第14話 旅行1 ⑨ すみ田の悪い予感
すみ田の顔に大量の汗が浮かび上がった。
ダラダラダラ、と。
「前さー払ったけど。やっぱり、蜘蛛って同じ場所に巣を作るんだなぁ」
「……いや。蜘蛛はどこでも巣を編むでござろう」
強張った声と、表情でかやのに、そう言い返した。
「あー前さーこの糸に触ったら大きな蜘蛛が来たな。そういや」
「!? ならぬ! それは避けねば‼」
「でもさー天井に、もう居るんだけど?」
「!?」
ゆっくりと、すみ田は天井に。
目だけを向けた。
女の顔をした蜘蛛が、すみ田へと笑顔を向けた。
口を大きく広げて。
「--~~っつ‼」
すみ田は真っ青な表情になった。
「面白いな。お前の顔芸」
「ちっとも面白くはござらぬ!」
「いや。おれが面白い」
今にも、降りて来そうな蜘蛛に。
すみ田は慌てながら。
「--《経文陣》! 武装乱発型ッ! 威嚇緊急呼吸ッッ‼」
辺りの空気を細長いーー槍のようなものに変えた。
「!? おいおい、お前って奴は」
感心するかやのに。
「かやの殿!」
強張った表情のまま、すみ田が言った。
「今の内に、抜けるでござる!」
「いや。だから、糸ーー」
「っは!」
ひゅん!
っひゅ、ひゅんンんッッ‼
槍が糸を裂いた。
「強行突破をするでござる!」
「いやいや。この時点で強行突破じゃないだろう」
「! いいから! 行くでござるよッッ‼」
その時、蜘蛛が動いた。
飛びかかった。
その空気の動きを、すみ田は背中越しに感じていた。
「--何故、死に急ぐのか」
目を細めて、そう呟いた。
細長い槍が、一本と、二本と。
また一本と、一本と。
蜘蛛の身体を貫いていく。
ギャアアアアアァァァアアッッ‼
蜘蛛の悲鳴が通路にーー《イキバシ》に轟いた。
「あーあ~~殺しちゃった」
「拙者たちを襲おうとしたのはあちらでござる! 致し方あるまい!」
「まァ~~だけどさ~~ま、殺ちゃったし、後の祭りか」
含みのある言い方をするかやのに。
「--……言うでござる。かやの殿!」
息を飲み、すみ田も悪いに想像がいった。
だが、それは。
当たってしまう。
「子蜘蛛がさー居るってこと! 走れ!」
「--~~っつ‼」
すみ田は、恐怖に声が出なくなってしまう。
だからなのか、辺りに点けた灯りも、時折。
点いたり、消えたりを繰り返してしまう。
「一体! どこに女王蜂が居るのでござるか!」
ようやく、すみ田は声を振り絞って言い放った。
「この先だよ! もっと、もっと奥のーーこの先だよ!」
腕を横に大きく伸ばしながら。
かやのが言う。
「本当でござろうな!?」
「ああ、もちろんさ!」
泣き声で聞き返すすみ田に。
「--動けるわけがないんだからね」
その言葉に。
すみ田は口をへの字にさせ。
喉を鳴らした。
だから、あえて訊き返さなかった。




