第19話 「約束」
「ノアってまさか…あの呪われた…」
「あ…」
そういえば私達一族はあまり良く思われていないんだっけ…
自分の名前を言ってしまったことを後悔した。
「えっと…」
不安げな視線を向けられていたが…
「そんなの関係ないだろ。この人は俺達を助けてくれたんだぞ。」
いつの間にか気絶していた男の人が目覚めていた。
「助けてくれてありがとう。俺はライトノーツ・エスペランス。ライトって呼んでくれ。」
「ライト…」
「そうね、助けてくれてありがとう。私はアスカ・グレイス。こっちの魔道士はグロウノーツ・エスペランス。」
「同じ名字…」
「そっ!俺の兄貴だ!」
「よろしく。」
なんだか個性が溢れている…きっと冒険者の方たちなんだろう…
「ところで、フェリスさんはどうやってここに…」
アスカが恐る恐る尋ねる。
この大雪原のど真ん中。どこから現れたのか全くわからなかった。
「それは、あの子に乗って…」
「…え?」
後ろで爪を舐めて整えているラズリに視線を向ける。
「またまたぁ〜、そんな冗談を…」
「いやライト見てみろ、ドラゴンの背中。」
そこには人が乗る用の鞍替が装着されていた。
「本当にドラゴンに乗ってきたのかよ…」
「そんな話聞いたことない…」
多分、私は今とんでもない過ちを犯してしまったかもしれない。
村の人達にもラズリの存在は隠していた。
なんならその背に乗って飛べることなんてなおさら…
この人達を助けたい一心だったとはいえ、初めてラズリの事をイリアン以外に知られてしまった。
「あ、あの…ラズリの事は誰にも言わないで…」
視線を落とし、不安げな表情の私を見たライトは…
「何か事情でもあるんだろ?この事は誰にも言わねぇから安心してくれ」
「あ、ありがとうございます…!」
「フェリスさん、この辺りにプロト村ってありますか?私達、そこに向かってて…」
「それなら、私の住んでいる村です」
「なら話が早そうだ。案内をお願いできないか?」
「えっと…」
このまま案内したらラズリが見つかってしまう。
「ちょっとここで待っててもらえますか?」
私は急いでラズリに跨がり、その場から飛翔した。
「本当にドラゴンに乗っている…」
「アスカ、ちょっとほっぺつねってくれ…いだだだだだっ!!?!」
今起きた事は夢ではないのか、アスカに頬をつねってもらったライトだったが、千切れそうなほど痛かった。
「はぁ?!冒険者を助けただぁ?!」
驚きと怒りで口調が荒ぶるイリアン。
「だって、ダイアウルフに襲われててて…」
「で、ラズリが見られたんだろ?!どうするんだよ…!」
「大丈夫、あの人達は黙っててくれるって言ってた。」
「なんで会ったばかりのやつらを信用できるんだよ…」
「それで、村までの道を教えてほしいって言われたから、イリアンの雷電甲虫で道を記してあげてほしくて…」
「おまけに村に案内するつもりか…俺は反対だ。」
この世界においてドラゴンは伝説の話の中だけと言われるほど稀な存在。
しかもそのドラゴンに乗って一緒に飛べる人間がいるなんてバレたらどうなる…
そんなドラゴンであるラズリは能天気に浮遊する甲虫を追いかけ回している。
「お願いイリアン、助けてあげたいの」
懇願する私を見たイリアンは肩の力を抜いた。
「…はぁ…わかった、じゃあ俺をその三人のところまで案内してくれ。直接話す。」
「ありがとう、イリアン!」
私達はラズリをこの場に留まらせ、急いで三人の元へ向かった。
「フェリスさん、来ないなぁ…」
「もしかしたら騙されたとか」
「んなわけねぇ。あの人はそんな人じゃねぇ」
「なんだライト、惚れたのか?」
「おう、一目惚れした」
「えっ…!?///」
「どうしたアスカ?」
「いや...なんでもない……」
「はぁ…ライト、おまえって奴は…」
「なんだよ兄貴」
落ち込むアスカを他所に、グロウノーツもやれやれと首を振った。
「……おーーい…!」
吹雪の中、瑠璃色の髪を揺らして駆け寄ってくる姿が見えてきた。
「お、噂をすれば!おーーーい…ん?」
その後ろに人影も見えた。
「さっきのドラゴン…じゃねぇな…」
「あんた達か?フェリスが助けたっていう三人は?」
金髪で体格も良い男だ。
周りに電気を放っている虫のようなものも従えている。
「あ、あぁ…俺はライトノーツ、こっちは…」
「自己紹介はいい。」
「あ、そう…」
随分愛想が悪いというか…信用が無く敵対視されているような感じだな。
「俺達の村に来訪する目的はなんだ?」
「交易だ。ケガワウシの革とミルクを求めてな」
「……そうか、さっき見たフェリスとドラゴンの事、他言はしないと約束しろ。そうすれば条件付きで道を教える。」
「それはもちろん。条件って?」
「この雷電甲虫をあんた達に尾行させて、電気信号で村にいる間の会話は全て傍聴させてもらう。これが条件だ。もし話ししているのが分かれば即刻この麗峰の奥深くに置き去りにする」
「ちょっと…」
なんだかいつものイリアンではない。多分、私とラズリを守る為に…
「いいよそれで。道を教えてくれ」
「物分かりが良いな。ならこの虫達の光を辿っていけ。少し歩けば村の正門が見えてくる。」
「なぁ、もしかしてあんた村長か?名前教えてくれよ」
「俺は村長じゃないし、信用に値すればそのうち名乗ってやるよ」
「おぉ~、楽しみにしてるぜ!」
そう言うと、三人は甲虫の光を辿り、吹雪の中に消えていった。
「そんなに強く言わなくても...」
「もっと危機感を持て。もしあの三人が何か企てて来ていたらどうするんだ。」
「……ごめん…」
「とりあえず、様子を見よう。あの三人の目的も気になる。」
「え?村へは交易って…」
「…交易にしては荷物が少なすぎる。交換用の品を持っているようには見えなかった」
「確かに...」
あの三人は一体何者か…
ただの冒険者のように見えたフェリスと、何かを感じとっているイリアンだった。




