15.セドリックは帰りたい
呼び出されてからひと月と少し。春になるまで、セドリックは王都に留め置かれた。ほぼ毎日ダリウスに呼び出された。
従者のように付き添いをさせられ、公私共に一緒にいた。
王太子がそのようなことをすると、当然だが、目立つ。
普段、滅多に人を寄せ付けないダリウスが、突然白皙の美青年を連れて歩いているのだ。
そのせいで何やら妖しい関係かと思われる始末である。
早く帰りたい……
セドリックは毎日心の中でぼやくが、引き留めるダリウスを見て可哀想だと思ってしまう。
それにここで無理に帰って、何かあると思われても困る。
幼い頃の関係のせいか、セドリックはダリウスを、同い年だがどうも弟のように感じている。
精神的に頼れる者もいない王宮で、舐められないように牙を剥きながら日々闘っているのを目の当たりにすると、支えてやりたいとも思う。
それは、エレナを守備よく奪う事が出来た優越感と、すべて秘密にしている為の、ほんの少しの罪悪感もあったのかもしれない。
結局セドリックは、嫌だと言ってあったはずの夜会にまで付き合っていた。
「まあ、ダリウス殿下、そちらのお方を紹介してくださいな」
「私の友です。セドリックご挨拶を」
「ご挨拶の機会をいただき光栄です。セドリック・モンフォールと申します」
「モンフォール伯爵の。よく似ていらっしゃいますね」
「ええ、父をご存知で」
なんどこの会話をしたか。
ここまではほぼ同じ。ここからはいつくかのパターンに別れる。
その一。
「モンフォール伯爵にはいつも良くしていただいている。これからもどうぞよろしく」
その二。
「御父上のようにはならないで頂きたいですな」
その三。
「まあ……」と、顔を赤らめ、ちらりと品定め。
その三が意外と多い上に女性だけじゃ無いのが怖い。
父の社交の武器は甘い笑顔と下半身だ。そしてセドリックはその父に顔が似ている。
だから……だから、セドリックは社交界に出たく無い。
ダリウスの従僕のような顔をして後ろに控えているのは、離れるとどこに引きずり込まれるかわからないからでもある。
だったらダリウスと噂を立てられた方がましだ。
「お前の父君はあんなだが、俺の一番の味方だからな。もっと力をつけてもらわなければ困る。幸い息子のお前はまともで優秀なんだ、どこかで取って代わってくれ」
ダリウスからそんな打診をされるが、本当に嫌だ。あれと同類に思われたくない。
セドリックは愛する人と美しい土地でスローライフを送りたい。それが、人生の目標である。
愛する人も美しい土地も用意したのに、自分の身が空かない……。それが、今の悩みである。




