74話 王国武芸大会 9
-武芸大会会場 観覧席-
正式に武術大会の開会が宣言され、本戦が始まった。
流石に本戦は名の知れた奴らばかりが出場しているらしく、観客はかなり多い。俺の出番は午後からなので暇つぶしに本戦の様子を見ている。内容は・・・まぁ、確かに新人戦よりは強いかな。決勝まで見ないと何とも言えないところだが。
「何だか思ってたのと違うかなぁ。新人戦と大して変わらない感じよね」
「いや、アーガスやベルモンドは例外だろうさ。格上なのは確かだよ」
タニアとメリッサの感想はどちらも正しい。まだ一回戦だからと言うことも有って出場選手にはさほど強くない者も居る。準決勝ぐらいになれば強豪が残ることになり、状況は大きく異なるのだろう。本戦では優勝候補は基本シード枠だ。彼らの力を見ないことには何とも判断出来ないな。
「本戦の見どころは明後日ぐらいだそうですよ。丁度決勝戦の後ですね」
本戦の選手を見る限り、十分ベルモンド程度なら相手に出来るだろう。そのぐらいの力の差は有る。しかし、中央都市の武術大会としては物足りなさを感じる。各地の代表が集結しているはずなんだがな?職業軍人は参加出来ないとか優勝経験者は出れないとか、そういう制約が有るのかも知れない。
「そろそろ行かないと。まずは今日の準決勝を済ませてからですね」
「お嬢、ほどほどにな。目立ち過ぎると余計な奴らが寄ってくるよ」
「もうノーマさんも居るし、さっさと済ませちゃいなよ」
途中棄権も考えたがブラックロータスとの決勝で見せ場を作るのも面白そうなので、止めておいた。勝ち上がる毎に報奨金も貰えることだしな。
-闘技場-
準決勝は本戦一回戦の後に行われるので観客が予想以上に多い。大半は惰性で見物しているだけだろうがな。相手の男はだいぶ警戒している様子だ。あちらも当然ボードの倍率は見ている。急に優勝候補になった俺と当たることになってさぞ困惑しているだろうな。攻めて来る気配が無いのでこちらから出るしかないか。
「打って来なければ勝てはしませんよ。来ないのならこちらから行きましょうか」
俺は無造作に歩いて近寄る。慎重に守りを固めている様子だが、反応出来なければ案山子と変わらんのだがね。相手の武器の間合いに入るとようやく動いた。突きを避けて躱し、体勢が崩れた相手の側頭部を石突で強かに叩く。動きが止まった相手の背後に回り、後頭部に更に打撃を入れる。ヘルム越しだから致命傷にはなるまい。どうやら気絶したらしく、ゆっくりと崩れ落ちた。これで明日の決勝戦を済ませれば終わりだな。怪我させない様に加減するのは難しいので早く済ませたいところだ。
何やら観客席が騒がしいな。ちと短時間過ぎたか。まぁ、どうせ明日で終わりだし気にしなくてもいいだろう。
-闘技場 ブラックロータス-
さて、本日のメインイベント。ブラックロータスvsベルモンドだ。本来の組み合わせなら先に組まれていた試合なんだが、こちらがトリに入れ替わった。まぁ、胴元の都合だろうな。注目度もこっちの方が高いのは分かる。
「それじゃ、さっさと済ませるか」
開始位置へとゆっくり歩を進める。観客は昨日よりも多くなったか。ベルモンドは既に中央位置で待機している。装備に傷が見られないので、奴もほぼ無傷で勝ち上がってきたのだと分かる。
確かに新人戦出場者の中では頭抜けていたし、ここまでは当然の結果だろう。俺が出場してなければ優勝したはずで、少し気の毒に思う。これも巡り合わせってヤツか。運が悪かったな。
試合開始の合図と共にベルモンドが突っ込んで来た。身体が大きく武器も大剣と圧迫感は相当なものだが、攻撃自体はただの突きと隙が少ない。大きく避ければ剣の柄を上手く使って叩きに来る。遠目では確認出来なかったことだが彼の本領は恐らく体術だ。足捌きと体重心の動かし方が剣士のそれとは異なる。掴まれない様にしないとだな。
しばらく様子見を兼ねて避けに徹していたが、彼も流石に少しは気付いたらしい。
「雑魚ばかりと思っていたが、どうやら違ったらしいな」
この程度で上から目線とは、世間知らずの身の程知らずか。まぁ、体格と素質には恵まれているから勘違いするのも無理はない。ここは勉強させてやるか。
「雑魚はお前だ、小僧。どれ程手加減されているのかも理解出来ぬとはな。身の程を知るが良い。たかだか新人戦で粋がるのも大概にしろ」
言い返されるとは予想していなかった様だな。少し驚いているらしい。
「貴様、怪我させぬ様にと加減してきたが・・・後悔するぞ」
ダメか、この慢心した馬鹿には届かなかったらしい。力で分からせてやるしかないな。
ベルモンドの動きが鋭くなった。確かに多少は加減していたらしい。なるほど、これなら本戦でもそれなりに勝ち上がれそうではあるか。さっきまでとは違って攻撃にどれも力が込められている。当たれば重傷は免れまい。当たれば、だが。圧力も増したが所詮は人の為せるもの、森の灰色熊とは殺気も比較にならんな。
おそらくは全力であろうベルモンドの攻撃を俺は軽く避け続ける。少しは鋭さを増したがそれだけのことだ。彼はスタミナもそれなりに有る。今後数年間鍛えれば相当な戦士に成長するだろう。だが磨かなければ玉も石ころのまま、光ることも無かろう。
「どうした、もう終わりか。その程度では届きもせんぞ」
俺は開始位置から数メートル程度しか動いていない。今までワザと彼の武器の間合いから大きく外れない様に避けているのだ。
彼が全力で打ち込んで来る様になってからは軽く叩く様にしている。伸びきった肘、踏み込んだ足の指先とピンポイントで何度も。彼に『動きを見切られている』事を伝えるためだ。
強めに叩いてもいいのだが、怪我の元だしそもそも意図が違う。怪我させるつもりなら踏み込んで来た膝を横から叩けばすぐに片付く。医療技術がどの程度か分からないこの世界、最悪再起不能に成りかねない手段は取りたくない。彼の才能を潰して良い権利など俺には無いからな。
「・・・てめぇ、何者だ。お前みたいな奴は噂にも出たことがねぇぞ」
既に彼は肩で息をしている。だいぶ疲労しているな。諦めの悪い奴だ。
「世の中は広い。強い者など大勢居る。お前が知らぬだけの事よ」
少しばかり強いからと言って天狗になり過ぎるのは良くないな。自分を中心に世界が回っているとでも勘違いして来たか。いや、本人だけの責任でも無いか。周囲に諫めてくれる者が居なかったのだろう。
「そろそろ飽きてきたのだが?潔く負けを認めるなら見逃してやってもいいぞ」
さて、ここまで煽れば充分。これ以上は時間の無駄だ。
顔を真っ赤にして奴が突っ込んで来た。奴の頭には俺への憤りしか有るまい。渾身の突きを躱して懐に入る。咄嗟に逃げようとする動きを阻害し、足捌きを邪魔して相手の腰を浮かすと同時に彼の顔面を掴んで地面に叩きつけた。
「身の程を弁えろ。小僧風情が図に乗って燥ぐな」
結構強く叩き付けたので気にはなったが、首が折れたり血飛沫が飛ぶ程の勢いじゃない。
まぁ、死にはすまい。起き上がれはしないだろうがな。奴が動かなくなったのを確認してゆっくりと開始線へと戻り、判定を待つ。審判から勝利を告げられ、俺は会場を後にした。
観客席が騒がしいが俺にはどうでもいいことだ。これでここでの目的は達成した。後は数日後の払い戻しで賭け金を貰って帰るだけ。戻ったら牧場建設からかな。いや、まずは無事に帰りつく事が重要か。また山賊と遭遇するかも知れん。警戒は重要だな。




