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第10話:拝啓、元家族の皆様。私は幸せなので二度と関わらないでください


あれから、一年という月日が流れた。


私は今、北国の地方都市にいる。


転勤願いを出してたどり着いたこの街は、空気も水も美味しく、何より人が温かかった。

 かつて私を縛り付けていた「お姉ちゃんなんだから」という呪いの言葉も、ここでは聞こえない。


「恭子さん、この資料のまとめ、すごく助かりました!」


「ありがとう。また何かあったら言ってね」


新しい職場での人間関係はすこぶる良好だ。

 前の職場で培ったスキルはここでも重宝され、私は充実した日々を送っている。


休日には地元の美味しいカフェ巡りをしたり、温泉に行ったり。


ああ、人生って、こんなに楽しかったんだ。


私は三十歳を目前にして、ようやく本当の意味での「自分の人生」を歩き始めた気がする。



ある晴れた日曜日。

 お気に入りのカフェで読書をしていると、スマホが震えた。


美穂からだ。


彼女とは今でも連絡を取り合っている。彼女も私の異動後、寿退社をして幸せな新婚生活を送っているらしい。


『久しぶり! 元気? そういえば例の連中の話、聞いた?』


画面に表示された文字を見ても、私の心拍数は一つも上がらなかった。

 ただ、少し懐かしい映画の話題でも振られたような、そんな感覚だ。


「ううん、全然。何かあったの?」


私が返信すると、すぐに長文のメッセージが返ってきた。


そこには、私の「元家族」たちの、あまりにも悲惨な現在地が記されていた。


まず、翔について。

 彼はあれから再就職もままならず、今は日雇いの肉体労働や深夜のコンビニバイトを掛け持ちして食いつないでいるらしい。


狭いアパート暮らしで、激痩せして人相も変わり、かつての「爽やかイケメン」の面影は見る影もないそうだ。


風の噂では、借金返済のために闇バイトのような危ない橋を渡ろうとして失敗したとか、しないとか。

 どちらにせよ、彼の人生は薄暗い底辺を這いずり回るだけのものになった。


次に、実家のこと。

 実家は売却されたそうだ。


父が持ち逃げした退職金の穴埋めと、式場の借金返済のために、住み慣れた家を手放すしかなかったらしい。

 今は、築四〇年の古びた市営住宅に、母と愛梨、そして生まれた子供の三世代で暮らしているという。


母は、昼夜問わずパートに出ているらしい。

 かつて「私は専業主婦だから」と高みの見物を決め込み、娘に我慢を強いていたプライドの高い母が、今はスーパーのレジ打ちや清掃の仕事で腰を痛めながら働いている。


そして、愛梨。

 これが一番悲惨かもしれない。


生まれた子供は可愛い盛りのはずだが、金がない生活に心は荒みきっているらしい。


「キラキラママ」としてSNSでマウントを取るのが夢だった彼女は、今やスマホ代すら払えず、ネットカフェからたまに愚痴を書き込むのが関の山。


『育児辛い』『お金ない』『誰か助けて』


そんな呪詛のような言葉を吐き出しても、誰も相手にしない。


翔からの養育費など望めるはずもなく、新しい男を作ろうにも、子連れで金に困っているヒステリックな女に近づく男などいない。


彼女は、自分が馬鹿にした「お姉ちゃんのような地味な生活」すら送れない、底の底に落ちたのだ。


ちなみに、父の行方は未だにようとして知れないそうだ。

 生きていようが野垂れ死んでいようが、私にはもう関係のないことだ。



「ふぅ……」


私はスマホを置き、温かいカフェラテを一口飲んだ。


不思議なことに、「ざまぁみろ」という激しい感情すら湧いてこなかった。

 ただただ、「ああ、そうなんだ」という感想しか出てこない。


それはきっと、私がもう彼らとは違う次元で生きているからだ。


彼らが地獄の沼でもがいている間、私は青空の下を歩いている。

 住む世界が違いすぎて、同情も嘲笑も届かない。


これが、本当の「絶縁」なんだと思う。


「お待たせしました、シフォンケーキです」


店員の男性が、笑顔で皿を置いてくれた。

 ふと顔を上げると、彼と目が合った。


このカフェの店長さんだ。最近、よく話すようになった素敵な人。


「あ、恭子さん。もしよかったら、今度試作のケーキの味見、付き合ってもらえませんか?」


少しはにかんだような彼の笑顔に、私の胸が小さく高鳴った。


予感。

 それは、今度こそ本物の幸せに繋がる、優しい予感だった。


「はい、喜んで」


私は彼に微笑み返した。


窓の外には、どこまでも広がる高い空。

 過去の泥沼はもう見えない。


私の前には、希望に満ちた未来だけが広がっている。


拝啓、元家族の皆様。

 私は今、とても幸せです。


だから、あなたたちの不幸など興味もありません。


どうぞそのまま、私がいない世界で、あなたたちらしくお暮らしください。

 二度と、私の視界に入らないでね。


(完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


これにて恭子の物語は完結となります。

クズな元婚約者と身勝手な妹、そして毒親たちから無事に逃げ切り、彼女は新しい場所で本当の幸せを見つけることができました。元家族たちは自業自得の底辺生活ということで、皆様に少しでも「スカッと」していただけていれば嬉しいです!


少しでも「面白かった」「恭子が幸せになってよかった!」「ざまぁにスッキリした!」と思っていただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけますと、作者にとって最高の喜びになります!

また、ブックマークやご感想もお待ちしております。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

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