旅にマップは必需品です!
「それにしても、一週間で魔女王成敗の旅に出ろなんて、あいっかわらずあのイケメン残念王子は無茶を言うわねー」
貴賓室に勇者のマチ、賢者のサキ、聖女のエリの3人だけになると、マチは呆れたように言って、ソファに背を預けた。
「普通旅って言ったら、最低でも1カ月くらいはプランを組んで、旅先の宿とかも決めてから、出発するものですよね?」
元公務員にして現聖女であるエリも相槌を打った。
「だいたいこの世界に来てからまだ3日じゃねっすか。いきなり異世界ってか、見知らぬ別の国に来てそうそう、またこっから大移動していただきまーす、なんて、無茶振りにもほどがあるっつーの!ホンット世間知らずだよね、あの王子!」
元JKで現賢者のサキも負けていない。
「そもそも、ここがどういう世界かもよくわからないのに、アタシたち、いきなり旅っていうか、冒険に放り出されるワケ?」
「そういえば、昔のテレビ番組には、そういう無茶振りの芸人泣かせの企画が多かったわね〜」
若いサキに、見た目は若いが中身はBBAのマチは思い出したように言った。
「今の大物タレントが、昔はそんなことを〜みたいな過酷な企画がいっぱいだったわ〜」
マチがしみじみしてると、
「マチさん!テレビで思い出したんですけど、スマホ!スマホ、持ってきてたんですよね?どうです?何か使える機能とかありましたか?!」
エリが身を乗り出した。
「ふっふっふっ、それがねぇ〜」
マチはニヤリと笑い、もったいぶってから、礼服の胸ポケットからスマホを取り出した。
「ジャジャン!実はこれで、マップ機能とカメラ機能が使えます!」
YouTubeも見れたことは、なんとなく黙っていた。
「おお、スゲー!」
「どういう原理かなんて、もうよくわからなくても仕方ない気がしてはいましたけど、マップって、この今いる場所の位置情報がわかるってことですか?」
サキとエリがマチに詰め寄った。
「そうなんだけど、ホント、深く考えたら負けって気しかしないわよねぇ」
マチは、はぁ〜っと息を吐いた。
「でもね、問題がひとつあって…」
「なんです?!」
問いかける、エリとサキの声がダブった。
「充電がもう20%切ってて…」
「あーそりゃ、位置情報を常にオンにしてたら、電池くっちゃいますよ〜」
と、サキ。
「充電器はお持ちではないのですか?ーーいえ……あっても一時しのぎにしかならないけれども……」
そう言って表情を曇らせ下を向いたエリに、マチは、
「私は、なんとかなるんじゃないかと思ってるの!」
励ますように言った。
「この世界には、電気がある!それも日常生活に使われているレベルで!思い出して、ウォシュレットや、宝物庫に至るまでの道のりのLEDらしき光源、この部屋だって、電灯のスイッチらしきものは見当たらないけど、シャンデリアは、どうみても電気の灯よ!」
エリがハッとしたように顔を上げる。
「電気がある…そうですよね!そうだわ!」
しかしまた思い悩むように、
「でも……コンセント、コネクター、ケーブル、端子、それが合わなければ、結局充電は……」
肩を落としたエリに、マチは右手の人差し指を振って見せた。
「アテならあるわ!」
「えっ?!」
ここで、マチはサキに振り向いた。
「あなたよ、サキさん、あなたの賢者の力は、これあれかしと思った事象を実現させること!あなたなら、できる!」
ソファの前のテーブルに置かれてあったクッキーをつまみ食いしていたサキが、ギョッとした様子でマチとエリを振り返る。
「あ、あらひ?」
もぐもぐごっくんとクッキーを飲み込んだサキは、目をまんまるにしていた。
「そうよ、あなたは深く考えることはないの、ただ、このスマホの充電できたらいいなーと思うだけでいいの。なんなら、『このスマホ充電100%になれ!』と、口にしたほうが効率的かもしれないけど!」
「そ、そんなんでいいのかなぁ……?」
力説するマチに、サキは押され気味、というか、ちょっと自信無げ。
「あたし、ホント難しいことはよくわかんないんだけど…」
「むしろ難しく考えちゃダメなのよ、カリーナさんのスカートをめくったときの事を思い出してごらんなさい!」
サキは、ハッとしたようにマチを見つめ返した。
「あのときは、なんも深く考えてなかったっす!」
「それでいいのよ、さぁ、このスマホを持って、『スマホの充電100%になーれ』と呟いてみて……」
マチはサキにそっとスマホを差し出した。
サキはスマホを手渡されると、目を閉じて一呼吸したあと、
「このスマホの充電100%になっちゃいなよ〜!ドャァ」
スマホを高く掲げて、そう呪文?を唱えた。
すると!
スマホが光った。
スマホの画面ではなく、スマホ自体が発光したのだ。
ピッカーっは、もうええっちゅうに、と思いつつ、マチは、おそるおそるサキの下ろした手の中のスマホを、エリと一緒に覗き込んだ。
マチも、エリも、サキも、目を輝かせた。
「成功だー!」
と、サキが叫んだ。
「なぜか涙が出て来ちゃったわ…」
と、エリ。
「サキちゃん、グッジョブ!」
マチは親指を立てた。
サキはちょっと驚いたように、
「ちゃん付け……ちょっと恥ずかしいっす……イヤじゃないですけど……」
言葉の後半は照れているようであった。
「あ、ごめん、イヤだった?」
「イヤじゃなかったって言ったじゃないですかー」
「じゃあこれからも、サキちゃんって呼んでいい?」
「いいっすよ、アタシはマチねーさんって呼びますからね!」
ふふっ、という小さく笑う声がした。
2人が顔を向けると、エリが微笑ましそうにこちらを見ていた。
「エリさんも、さん付けじゃないほうがいーい?」
とサキが少し頬を赤らめて問うと、
「あ、いえ、私は、今まで誰からも『エリさん』でもなく、赤塚さんって呼ばれたことしかなかったから、お二人がエリさんって呼んで下さるだけで充分嬉しいっていうか……。私も……他の人のことを下の名前で呼んだことがなかったから、今は、それだけで充分嬉しいので……だから……ですので……ありがとう……なのです……ぅ……」
こちらは真っ赤になりながら、後半しどろもどろになったエリであった。
そんなエリを見て、
「いつでも、おねーさんって呼んでいいのよ?」
「エリさん、可愛い過ぎます!」
なんて反応を返すマチとサキだった。




