79話 王国武芸大会 12
-王都マハル 特別区-
「何だ、知らなかったのかい?まぁ武芸者志望じゃないから教えなかったのかねぇ」
タニアもメリッサも当然の様に知っていた。二人共ゼベットから武芸の手解きを受けていたとの事で、その時に彼から教えてもらったそうだ。俺も言われていたかも知れないが、全く興味が無かったので聞き流して忘れたらしい。
「ゼベットは南聖流の凄腕闘士だったのよ。今も十分強いけどね」
あの爺がねぇ。確かに指南役とか言ってたな。腕が良いのは間違いない。
「本戦には各地の代表が出場してるけど、前回は北神流の人が優勝してるってさ」
何だその世紀末を予感させる名前は。一子相伝の暗殺拳とかじゃないだろうな?
よくよく話を聞いてみると、基本的に本戦は各地の武芸者が流派や道場を代表して出場しているとの事。単なる腕自慢の大会では無いらしい。南聖流は槍、北神流は剣の流派で、どちらも拳法ではない。中には無手の流派も有るそうだが、勝ち上がった例は過去には無いとの話だ。少し残念。まぁ、暴力が支配する世紀末じゃないので当然か。
現実の世界だって街の喧嘩自慢が実は過去に何かを習っていたりは良くある。系統だって築き上げられた技術を修めた者が強いのは当然の話だな。まして武器の携帯が当たり前の世界だ。わざわざ素手に拘る理由が無いわな。
「本戦では北神流と南聖流の人がだいたい勝ち上がって来るから二大流派って言われるようになったのさ。実際はたまたま強い奴がどちらかに居ただけなんだろうけどね」
「近年はその両方に強い人が居て、決勝戦は毎回その二人の争いなんだってさ」
モレットが言っていた内容がやっと理解出来た。本戦の賭けが全然人気が無いのも頷ける話だな。確かに店の中で賑わっていたはずが新人戦の終了と同時期に静まった。事情を知れば何のことは無い。ほぼ決まり切っていて賭けとして面白味が無いのだ。
「明日の決勝戦、折角だから観に行こうじゃないか。どの程度なのか見たいし」
タニア達は興味が有る様だ。まぁ、暇つぶしには悪くないだろう。明日は新人戦優勝の表彰も行われるから、アル達も一時期居なくなる。変に気にされても都合が悪いか。
「分かりました。関係者用の観覧席に入れることですし、良い席で楽しみましょう」
大会の開催期間中は俺達は選手関係者の扱いなので入口がそもそも違う。一般客の観覧席と違ってかなり近くで見れるのだ。確かに良い機会ではあるな。
「よく考えたらマリーナってゼベットに教わったんだから南聖流ってことよね」
そういやそうなるか。気にしたことも無かったが・・・。俺としては人間に出来ない動きが出来る時点で流派もクソも無い様に思うのだがね。
-武芸大会会場 観覧席-
今日は朝から大会会場へと足を運ぶ。流石に本戦の決勝戦なので観客席もかなり埋まっている様子だ。特別席の俺達には関係無い事と思っていたが、今回の出場選手の大半が観に来ているらしく、どこも混みあっていた。
「油断したなぁ、私ら以外もここに観に来るって少し考えれば分かる事だったわ」
思う通りの場所が取れず、やや後ろ気味の席に陣取る。これは仕方無いだろう。
「ところで選手の名前は皆さんご存知なのですか?」
「北神流がグレン、南聖流がローランドだよ。でも顔は知らないんだよね」
「武器で見分けは付くんじゃないか。得意武器で出てるだろうからさ」
俺にはどちらが誰でもいい。今回は程度を確認するのが目的だ。
大会決勝戦なのでこの国の最高峰に近い強さのはずだ。個人技として上位の人間の動きがどれ程のものかに興味が有る。ゼベットもそれなりだったが全盛期ではないからな。
「お、出て来たね。どっちも強そうな雰囲気してるわ」
剣士は二十代後半、槍士はもう少し上か。もう少し若いかと思ったがな。
本戦の決勝は王家が観覧するので二人共並んで観覧席に一礼する。その後の合図で試合開始だ。始まって暫くは互いに牽制しているのか睨み合いが続いている。剣士は盾を構えて様子を窺っている。なかなか槍の間合いに入って行かない。
「緊張感が伝わってくるねぇ。どっちが先に仕掛けるかな」
「槍は長さ的に有利だけど詰められたら剣のが強いし、どちらも初戦じゃないからね」
互いの手の内は知ってるわけか。そりゃこの展開になって当然だな。
先に距離を詰めたのは槍士。素早い突きを剣士が上手く避け、防ぎ隙を窺う。飛び込まないのは牽制だと理解しているからか。不意に重く一際早い突きが剣士を襲う。初めて剣士が前に出る。身体を捻って低い姿勢のまま切り上げるが槍士も石突を振り上げて防ぐ。短く持った槍先で切りかかるも盾で防がれ、横薙ぎに切替て襲い掛かる。槍先を剣で防ぎ更に前へ出ようとする剣士。その構えた盾を蹴り、足場にして間合いを開ける槍士。どちらもなかなかの動きだ。相当な場数を踏んでいると見える。
「おぉ~今の攻防見た?流石に決勝に出て来る人らは違うねぇ」
確かに今まで見た奴らとは違うな。多少は、だが。人の上限は充分理解出来た。結局のところ、身体の構造上の限界を超えた動きは不可能ということだ。筋肉、骨、関節、腱などの組織強度が耐えられる限度は自ずと決まっている。彼らはその範囲の中で手足を動かす際の軌道や姿勢を即時に判断し、その通りに自身の身体動作を制御出来る。非常に高い技術を持っているが、予想の枠を超えることは無い。軽い失望感を覚えつつ観戦を続けた。
気が付いたら勝負は決着が付いていた。今回は槍士が勝ったらしい。
「いやぁ、なかなか白熱した試合だったね。彼らが毎回決勝に出て来るのも分かるわ」
皆一様に興奮している様に見える。俺は興味を失ってから全然違うことを考えていたので試合など観ていなかった。意外な事にミランも楽しそうに笑っている。こういった事には興味が無いかと思っていたのだが、興奮気味にメリッサ達と話している。まぁ、これだけでも観に来た甲斐はあったということか。皆が楽しめたならそれでいい。
「私は露店を見回ってから戻りますので、皆さんは先に宿へ帰っていて下さい」
「お嬢一人で大丈夫かい、不心得者も中には居るからね。アタシも行こうか?」
「アル達を連れて行くので絡まれたりはしないでしょう。大丈夫です」
タニアに一言断ってからその場を離れる。式は午後だが一度出頭する様に連絡が来ていたので控室へと向かう。恐らくは式典の段取りでも説明するのだろう。面倒な事だが優勝の賞金はその場で手渡されるため欠席することが出来ない。金額は忘れたが貰えるものは貰っておこう。幾ら有っても無駄にはならん。
それにしても新人戦で派手にやらなくて良かったとつくづく思う。正直あの程度なら軽く叩きのめしてしまえるのだ。大人し目にしておいて正解だったな。ゼベットとの稽古が物足りなくなってからは自己流で鍛錬していたわけだが、彼らの腕ではせいぜいが大鹿、とてもじゃないが灰色熊の相手は務まらないだろう。今の自分が人としては規格外なのだと良く分かった。人前では見られない様に心掛けねばな。
-武芸大会会場 選手控室 ブラックロータス-
控室に入ると既に係員が待っていた。先程見た槍士も来ている。
「私がブラックロータスです。ここに来るよう指示を受けました」
少し間が開いたが係員に促されて用意された席へと座る。新人戦とは言え、優勝者がこんな女性とは思っていなかったのだろうな。
やはり式の段取りを説明するために呼ばれたらしい。どうやら午後は試合用の装備で来なければならない様だ。面倒だが仕方あるまい。一通りの説明を終え、午後に備えて解散となった。さて、すぐに着替えに戻らねばな。
「代理人では無い様だね。新人戦優勝おめでとう、お嬢さん。少し聞いても良いかな」
槍士が話しかけて来た。確かローランドと言ったか。
「ありがとうございます。貴方こそ見事な腕前でした。本戦優勝おめでとうございます。私にどのようなお話でしょうか」
「はは、これは丁寧にありがとう。師はどなたかな?」
俺はほぼ我流ではあるが、動作の基礎はゼベットを模している。
「ほぼ我流で明確な師は居りませんが、一時期師事した方を模しています。ゼベットと言う者です」
「ほう・・・あの高弟ゼベット殿の・・・。いやぁ、同門とは。これは嬉しい事を聞いた。ありがとう、引き留めて済まなかったね」
ローランドはそれだけ聞くと上機嫌で去って行った。




