35話 侍従長の期待
-リベスタン城塞 執務室 ジル-
マリーナ様にあれほどの才覚があったなんてね。まだ10歳だったかしら?
サマリード家に仕えたはいいけど、現当主のハミル様は温厚ではあるけれど凡庸な方。
領地の経営状況は決して良いとは言えない。評判の良いマイネル司教をお招き出来たから少しはマシになるかと期待していたけど、大して変わらなかったわね。
正直、私程度の者ならマハルには掃いて捨てる程居ます。自分の身の丈ぐらいは弁えているつもりです。どういう訳か城仕えのまとめ役みたいになっていますけどね。
私よりも年長の方々が大勢居るというのに、何故このような扱いなのか理解に苦しみます。評価されているのは有難い事ですけれど。
一時はどうなるかと不安視されていたのに、今では城仕えで彼女に期待していない者は一人も居ない。アモン様も日々頑張っておられますけど、どうしても見劣りしてしまうのは仕方の無いことでしょう。
ゼベット殿も絶賛しておられますし、司教の可愛がり様ときたら実子なのかと思ってしまうぐらい。
一番驚いたのは城兵からの人気の高さね。一部の兵からはかなり気に入られている。兵だけではなく給仕や下男からも好かれているのよね。リナはかなり心酔している様子だし、以前は考えられなかったことだわ。
そもそも領主筋の方が下々の仕事をご覧になるために直接現場に脚を運ぶなど聞いたことが無い。
見たいと言うから断りはしなかったけど、実際に働く皆の邪魔をしない様に少し離れた位置で遠慮がちに見ておられたとか。
先日は井戸に手押しポンプだったかしら?それを作ると言い出して、何のことか分からなかったけど始めたらすぐに済んで。あれは誰に作ってもらったんだろうか。今では水汲みがだいぶ楽になったって下男たちが喜んでいたわね。
村の様子伺いもしたらしい。領民の様子を直接見に行くなんて、領主筋の人達がやったのを私は見た事が無い。他の領地でもそんな話は聞いた事が無い。
自警団の人達とも頻繁に交流している様子だし、中でも団長と副団長とは仲が良いとのこと。全て今まで私が領主にして欲しいと思っていたことを自らやっている。
誰だって顔も知らない領主に親しみなんて持てる訳が無い。自分達を気に掛けてくれない主なんてどうでもいいと考えるに決まっている。特にここは治安が良いため、盗賊等から守ってもらえるという分かり易い恩恵が感じられない地域なのだ。
最近は新しく大型の馬車を作り上げた。ずっと車庫の奥で何かしているのは時々見て分かっていた。私は古い馬車を処分してもいいのかとしか聞いていないのだけど?
彼女に大工仕事が出来る訳がない。ということはラムターク達が協力しているはずだ。彼らが協力しているならあの話辛いマスートも認めたってことよね。
彼女は領主になるべく生まれて来た子だわ。ようやく私もツキが巡ってきたようね。




