ジンギスカン
今回はかなり短いです。2000字に届いてません。
さっくりとお読みください。
京大総長の式辞の件はちょっと驚きました。
サブタイトル、やばいのかな?
ちょっと変更するか、考えています。
今回は、ジャーマンのユーロディスコの曲名とはちゃうねんで。そこ重要ですねん。
五月、連休だったが、出張続きの耕助をおもんばかった樹里は特にどこに行きたいとも言いださなかった。
よく晴れた午前、樹里は朝ごはんを終えても、パジャマを部屋着がわりにしてダラダラとリビングのソファにごろんと横になり、学校の図書室で借りてきた『かいけつゾ◯リ』シリーズを開いていた。
台所の片付けを終えた耕助も部屋着でコーヒーを片手にくつろいでいた。
「ねぇ、ちょっと暑くない?」
「ん? 今日は気温が上がるって天気予報で話していたな。」
「どのくらい?」
「二十五度だったかな。」
「それで、こんなに暑いの?」
「まあ、九州に比べると涼しいのかもしれないけど、十分に初夏の気温だぞ。あと、家は日が差し込んでいるからな。室温が上がっているんだろ。窓でも開けるか。」
「ん。」
どれと耕助は立ち上がってベランダに通じる大きな窓を少し開けて、空気の入れ替えを行なった。乾燥した五月の風が樹里のところまで届いた。
「ん? なんか? 肉くさか!! 」
「ああ、神宮で花見をしているからだな。この時期はいつもそうだぞ。」
「神社で肉なんか焼いちゃダメじゃなかと? って、花見? 」
「この時期だけは許されているんだぞ。あと、こっちは花見といえばジンギスカンだぞ。」
「うそ!? 」
「後で散歩でも行ってみるか。」
本を閉じた樹里は胡散臭げに耕助を見上げて頷いた。苦笑しつつもまた窓を閉めた耕助は空になったマグカップを手にキッチンに行き、さっと洗って水切りかごに伏せた。
「友達も行っているんじゃないか? 」
「ゆりかちゃんは家族で東京。リゾートで遊んでくるって。他のみんなもあちこち行くって。」
「…………樹里もどこか行きたいか? 」
「もう予約とか無理じゃなか?」
「ん〜、ドライブくらいだったら……」
「あなたが疲れるだけっちゃ。そんなら、うちは家でゆっくりしてる方がいい。」
「いや、でも、来年もいられる保証はないし……」
「向こうは向こうで楽しそうっちゃ。この時期は観光なんて無理って姐さんが話しとったけん。」
「あっ、まあ、そうだな。地元特権が使えるな。」
「ん。だから、あなたが気にすることはなかとよ? 」
耕助は深いため息をついた。
「姪に気を使われる叔父ってどうよ? 」
「だ〜か〜ら、あなたはおぢさんやなかとよ。まだ若いけん。」
「親戚関係の叔父だっつうの。」
「うち、なんかよう馴染まん。」
「まだなれんか? 由貴のことは姐さんって呼んでるだろ? それと同じよ。」
「姐さんは姐さんやけ、姐さんなの。」
「…………俺には理解できない。」
昼を外で食べることにして、樹里と耕助は外に出れるような姿に着替えた。
エレベーターから降り、マンションの外に出るとやはり羊肉の焼ける香りが辺りに漂っていた。樹里はデニムにピンクのふわりとしたブラウスを合わせて、ジャケットに薄手のサープラス風のコートを羽織った。耕助もデニムにTシャツ、麻のカーディガンを羽織っていた。
「寒くないか?」
「ん。それよりもジンギスカンの匂いがすごい。何か、お祭りの生け贄みたい。」
「お前、おっかねえこと言うな。じゃあ、神社の公園に行ってみるか。」
耕助は南の方に向かって足を進めた。樹里の足で10分ほど行くと、公園の入り口にたどり着くのだったが、地下鉄駅からの合流する交差点で渋滞に巻き込まれた。家族づれや大学生のサークルなどの集団は手にアウトドアの道具や炭焼きなどを持ち、大きな声を出すものはいなかったが静かにテンションが上がっている様子だった。
「ん!? 」
公園の入り口からは白い煙が風に流れて二人に向かってきた。
慌てて樹里はポケットからハンカチを取り出して口と鼻に当てた。
「すごいだろう。道民はどんだけ、ジンギスカンが好きなんだよって感じがするよな。」
「なにこれ? 焼肉? まるっきり火事でしょ。どんだけ、ボンクラぞろいなんじゃ。匂いが取れんちゃろ。」
「まあ、そう言うな。やっと春が来たんだから、少しははっちゃけたいんだぞ。匂いは、まあ、雨が降れば自然になくなってくさ。」
「ふぅん。姐さんだったら、怒りそう。」
「そうだなぁ。こんなん、花見と言いまへんわ。とか言いそうだなぁ。」
「あんまり、似てないね。」
二人は微笑みを交わした。
「いやぁ、お店をたたむゆうたら、お馴染みさんだったお店の子たちがお花見に誘おてくれはりましてなぁ。いやぁ、こっちに来てから初めてやったんどすえ。ジンギスカンもなかなか楽しゅうおすなぁ。」
「予想と違いすぎる。」
「姐さん、キャラぶれしてる。」
「ん?」
昼酒を嗜み、首まで赤くなった由貴は首をひねって二人を不思議そうな顔を見せた。




