースの準備を待つ間、軒先の薬草を見て回る。


「ギース、これ、いくつかもらって良いですか!?」


 エレナが指差したカレンデュラの花を見て、ギースは眉を顰める。エレナの意図が分かったのだろう。


「そんなに酷いのか?」

「いえ、ただ、顔に傷が」

「わかった。持っていけ。マリーは気にしそうだ」


 カレンデュラの花をいくつかつんで、エレナもギースと一緒にマリーの家に戻る。


 幸い、怪我は大した事なく、ギースの指導の元、綺麗に傷口を洗って薬をつけて、後は打撲がよくなるまで休んでいる、と言う事になった。


 マリーは兄や両親から散々怒られ、ぶすくれていた。


「あの、すみません。私が一緒にいたのに、怪我をさせてしまい」

「エレノア様のせいじゃ無いですよ! 何度も何度も注意してたんです。それに、すぐに降りて来てくれたそうで、その、服……」


 気の毒そうに言うマリーの父に指されて、エレナは自分の服がドロドロに汚れているのに気づいた。斜面で擦って、所々裂けてしまっている。


「ああ、このくらい、洗ってかがれば大丈夫です。それより、マリーが」


 マリーは身体中あざと切り傷だらけになっていた。特に額を大きく切ってしまったようで、大きな包帯が痛々しい。


「これは残るかもなぁ」


 マリーの父が言うと、マリーは泣きそうになった。


「ギース、いいですか?」

「何故聞く」

「ここでは貴方が医師のようなので。方針に従います」

「……よい心掛けだ。そのためにカレンデュラを持ってきたのであろ。お手並み拝見じゃ」


 マリーとギース以外には退出してもらう。加護の力は見せるものでは無い。

 エレナはカレンデュラの花を包帯の上からマリーに当て、加護の力を使う。


「このカレンデュラの力をマリーに」


 呟くとふわりとカレンデュラは暖かくなり、微かに光ると一瞬で大きく開いて、そして枯れた。


 これで完全に、顔の傷は消えたはずだ。

 そんなに大きな傷では無かったので、エレナには簡単な事だった。

 ギースは目をぎょろぎょろさせてそれを見守っていた。


「え、全然痛くなくなった……」


 マリーが呆然とつぶやいた。

 ギースは包帯を一度とるとぎょっと目を見開いたが、落ち着いて軟膏をつけ、包帯を巻きなおした。


「傷の治りを早くしたから、少し痒くなるかも。我慢して、三日ほどだったら包帯を取ってみて」


 エレナは言った。包帯の下はもう治っているのだが、急に治したのでしばらくすると痒くなる。それで掻かなければ大丈夫だ。ギースが塗ったのはかゆみ止めだろう。


 三日後、包帯をとったマリーは、怪我が無いどころか、今までと比べものにならないほどの、ピカピカですべすべな肌に感動した。

 ずっと悩んでいた生え際のニキビも濃いそばかすも消えたのだ。


 エレナは可愛いそばかすを消してしまったことをものすごく悔いたが、本人は飛び上がって喜んでいた。


 ヴァル・フルールでは一気にエレノア嬢の評判が広がった。


 エレナは、加護持ちならこのくらい当然だろうと思っていたのだが、エレナは教会育ちの花の乙女。しかも聖女である。

 本当は、教会に属していない加護持ちがここまで出来ることはない。


 そしてこの件以来、エレノア・アッシュフォードには、薬草研究家兼医師ギースの助手という新たな居場所が出来たのだった。


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