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学校一の美少女は学校一嫌いな奴だった  作者: 夏斗輝明
第三章:恋する私と恋をした彼
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第二十話:クラスの出し物

 3年1組は翌日の放課後、買い出し班とメニュー考案班に別れることとなった。パスタを発案した晴輝と岡村はもちろんメニュー考案班に配属された。


 部活動や予備校がある者は軽い謝罪を述べてから教室を後にしていく。伊織や久保たちも予備校があると帰ってしまった。

今は調理室に晴輝たちを含め、7人ほどが集まっていた。全員持参のエプロンを着ている。


 晴輝は一つ深呼吸をした。


「じゃあ、みんなでパスタのメニューを考案します。買い出し班があと30分くらいで戻るので、それまでに考えよう」


 人前で仕切り役をするのは初めてだった。普段は伊織の横で行く末を見守っていたが、その頼みの綱は今ここにいない。


「はーい!私、パスタ大好き!」


 自分の右側にスタンバイしていた佐藤が手を上げながら距離を詰めてきた。

この子は昨日からやけに話しかけてくるがあまりキャラが掴めない。

パスタは大好きなのは良いが、調理は大丈夫なのだろうか。


その心配の種の佐藤が歩みを止めないまま、距離がゼロになり肩がぶつかる。


「ちょ、佐藤さん近い・・」

「あ、ごめんね?」


 天然系とか鈍感系ではない、この子はぶりっ子系だ。分かっていてやっている。

いかにもあざといし、すぐに離れてくれたが距離感がおかしい。「メニューどうしよっかなー」とスマホでペペロンチーノの食材をスマホで調べている。


「痛っ!」


次は左側に痛覚が生じた。感じているのは左足の中指から小指にかけてだ。


「お、岡村さん?その足どけて欲しいなぁ・・」

左にいる水玉模様のエプロンをつけた生徒に願いを申す。


「やだ。なんかムカつくからやだ」

とご立腹の様子で昨日と同じ殺気を放っている。


(なんだよもう。2人とも訳わかんねぇ)


「・・じゃあ、まずは一般的なペペロンチーノの作り方を書いてきたのでこれを見てください」


 晴輝は調理室の机の上に昨日調べた原価の安くて美味しいパスタのメニューメモを掲示した。


「このパスタの茹で時間7分とか長くないか?あと、ニンニクをみじん切りとかしないといけないのか。フライパンでソースを絡める時にタイミングを合わせるのも大変そうだな」


 頭を悩ませていたのは久々登場の風紀委員の内田真斗だ。

それに対して、晴輝が答える。


「このパスタは少し太めの2ミリなんだ。でも、1・6ミリとかにすると茹で時間を1分くらい短縮できる。それにソースを絡める時間も麺に火が通るから表記の茹で時間よりもさらに1分くらい早くなる」


「ほえー」と内田やその周りが頷く。


「それとみじん切りのニンニクとオリーブオイルをフライパンで温められる時間もあとで測って合わせよう」

「はい、質問です一ノ瀬先生」


 まだ距離が近い佐藤が手をあげる。

「ペペロンチーノは辛いと思うんですけど、子供が食べにきたらどうするんですか?」

「確かに」とまた頭を悩ませる面々。


 北高祭は土曜と日曜の二日開催で、保護者はもちろんだが、近隣住民や幼稚園などの小さい子供たちも大勢の人が足を運ぶ。


「子供用には鷹の爪は入れないようにする」

「え?鷹の爪ってペペロンチーノには必須じゃないの?」

「お子様用のには最後に塩を入れて味を整えれば辛くない。それに加工食品のベーコンも入れるから味はしっかりつくから大丈夫だと思う」


調理室に無言の時間が流れる。

感心の目だろうか、それともこいつ仕切ってるなーという蔑む目だろうか、どこを向いても誰かと目が合う。


「一ノ瀬君、すごい!そんなに細かいところまで考えてたなんて!」

「一ノ瀬、かっこいいよ。イメチェンしてから中身も変わったみたいだな。俺はお前についていくぜ!」


そう佐藤と内田に誉め上げられる。少し照れくさい気持ちになる。


「まぁ、実際に作ってみないとわからないんだけどな・・」

他のクラスのやつもすごいと拍手をしてくれた。人に褒められたことなんてあまりないけれど、こんなのも悪くないかなと思う。


 だが、俺の隣のやつはずっとふくれっ面というか、まだご立腹の様を崩していなかった。


 それから10分ほど経ち、買い出し班が帰ってきた。頼んでいたのはオリーブオイル、加工済みの薄切りベーコン、1・6ミリのスパゲッティ、ニンニク、塩、パセリを試作段階では買ってきてもらった。

パスタを作る手順はこうだ。


 まず、ニンニク1片を微塵切り、鷹の爪を輪切りにしたものをひと摘みほどをオリーブオイルで煮詰める。煮詰まってくるとニンニクの香りが引き立ってくる。そこにベーコンを10グラム加える。


ベーコンに火が通ったら沸騰した茹で汁を入れ、乳化させる。これが難しいのだ。


 乳化とは、本来混ざらないはずの水と油が均一に混ざり合う現象のことである。

例えばマヨネーズのように、酢と油を乳化させており、それらが分離しないように卵を使用することでなめらかなクリーム状に保たれている。


 この現象により、パスタソースに油っぽさがなくなり口当たりが滑らかになる。

さらにソースが滑らかになり、パスタの麺によく絡めやすくなる。

乳化をさせないレシピもあるが調味料や入れる食材が少ないペペロンチーノのうえ、模擬店であることから味がしっかり感じられる方が人気も出るだろうと晴輝は考えていた。


 乳化を終えたソースにパスタを加え、一気に絡めていく。この時のパスタの量は一般的な一人前で作る。実際に販売する一人前をその半分の量にすることで効率をあげる。


「できたぜ一ノ瀬。みんなで味見をしよう」

内田が自慢げな顔で皿を差し出してくる。


 パスタを作る以上、全員初心者なのは当然である。そのためできるだけ数をこなそうという意見でまとまり、時間と食材が許す限りペペロンチーノを作ることになった。


「んー、なんか味が薄いかな」


 佐藤がそう眉間にしわを寄せて評価する。

晴輝やクラスメイトも皿に箸を伸ばすが皆同じ感想を持った。


「料理には自信あったんだけどなー」としょんぼりしている。


 分量は間違っていないが、やはり乳化がうまくいっていない。ソースが絡まらず、味がついていないから薄くなってしまう。


「ねぇ、これ」

「ん?」


ずっと横にいた岡村が晴輝にスマホの画面を見せる。


「『茹で汁を一気に加えてはいけない』って書いてある。空気を含ませながら少しずつ加えていくと簡単に乳化できるみたい」

「なるほど。サンキュー岡村。こんな風にアドバイスとか意見を出してくれるとマジで助かるよ。次はこのやり方で試してみよう」


 次は岡村案を試してみる。もう10品以上作っていたため、みんなの胃の限界が近い。これを最後の品として晴輝を中心に調理する。


「え、これうまくない?みんなも食べてみて」

「本当だ。これ味もしっかりついてて美味しい」

「お店の味みたい」


 そのメニュー考案班の賞賛の声を聞き、スマホなどをいじって遊んでいた買い出し班も「俺らにもくれよー」と集まってくる。


「これうまい!一ノ瀬が考えたのか?」

「いや、俺じゃなくて岡村だ」


そう言うと買い出し班の連中が岡村に目を向ける。


「岡村さん、やっぱり可愛い人は料理も得意なんですね」

「これで決まりでしょ、俺らの出し物」

「俺も作ってもらいたいな」


 喜びと一部欲望を語っている奴がいたが、確かにこのパスタは乳化ができている。味もパスタに染み付いていて誰かが言った通り、店にあってもなんら遜色ないほどだ。しかし、問題が一つ浮上する。


「これ、見た目がちょっとな」

内田がそう呟いた。


 メニューを考えていた段階では気づかなかった。人に売るとなると見栄えも大切になってくる。焼きそばは最後に青のりをふりかけでもすればある程度見れる見た目になるだろう。

 だが、イタリアンのパスタは焼きそば以上に見栄えに気を回さなくてはならない。これは盛り方とかの問題ではなく、質素感が拭えない。皿にのせて見えているのはベーコン、みじん切りパセリ、パスタの麺だけである。


 明らかに質素すぎる。原価を考えるあまり、最低限のものしか用意できなかった。

「キャベツとかどうかな。見た目も大きいし、味も染み込みやすいと思うんだけどどうかな?」

今度は佐藤が改良案を出してきた。

「なるほど。甘みもあるキャベツならペペロンチーノに合うかも。でも・・」


晴輝は調理室の一番後ろにある時計を読む。


「18時が近いから今日はこれで終わりにしよう。続きは来週で」

「そうだね。みんなお疲れ様でしたー」


佐藤がそう言うとみんなが「お疲れ様―」と復唱した。

満腹感と疲弊しながらも、早く帰りたいのかすぐに片付けを始めた。


 20分ほどで洗い物もなくなり、クラスのみんなが調理室を後にする。

先ほど佐藤から「一緒にみんなで帰ろう」と何故か誘われたが、「施錠とお皿とかの枚数を数えなきゃいけないからごめん」と断った。故に今は部屋に晴輝以外に人っ子一人いない。


「えっとフライパンが4個で、パスタのお皿が・・」

「ガラガラ」


急に調理室の黒板側のスライドドアが音を立てた。


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