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学校で人気な女の子と二人きりでカラオケに行くようになって、かれこれ一年経ちました。(旧題: C線上の愛華)  作者: 夏野恵


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1/7

第1話 歌の上手さって、ほとんど好感度だから。

「やっぱ立野さんって歌上手いね」

「そうかな」


採点終了ボタンを押しながら答える。

しばらくすると、採点結果が表示された。


87点——、全国平均より少しだけ上って感じ。

めちゃくちゃ上手いわけでも、下手なわけでもない。


「ほら、立野さんってめっちゃ楽しそうに歌うじゃん」


それが私の歌を上手く見せているらしい。


「まあ、曲次第ってところでもあるけどね」


全ての曲で楽しく歌えるわけじゃないし。


「次、宮永さんの番だよ」

「あーそうだった」


すぐに彼女はソファから立ち上がる。

彼女の姿を一瞥してから、モニターに映る曲名を確認した。


「あーこの曲、宮永さんも知ってるんだ」

「もちろん」


「最近、めっちゃ流行ってるからね」と口にしてから、宮永さんは歌い始めた。


ここは私たちの通う高校から2駅ほど離れたカラオケボックス。

なんだかんだ3年近くお世話になっている、個人経営のお店だ。


授業が終わった日の放課後に、私たちはここに来ている。


今、隣で歌っているのは宮永さん。

少し前から、一緒にカラオケに行き始めた間柄だ。


今の私たちの関係を表現するのは難しい。


少なくとも、友だちとか幼なじみとかではない。

宮永さんのこと、そんなに詳しく知らないし。


そもそも、私たちは同じクラスになったことが一度もない。


春休みに、同じクラスになれたらいいね、って話をしたけど、そうならなかった。

まあ一緒のクラスになったところで、話すことなんてそんなにないんだけど——


「やっぱサビがむずいねー」


1サビ終わりの間奏で、宮永さんが呟いた。


「そんな難しい感じで歌ってる雰囲気じゃなかったけど」

「いやいや、めっちゃむずいって」


「後で歌ってみてよ」と呟いてから、すぐに2番に入った。


ほとんど同じタイミングで、私は飲み物に口を付ける。

宮永さんの後に自分が同じ曲を歌ったら、下手に聞こえそうで嫌だな。


さっきの話は聞かなかったことにしよう。


宮永さんは歌が上手い。

いや、『歌が上手い』という表現は適切ではないかもしれない。


だって一般人の歌の上手さは、ほとんど好感度だから。


好感度の高い人が歌を歌えば、歌が上手いように聞こえる。

逆もまたしかりで、嫌いな人の歌はどう頑張っても下手に聞こえてしまうものだ。


だから私は、宮永さんへの好感度が高いのかもしれない。



実際、宮永さんのことはそれなりに好きだ。


歌うときの姿勢とか、

透き通るような声とか、

揺れるミディアムボブとか。


でも一番良いのは、歌い終わったときに褒めてくれるところ。


「サビの音程バッチリだったね!」とか「語尾の処理がめっちゃ丁寧だった!」とか。だから私も、できるだけ彼女の良いところを探すようにしている。


そもそも、私は彼女と同じタイプの人間ではない。

学校の立ち位置的なものが、宮永さんとは全然違う。


宮永さんは同じ学年のほとんど全員は知っているような女の子。

私は同じクラスの人が全員名前を覚えてたらいいな、くらいの人。


そのため、彼女を時間を少し独占することのできる嬉しさみたいなものはある。



「へーこの曲、ラスサビで2回も転調するんだね」


宮永さんが歌い終わってから、曲の感想を述べる。


「立野さんってこの曲、そんな知らない?」

「通しで聞いたことはないかも」


1サビまで聞いて、満足してブラウザバックした記憶がある。

そんな話をしているうちに、すぐに採点結果が出てきた。


87点——、全国平均が79点だからかなり高い。

「おー」と言いながら、私はパチパチ拍手をする。


彼女はすぐに採点をスキップして、私に視線を向けた。


「次は立野さんだけど、まだ曲入れてない?」

「あーちょっと待って」


宮永さんに応えて、私はジャンル別のランキングを開いた。


さっきも言ったけれど、私と彼女は似ていない。

でも似ているのが2つだけある。


1つが好きな音楽で、もう1つがカラオケという趣味だ。


私たちはいわゆるインターネット発の、一般の人が作った曲をよく聞いている。

そしてそんな曲を、カラオケで歌うことが好きだったりする。


私と彼女が初めて話をしたのも、このカラオケボックスだった。


「これにしようかな」と呟いて、私は曲を予約した。


「あっ、ついに立野さんの十八番来たじゃん」

「ハードル上げられると歌いにくいからやめて?」

「大丈夫だって」


そう言いながら、彼女は飲み物を口に含む。


「ん、ん」と喉を鳴らして、私は歌い始めた。




「立野さんってさ、進路どうするんだっけ?」


残り時間が10分になったところで、宮永さんがおもむろに口を開いた。


「今のところは、地元の大学かな」

「それってあの大学?」

「そうだね」


地元にある普通の大学だ。


「宮永さんは?」

「私もそこなんだけどさぁ……」


「ちょっと話聞いてよ」みたいな様子でこちらを見てきた。


「ほら、模試の結果返ってきたじゃん」

「あー返ってきたね」


5月頃に受けた模試のことだろう。


「あれで私、ちょっと結果が悪くって……」


笑うところじゃないけど、思わず笑みがこぼれる。


親から発破をかけられたようだ。

受験生らしいといえば、受験生らしい。


「私、どうしたらいいと思う?」

「まあ勉強した方が良いんじゃない?」

「それはもちろんわかってるんだけどさ……」


マジレスしないで、みたいな視線を投げられたが気づかないフリをする。


「ほら、立野さんって成績良いじゃん」

「そこそこって感じだけどね」


別に、めちゃくちゃ良いってわけではない。

第一志望の大学に合格することはできる成績ってくらい。


「どうやって立野さんは勉強してるの?」

「えー普通に勉強してるってだけなんだけど……」


ちらっと彼女を見ると、疑わし気な視線を向けてきていた。


「いや、ほんとにそれだけだよ?」

「それだけだったら、私困ってないって……」


そう呟いて、宮永さんは飲み物に口につける。


彼女の首筋に、小さな波ができた。

そしてそれは、すぐに消えていく。


じっと眺めていると、宮永さんと目が合った。


「どうしたの?」

「いや宮永さんって、万人受けする可愛さだよなって思って」


思ったことをそのまま口にすると、部屋の空気が少しだけ揺れた。


「……それってどういうこと?」

「女の子から見ても、嫌味にならない可愛さだよねってこと」


男の子から好かれる可愛さっていうのは、その多くは女の子から嫌われる。

だから女の子から好かれる可愛さというのは、本当に難しい。


でも宮永さんは後者のほう。

だからすごい。


「立野さんも、めっちゃ可愛いじゃん」

「それ言うのって宮永さんくらいなんだけどね」


宮永さんみたいに、めちゃくちゃ可愛いわけじゃない。

私はどこにでもいる、普通の女の子だ。


「……別に、お世辞じゃないけど」


私たちの部屋だけ、世界から切り離されたみたいに静かになった。

どう返事をしようか考えていると、プルルルル、という音が部屋中に響いた。


「はい」


私はすぐに受話器を取って、店員から退出時間になった旨を聞く。


「そろそろ出よっか」

「……うん」


少し遅れて、彼女はこくりと頷く。

忘れ物が無いかを確認してから、私たちは部屋を後にした。


セルフレジで半分ずつお金を出してから、外に出る。


私たちが入店した時よりも、辺りの景色は暗くなっていた。

赤みを帯びた太陽に照らされて、同じくらいの大きさの影が揺れる。


「ちょうどいい温度だね」

「そうだねー」


しばらく私たちは、何も言わないで歩き続けた。

信号機が赤になったので、スマホを取り出そうとした。


「……ていうか、なんだけどさ」


宮永さんが小さな声で口を開いた。


「うん、なに?」

「いやーあの、言いたくなかったら全然言わなくてもいいんだけど……」


やけに前置きしてくるな、と思いながら彼女の言葉を待つ。


信号機が青になったので、私は歩き始める。

それに少し遅れて、宮永さんがついてきた。


横断歩道を渡り切ったくらいで、やっと彼女は口を開いた。



「立野さんってさ、恋人とかいないよね?」

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