002 追放された勇者とニャン娘の英雄譚――「できすぎた逆転劇」への違和感
<リリィ>
ロウィンは「はじまりの町」のギルドに足を踏み入れた。
鼻をくすぐるエールと錆びた鉄の匂い。
そこには、村人Aコースの教室にはなかった、剥き出しの「生」の活気が満ちていた。
壁の掲示板に並ぶ依頼書を眺めていると、受付の女性――リリィが朗らかな声で近づいてきた。
「こんにちは。新顔さん、何かお探し?」
「掲示板の依頼を見ていたのですが……。何か、初心者に適したものはありますか?」
リリィは慈しむような笑みを浮かべ、声を潜めた。
「それなら、まずはこの町の『常識』を知っておいた方がいいわね。実はつい最近、ちょっとした騒動があったのよ」
ロウィンが問い返すと、リリィは芝居がかった仕草で話し始めた。
「町のイベント中、ある勇者パーティーが大不祥事を起こしたの。最初は英雄として歓迎されていたけれど、その裏では、ギルド資金の横領に、商人への不正な恐喝……。町の人々を欺き、私腹を肥やしていたのよ」
ロウィンは目を見開いた。
記憶をリセットしたばかりの彼にとって、勇者は高潔な存在のはずだった。
「勇者が、そんな悪事を……?」
「ええ。でも、真実は暴かれたわ。元パーティーの一員で、ニャン娘のサラさんがずっと不当な扱いを受けていたのだけれど、彼女がレイナさんと共に、その化けの皮を剥いだの」
リリィは楽しそうに、その光景を語る。
「広場でサラさんが勇者たちを問い詰め、レイナさんが証拠を突きつけた。サラさんの戦い方はまさにニャン娘そのもので、爪の一撃で勇者たちはボコボコ。そのまま町を追放されたわ」
勇者がニャン娘に叩き出される。
異世界でも信じがたい結末に、ロウィンは思わず苦笑を漏らした。
だが、同時に胸の奥で小さな違和感が疼く。
「……それで、サラさんたちは今、町の英雄というわけですね」
「その通り。今や二人は希望の象徴。魔王アスタロス討伐の最有力候補とまで言われているわ」
魔王アスタロス。
その名を聞いた瞬間、ロウィンの視界に一瞬だけノイズが走った。
勇者が墜ち、虐げられた者が英雄となる。
一見すれば痛快な「逆転劇」だが、何かが、あまりにもできすぎている気がした。
(自分には、まだ知らない力がある……。そして、この世界の『流れ』には、何か別の意図があるんじゃないか?)
大きく深呼吸をすると、周囲の喧騒が遠のき、時間の粒がゆっくりと流れるような錯覚に陥る。
ロウィンの中に眠る「何か」が、この世界のプロットに触れようとしていた。
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