第20話 「いつも食べてるのは」
身支度を終えて大衆浴場へ向かっていると、どこか村の様子がいつもと変わっていた。
変わっていたというか、雰囲気が忙しないというか…
特に村の男達の間でなにやら噂話を広げていた。
まぁそれは良いとして、早くお風呂に入りたい。
「え…」
浴場が見えてくると同時に、女風呂の入り口前に村の男達が集まっているのが見えた。冷ややかな目で横を通り過ぎ、衣服を脱いで浴場へ向かうが少し不安になってきた。
「なんか、いるのかな…」
恐る恐る浴場を見てみると、湯けむりの中に一人湯に浸かる人影が見えた。
黒髪を束ね、細身のスラッとした体型の人だ。
この村の人では無さそうだが、もしかして…
「あの…?」
「きゃっ!?」
声をかけると、驚いて見覚えのある顔がこちらに振り向いた。
「あ、もしかしてフェリスさん?」
「やっぱりアスカさんだ。無事に村に着いたんですね。良かった。」
「おかげさまで。先程は本当にありがとうございました。」
「いえ、お隣良いですか?」
「あ、どうぞどうぞ。というか、私は外部の人間だから気を遣わなくても…」
湯が跳ねないよう、ゆっくりと身体を降ろし、疲れを癒す一声を出す。
「ふぁぁぁ…温かい…」
「ふふっ、気持ちが良いですね」
微笑む彼女の顔を改めて見ると、とても整っている。
目がくっきりとしていて鼻筋もきれい。
ここまで整っている人は初めて見たかも。
ついまじまじと見てしまいそうで、隣にいると少し緊張してしまう。
「フェリスさんって、いくつなんですか?」
「15です」
「えぇっ?!15っ?!」
ウソでしょと言わんばかりに私に視線を向けてきた。
特に胸元辺りを見られているような…
「私より、3つも下だったんですね…」
そして、自身の胸に視線を向け、分かりやすく落ち込んでいる。
「何を食べたらそんな身体に…」
「え?」
「あ、いや…いつも食べたりしてるものあるんですか?」
急に真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
「えっと…あ、ケガワウシのミルクとか毎朝飲んでます…」
「くぅぅぅぅ…やっぱりそうなんだぁ…」
「どうかしたんですか?」
「私達、ここ『アラシア大陸』から西に海を越えた『セレニス大陸』の漁村出身なんですが…」
『セレニス大陸』…
この世界における五大陸の一つと聞いたことはある…
「そこ、基本的に魚介類しか食事に出ないんです…だからこんな骨みたいな身体で…」
「いや、アスカさんとても綺麗です!細くて羨ましい…」
「いやいやフェリスさんの方こそ!15でその身体付きだなんて将来が楽しみ…あ、ごめんなさい」
「ところで、その『海』って何ですか…?」
「え?海、知らないの?」
「私、この村から外に出たことは無くて…出てもラズリに乗って麗峰の周りを翔ぶだけで...」
「海っていうのは、大量の塩水で出来た湖…かな?」
「塩水の湖…」
塩なんてとても貴重だ…でも話を聞いていると1日中使っても使いきれない量だとか…
アスカさんと話していると、まだまだ知らないこの世界の事が聞けてとても楽しい。
「ねぇ、良かったら敬語はやめてお互い呼び捨てで呼ぼうよ。私の事はアスカって呼んでほしい!」
「じ、じゃあ私はフェリスで…///」
「うん!宜しくフェリス!」
「よろしく…ア、アスカ…!///」
初めて、年齢の近い同性とここまで打ち解けて話す事ができた。
こんなにも同性との会話が楽しいものだったなんて…
今までは呪われた一族の末裔ってだけで嫌われ、イリアン以外とは基本的に話せなかった。
「ねぇフェリスはイリアンの事が好きなの?」
「え?いや、分かんない…アスカは?」
「私?」
「ほら、一緒に旅していたライトさんとグロウノーツさん」
「あぁ~…あはは、あの二人は同じ村出身の幼なじみだからなぁ…」
少し表情に迷いを見せてはいるが、アスカはそれを感じさせないよう誤魔化していた。
「幼なじみか…」
私にとってもイリアンは幼なじみ…
でも彼は私にとって…
「綺麗だね、その耳飾り」
「これ?これはお母さんから貰ったものなの」
「へぇ~…なんだろう、それから何か力を感じるような…」
「力?」
「その瑠璃の宝石ってどこで?」
「分からない。物心着いたときからお母さんはこれを着けてて、5年前に片方をもらったけど、理由は分からないけど肌身離さず付けてるようにって…」
「ふぅん、そっか…」
「どうかしたの?」
「ううん、なんでもない!のぼせそうだしそろそろ上がるね!」
「あ、じゃあ私もそろそろ…」
湯から出てきたアスカは足も長く、同性の私でも思わず惹き付けられるような体型だった。
衣服を着て浴場を出ると、男達がまだ入り口前に立っていた。
ようやく理解した。
皆、アスカを一目見ようと集まっていたんだ。
一緒に歩いていくと、男達から小さく歓声が聞こえてくる。
「私達はしばらくこの村に滞在する予定なんだ。だからまたね、フェリス」
「うん、またね」
微笑みながら小さく手を振ってくれたアスカ。
思わず私も微笑んで返した。




