第六話:遅刻魔の償い
部屋に行くと、他クラスの男子も集まっているのか、20人近く人がいた。想像していた通り、静かな部屋ではなかった。
まるで動物のような奇声をあげる者、ゲラゲラ笑う者、枕を投げ合う者など、散々だった。
それになんか変な匂いがする・・
「お!やっと来たな晴。この遅刻魔!」
晴輝が部屋に入ったと同時に伊織から遅刻魔の称号を貰ってしまった。
伊織の声を聞いためちゃくちゃやっていた奴らも晴輝に目を向ける。どうやら、この時間に大きめのリュックサックを持っているのが珍しかったようだ。
「え、君今来たの?遅過ぎでしょ。何時だと思ってるんだよ」
伊織に負けず劣らずのクラスのムードメーカーの久保明人が晴輝に向かってそう言う。
それにより他の男子もまたゲラゲラと笑い出した。遅刻のレベル超えてるよ。とか逆に来るの明日からでも変わんないだろとかなどで、1組男子の部屋は笑いの渦に包まれた。
晴輝も「寝坊しちゃったんだよ」と少し笑いながら答えた。
すると久保が缶ジュースのようなものを持って近づいてくる。
「じゃあ遅刻した一ノ瀬君には罰としてこれを飲み干してもらいまーーす」
目の前でそう言われ、部屋に入った時の『変な匂い』の正体がわかった。
「ちょ・・、お前らどうやって酒なんか持ち込んだんだよ」
久保の呼気からはアルコールの匂いがした。酒を飲んだことがない晴輝でもかなりの量を伊織、久保を筆頭に皆が飲んでいるのがわかった。
「そんなこといいじゃん、いいじゃん」
「お、一ノ瀬飲むのか?グイッといけ!」
「みんな飲んだし、お前も酔わないとダメだぞー」
「晴、飲め飲めー」
伊織も他のやつらもテンションがさらに上がってきた。久保に口の空いた酎ハイの缶を渡される。缶には『アルコール度数5%』と書いてある。
もうこうなった以上、場をしらけさせるわけにも行かない。けど、飲むのに罪悪感や怖さがないわけでもない。
でも、みんな飲んでるしいいか。と思い、一口だけ人生初のアルコールを摂取した。
「え、これ美味いかも・・」
合宿所に着き、トイレに立ち寄ってから自分達の部屋に戻った。
「ただいまー」
「あっ、玲奈!遅かったから心配したんだよ?」
部屋に入るなり、クラスメイトのの伊藤未来が「おかえり」より先に心配の言葉をかけてくれた。
「本当だよ。だからついて行くって言ったのにー」
未来の影から同じクラスの岡島千尋の声が聞こえてきた。
「ちょっと道に迷っちゃってた」と軽く嘘をついた。
「玲奈ってたまに抜けてるよね」
「もう明日からは一人で出かけたらダメだからね」
未来に比べしっかり者の千尋から明日からの外出は3人で行かないと出さないと言われてしまった。
「わかりましたー。あ、これ紅茶ね」
2人に買ってきたものを渡し、「ちょっと顔洗ってくる」と言い、部屋を出た。
(まさか、あいつが・・・)
玲奈は鏡に映る自分の顔を見ながら、今日起こった出来事を思い出していた。
夕飯とお風呂を済ました頃、今日の授業でボールペンのインクを切らしたのをふと思い出した。明日からも授業はあるし、ずっとみんなと居たから一人になりたい気分だった。
合宿所から30分ほど歩いて、目的地のコンビニについた。未来たちの飲み物とボールペンを買い、外に出る。少し歩き疲れていたため、駐車場の端の方にしゃがんで休憩していた。
『君、すげぇ可愛くね?』
急に頭の上からそう声をかけられた。顔をあげると、いかにも不良でチャラそうな男が二人いた。
『うわっ、まじで可愛いじゃん。今から俺らとドライブ行かない?絶対、楽しいからさー』
もう一人の男がそう言って近寄ってくる。
ナンパだ。やっぱり、未来たちについてきて貰えばよかったと後悔した。
『あたし、そんな時間ないし、行きたくないです』
『そんな冷たいこと言わないでよ。絶対楽しませてあげるよ?ご飯も奢るからさ』
執拗なナンパ男たちに嫌気が差し、つい声が大きくなってしまう。
『だから、嫌だって言ってるじゃないですか!』
『怒った顔も可愛いね。君、大学生?』
『私、高校生です!先生に言いますよ!』
どうしよ。本当にしつこい。早く帰りたいけど、1人で帰ろうとしたら送って行くよとかで、より面倒なことになるに違いない。
その時・・・
『バァァァァン』
(え、なに?)
急にエンジンをふかす音が聞こえた。その音の主であろうバイクは大きな音を出しながら、コンビニの駐車場をグルグル回り始めた。まるで暴走族のように。
それに腰が引けたのか、別れ言葉を残して、ナンパ2人組は立ち去って行った。
それはよかったが、駐車場を回っていた時、ヘルメット越しではあるが、目があった気がする。
(助けてくれ・・た?)
その暴走族はコンビニに入って行くのが見えた。もし助けてくれたのなら、少し怖いけれど、お礼を言わないと恩知らずだと思った。コンビニから出てきたタイミングで礼を言おう。
『先ほどはありがとうございました。本当に助かりました』
深く頭を下げて礼を言った。それと礼を言いにきたのは興味本位だけど、顔も見たかった。
『いえ、俺はなにm・・』
『え、うそ・・』
その暴走族はクラスメイトで隣の席の男子、一ノ瀬だった。
一ノ瀬だと知った時は「思っていたのと違う」というのが正直な感想だった。
全く目立たない、どちらかと言うと陰キャに近いやつだと思ってたし、1年生の時も同じクラスだったらしいけど、そんなのいたっけ?レベルの人に助けられた事実に、どこか複雑な気持ちになった。
その後の一ノ瀬は少しそっけない態度ではあったが、自分に色目も使わず、合宿所まで一緒に歩いてくれた。その事だけがとにかく今の自分にとって有り難かった。
それに私服のあいつは初めて見た。いつものサラリーマンのような着こなしの制服とは印象がガラリと変わっていた。
オーバーサイズのTシャツにチノパンとラフな格好をしていて好印象だった。
服も良かったが、ヘルメットを被っていたせいか、いつもは鬱陶しい髪がセンターパート風になっていて少し格好良く見えた。
(それはそれとして・・)
『もう一人で出歩くなよな。岡村みたいなやつはまたナンパされるだろうし』
あれ、どういう意味だったんだろう・・
(可愛いって思ってるって事・・?)
洗面所の鏡を見ると、少し赤くなっている自分の顔があった。それを見て、また顔が熱くなる。
(そんな訳ないか)
「疲れたからもう寝よ」と背伸びをして部屋に戻った。




