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そしてヨーロッパ  作者: 船木千滉
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第6話 (その4)

サプライ現場の厳しさ、何もたいへんなのは技術部だけではなかった!

「山岡、お前には頼みたいことがある、ちょっと待て」

 宇佐美は弘明にそう言うと、各部の管理職を呼び集めた。


 関係者が集まると宇佐美は、緊急事態に依り営業と倉庫以外に帰宅を命じるとした。その上で、事の信憑性はともかく、まずは従業員の安全を確保しつつ2件の緊急案件をなんとか実行したいとした。


 一つは、大西洋のサンタマリア島沖で航行不能となったコンテナ船の件、もう一つは、フランスのルアーブル港に停泊中している韓国船向け船用品。


 韓国船の方は昨日宵積みしたものの、あと一品が入荷次第直ちにトラックを出すと、担当者も呼んで細かく指示を出した。正に立て板に水で繰り出す宇佐美の指示は明快で、その物言いは用意周到に練られたものに違いなかった。


 ただ弘明は、指示の中に出てくる――Chinese cabbage――の意味を測りかねた。これもまた弘明には欠落した語彙だった。


 韓国船の担当は、弘明を迎えに来たフィリピンスタッフで、指示に対してすばやく「Yes sir」と言い切ると、チラッと弘明にウインクを残し足早に倉庫へ向かった。他の管理職も宇佐美の指示を受け自分の部署へ散った。 


「待たせたな」

 と言って、宇佐美は弘明の前に座った。


「やはり現場は違いますね」

「ああ、年中こんなもんだ」


「あの……韓国船へ納める物は、なんなのです?」

「うん? Chinese cabbageか……ああ、白菜のことだ」


「白菜……を、わざわざ?」 

「なんでもやるさ――」


 宇佐美が言うには、キムチなしで韓国人は船を出さない。だがフランスの白菜はパサパサでキムチには向かず、わざわざオランダから納めるという。


 ロッテからルアーブルまで約550キロで6時間、絶対に今夜の出航に間に合わせねばならないと言うのだ。


 現業の厳しさを知る弘明に、改めて宇佐美が言う。 

「それでなあ、コンテナ船の件で頼みたいことが……」


 彼が切り出したのは、その船が五洋造船の建造だが転売でろくな図面がない。そこで弘明になんとか手に入らないかと言うのだ。


 洋上で航行不能となった船の船主は、何社かに曳航の引き合いを出し、現場到着までに見積を出した会社に注文するらしい。既にロッテのサルベージは自社タグを現場へ急行させ、事は急を要すと言う。


 それをなんとかしろと宇佐美は、

 ――お前を男と見込んで――

 と言い出しそうな目で、弘明に迫るのだった。


(第6話おわり)

第7話、明日へ続きます!

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