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逃げ出さなかったらこうなるという教訓

 甘やかしが加速した。以前からそういう感じではあったし、ニコラも同様だったけど、さらに増えた。


「こっちおいで」

「……髪くらい自分で拭けますよ?」

「そうだとしても、前に面倒臭がってたよね?」


 それはそうなんだけど。

 ドライヤーがないから丁寧に乾かそうと思ったら時間がかかる。疲れてるときはサボる時もあった。長髪を綺麗に維持するのって大変で、特にニルスの家を出ていってからはサボり癖が出がちだったのを、彼はニコラとして見ている。


 私に甘えられたほうが安心するのかもと、本当に嫌でなければ割と任せてしまう時も多いけど……まだ基本的にニコラのままだから、これがなんというか落ち着かない。


 私に何かやってもらいたがる、ということはないから気分が落ち着かない以外の負担はないけど、あまり甘やかされすぎてこれが当然になると、後々ダメになりそうで。

 と思いつつ、結局身を任せてるんだけども。


「いつもいつも、負担じゃないですか?」

「全然。そういえば、オイル変えた?」

「あ……持ってくるの忘れちゃって、新しく買いました」


 こういう会話をしてると、本当にただの友達みたい。

 気まぐれに買ってみたは良いけど、思ったより匂いが強くてちょっと馴染ませただけなのに、よく香る。店頭で嗅がせてもらった時はそうでもなかったんだけど、すでに部屋中に充満しそうな勢いだった。


「思ったより香りがきついみたいで。苦手だったらごめんなさい」

「別に何でも平気だけど、いつものやつのが落ち着くな」

「…………いつも?」

「大体いつも良い匂いがするなって思ってた」


 それは……おかしい。いつもはあまり匂いのしないオイルを使っていて……。

 待って、そうなるとそれはオイルの香りではないのでは……?


「あれって、何の香りなの?」

「えー……わかりません。普通の、至って普通のやつなので。どこにでも売ってるような」

「今使ってるのがあまり気に入ってないなら、明日買いに行こうか」

「いえ、まだ家にたくさん残ってるので大丈夫です……。家に帰るまでは今のを使ってても良いですか? 嫌なら別のを買ってきます」

「俺は大丈夫」

「じゃあ、このままで」


 ダメだ、これ以上ほじくられるまえに話題を変えよう。あと今度、違うオイル買いに行こう。何かしら香りのするやつ。


「……あの、聞きたいことがあるんですが」


 顔を合わせてないからか、特に疑うこともなく「なに?」と後ろから返事があった。


「ヒロインってどうなりました? 誰とくっつきそうですか?」


 あれからどうなったのかは気になっていて、もう一度見に行こうかとも思ったけど、護衛に尾行を気づかれたら問題だからと禁止されていた。ニルスも気になりはするようで、昼間に薬を貰いに行くついでに様子を聞いてくると請け負ってくれていた。


 後ろにいるため表情は見えないものの「あー……」というなんとも言えない複雑そうな声が聞こえた。


「あれね……ハニートラップだったみたい」

「ハニー、トラップ?」

「他国の密偵ってやつ」


 ハニートラップって、あの?

 思いがけない言葉に驚いて、振り返りそうになった。喋りながらも相変わらずニルスの手は動いていたので、ギリギリで踏みとどまる。


「もともと俺と殿下の護衛の入れ替わりっていうのが、囮捜査みたいな物だったんだよ。お忍びを秘密にしたい殿下が個人的に手配したって形で、内実は近衛が担当して釣りだす形」

「密偵って、そんなのに騙されるんですか……?」

「お忍びに近衛以外がつくのも、実際にあることだからね。情勢にもよるけど、変身薬があればさほど問題にはならないから。普段なら俺が付いて行った可能性もあったんだろうけど」

「なるほど……」


 確かに男から女になったりと、完全に姿が変えられるのなら問題も起きないのかもしれない。ニルスとニコラでは骨格も違うし、顔立ちも異なる。そんな薬の存在を聞いたこともないし、秘薬か何かだったりするのかな?


「薬と言えば……いつまで女性のままなんですか? 王都を出てもその姿のままですよね?」

「いや、戻ったらもう使わない。本当は王都からあれだけ離れれば姿を変える必要なかったんだけど、サラに会うとすると、あれが都合が良かったんだ」

「公私混同じゃないですか!」

「うん。薬が足りなくなったって報告行ったらすごい怒られた。けど理由説明したら頑張れって、追加で薬を貰えた」

「組織ぐるみだ……!」


 それで良いのか!? 秘薬かもって思ってドキドキしたばっかりだったんだけど、もしかしなくとも、結構扱いが適当じゃない?

 もともとあまりチェックが厳しくないのか、トップが権限を握ってるからこその匙加減って考えれば、わからないでもないけど……。クビにならず良かった。


「期間はあと一年か二年ぐらいかな。一番危ない時期だから」

「ええと……危ないのは立太子の前後だから、とか?」

「そうそう」


 気楽な返答を聞きながら、この話って私が聞いていいのかと不安になってきた。囮捜査だったとかハニートラップだったとかって、ごく一般人である私が聞いてもいいんだろうか……。


「……今更なんですけど……私に話しても良かったんですか」

「良くはないけど、殿下が城下に降りることも知ってて良いことではないし、今更だからね。……いくらか事実とは異なったけど、大筋は合ってたわけだし……もしサラが俺以外に話してたらまずかったね」

「……だ、誰にも話してませんよ?」

「もしそれでサラが死んでたら……場合によっては即位式も立太子も延期になって、ゲームが本当に始まってたりして」

「…………」

「今思いついた、ただの想像だけど」


 もしニコラがいなくて、別の人と仲良くなってたら? 誰にも話さずにいられたかどうか、自信がない。

 え? ゲームって結局あったの、なかったの?


 混乱している私をよそに、毛先を拭いていたタオルが去っていった。


「はい、終わり」

「あ、ありがとうございました」


 あるいは、ニルスが着いてきたから助かったこともあり得る?


 いや……流石に……ないか。

 多分。





「一ヶ月経ったから、あげる」


 ぽんと渡された小箱。なんだか既視感がある。

 いくらなんでも同じ手は使わないと思うけど、一瞬ドキリと心臓が跳ねたのは仕方がないと思う。

 蓋を開けてみると、以前とは違うデザインの指輪だった。


 ……本当に大丈夫だよね?


「一応聞きますが、この模様や石の意味は?」

「ただのお守り」

「そうですよね。ありがとうございます」


 お守りという言葉にホッとして身体の力を抜く。

 守護の文様を刻んだり、魔除けの意味を持つ宝石をはめ込むのは、アクセサリーとしてもよくあること。単なる願掛けや実際に魔法の効果ある物と様々だけど、ただのお守り、であれば願掛けの方かもしれない。


 でも、一度鑑定には出そうかな……。そんなことをちらりと考えていると、ニルスは笑みを深めた。


「命の危機が迫ったら障壁が出るし、俺の指輪に連絡も来るから」

「全然ただのお守りじゃないじゃないですか!」


 命の危機が迫ったらだなんて、どう考えても普通の人が買うような物じゃない。

 危うく箱ごと取り落としそうになって、慌てて引っ掴んだ。良かった、まさか壊れないとは思うけど……心臓に悪い!


「そんな効果を付与するなんて、絶対に高いですよね?」

「気にしないで。婚約指輪だから」

「こんにゃく……えええ!? こんなの、あげるってポンと渡す物じゃ」

「うん、だから……」


 ニルスは跪いて、私の手を取った。騎士にとってこの姿勢は誓いを立てたり忠誠を誓うときにするための、大切なもの。


「愛しています。私と結婚してくれますか?」

「へ……?」


 あまりに唐突な申し出に、一瞬思考がショートした。

 待って待って、本当に突然だし今普通に晩ごはん食べ終えたところで全くそういう雰囲気でもなかったし……そもそもまだよりを戻して一ヶ月なんだけど!

 予想外過ぎて言葉が出てこない。


「はや……早くないですか? まだ交際期間で言えば……半年もいってない、ですよね?」

「実質一年以上一緒にいたようなものじゃない?」

「それは……そうですけど……」

「本当はサラが一番最初に求婚してくれたときに受けても良かったんだけどね……あの時、間違えた、って感じですごい啞然としてたでしょ?」

「……あれは本当に口が滑ったんです!」


 今まで一度も触れられたことなかったのに、今になってその話を……せっかく忘れられていたのに、思い出してしまうと居た堪れない。今思い出しても恥ずかしい!


「俺としてはこれを持っててくれるだけで安心するから、受け取ってさえくれれば返事はいつでも良いんだけど。どうしたい?」

「…………よ、よろしくお願いします」


 いつもながら展開が早すぎる、早すぎるけど。まさか今日だとは思ってなかったけど遅かれ早かれそうなるとは思ってた。


 私が答えて数拍置いてから、ニルスはぼろぼろ涙をこぼし出した。私は泣くどころか驚きばかりで、まだ全く実感もないのに!


「ちょ、ま、待って下さい! なんでいきなり泣くんですか!?」

「いや、ちょっと感極まっただけ」


 感極まって!?

 潤むとかならわかるけどボロ泣きなんだけど!


「……もしかして、まだ不安が残ってたりします……?」


 大分落ち着いたような気がしてたんだけど、この様子を見るとまだ怪しい感じがする。


「サラが一緒にいてくれれば平気」

「それ平気って言わないのでは」

「正直俺も駄目かと思ってたけど、サラはわかりやすくて助かってるよ。不安にならずに済む」

「……ん? ん? それって……」


 指輪って道具を使わなくなっただけってこと?

 放心していたら、いつの間にか泣き止んだニルスは、私が手に持ったままだった小箱から指輪を取り出して微笑んだ。


「ほら、手貸して」

「……はい」


 新しい指輪が手に嵌まっていくのを見ながら、ここで逃げ出したら今度こそ大変なことになりそうな予感がした。

最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!ブクマや評価、大変励みになりました。


自分でも納得いかない部分もあり、せっかくブクマしてくれた人々の期待にも答えられてないのでは!?とここ一週間ウグウグと苦しんでましたが時間切れなので、書けた内容で完結させていただきます。


諸事情によりしばらくは小説を書く時間が取れないのですが、隙間時間に書き溜められたら何かアップできたら良いなとは思ってます。あとニルス視点とか書けたらぶち込んでおきたいです(思うのはタダ)

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