21話 元手を創ろう
-自警団詰所 応接室-
今週は自警団に行商人が来ているとのことで、タニアに頼んで会う段取りを付けてもらった。
自警団側の用件が済んだところで応接室に呼ばれた。中に入ると男が二人。
座っている方が商人のアモットだろう。後ろに立っているのがダンだな。
「お時間を取っていただき感謝します。ここの領主の娘でマリーナと申します」
まずは丁寧に挨拶から入る。あちらの反応を見て対応は変えねばならん。
「アモットです、よろしく。何やら私にご用がお有りだとか。伺いましょう」
タニアの紹介だからとりあえず聞くって態度だな。子供相手だから仕方ないか。
「お忙しいようなので早速用件から。こちらをご覧下さい」
俺は持ってきた木箱を机の上に置いた。箱は俺の手製だ。
薄く木彫りで模様を入れてあるので箱そのものに高級感が在る。仕上げはかなり丁寧にやった。
そして今の俺は手袋を敢えてしている。貴重な物ですよ、という演出だ。
アモットの表情から緩さが消えた。この嗅覚はさすが商人だな。
恭しい仕草でゆっくりと箱を開け、布で覆われた中身を見せる。
中身は金と銀で細工されたネックレスとイヤリング。金を土台にして銀で編込細工を施し、メインは大きめのサファイアを使ってある。雑誌で見たロイヤルファミリーの奥さんが付けてたのをイメージして造った。俺としてはかなり頑張った方だ。
「おぉ・・・見事なものですね。失礼ですが手に取っても?」
「今は見るだけにして下さい。私もご覧の通り細心の注意を払っております次第で」
こっちが手袋してるのに素手で触ろうとするな。こいつ宝飾品扱ったこと無いな。
「そうですか。それで用件とはこれに関する内容と考えてよろしいでしょうな」
「はい、これを買っていただける方を探しておりまして」
「ほう、これほどの物を造れるとはなかなかの彫金師ですな。こちらの方ですか?」
そりゃ製造元を知りたくなるわな。直接取引した方が利益は高いわけだし。
「申し訳ありません。生憎と私にはお話しすることが出来ません」
「ふむ、そうですか。他にも何かお持ちですか」
「今のところ、預からせていただいてるのはこちらのみになります」
アモットは顎に手を当て、考え込んでいる。
「こういった物を取り扱っている者に心当たりがありますので次回お連れします」
「有難うございます。よろしくお願いいたします」
これで上手いこと紹介が受けられると良いんだが。そう簡単に事が進むとは思っていないけどな。しばらく様子を見よう。
「マリーナ、少しいいかい。ダンが話したいってんだけど」
部屋から出て荷物を纏めているとタニアから呼ばれた。ダンって護衛の方だよな。
「構いませんよ。どちらに伺えばよろしいですか?」
いずれ話す機会は持つつもりだったし、好都合だ。
「今私らの武器の修理をやってくれてる。悪いけど鍛冶場に行ってくれないかい」
「仕事の邪魔になりませんかね。時間を改めましょうか?」
「いや、明日の昼頃には出立するんだと。すぐ済むってことだから頼むよ」
彼らも結構忙しい身の上らしい。とりあえず行くか。
鍛冶場に行くとダンが汗まみれで槌を振るっていた。並べてある武器が結構な数有る。これを全部か、なかなか厳しいものがあるな。一人で良く面倒見れるもんだ。
「お話が有るとのことでしたが、何でしょうか」
彼の視界に入るように正面に回って近づく。これなら気付くだろう。
ダンが気付いたらしい。槌を振る手が止まった。一息付いてこちらを向く。
「呼び出して済まない。少し気になってね」
「何がでしょう?」
「見事な出来の作品だった。あれの相場は知っているのか?」
「私は宝飾品には詳しくありませんので。母なら多少はご存知かと」
「そうか、最低でもマハルで金貨300枚はするだろう」
ほう、そんなにか。しかし何故そんなことを教えるのだ。意図が分からんな。
「その話を鵜呑みにするわけにもいきませんけど、何故そんな話をするのですか」
「高い技術には正当な評価が為されるべきだ。正しく報われないと技術は廃れる」
まぁそうだな、だがそれだけか?過去に何か嫌なものでも見たか。
「誰が作ったかは知らんが、買い叩かれないようにな。それだけだ」
そう言うと、ダンはまた槌を振り始めた。もうこちらを見る素振りは無い。
「ご忠告感謝いたします。忙しい中わざわざ有難うございました」
荷物を取りに戻り、タニアに城まで送ってもらった。
ダンがわざわざ直接言うってことはアモット達が吹っ掛けてくるってことか。
彼らは商人だから当然やるだろう。相手が子供なら尚更だ。しかし金貨300枚か、思ったよりかなり高値が付くのだな。
どう対応しようか。侮らせて儲けさせてやるのも方法の一つではあるな。いや、ここで稼いで元手を確保するのが優先か。
一先ず商人達の出方を見よう。決めるのはそれからでも遅くはない。




