身もだえるオッサン…キモい
まだ誰もいないオフィスで一人悶えるオッサン。
あかん、最悪の事態や。どないしょ。
「最近、上司に言い寄られてさあ。なんか?プライベートで飲みに行こうなんて誘われて?しかも誕生日よ!!誕生日!あり得なくない?メルアドにも入れてるのに、普通察するよね!空気読めないつーか、ホンとありえない!ホンとに最悪!マジ死ねって感じw」
なんて、会話があのあと、メールや電話で友達やカレシとの間で行われたのだろうか。
下手すりゃ最近流行りのSNSとやらで全世界に対して公開されてるんだろうか?
あー!そうなったら社内晒しもんやないか!どないしょ!!
なんて妄想だけは膨らむが、結局、有効な手だてを打てぬまま、ロクな仕事もできぬまま、勤務時間が過ぎても、俺は一人デスクに取り残されていた。
今日中に仕上げなきゃいけない顧客の経営データ解析資料を打ち込みながら、頭の半分は相変わらず「どないしょー!(;´д`)」状態であった。
「あー!」
とデスクで唸っていると、目の前にアイスコーヒーが静かに置かれた。
「煮詰まったときには頭を冷やすのが一番!」
振り替えると、係長の浦野聡美がニッコリと笑っていた。
「少しシロップも入れましたよ!頭に甘いものを入れないと」
この快活なサッパリとした性格は、老若男女問わず人気がある。
「おおー!サンキュー!」
俺は遠慮なくコーヒーにありついた。
「あ゛~ウマイ!」
「そりゃあこのアタシがいれたんですから」
「だな。」
「で、どしたんです?」
「あ、ああ。あのね、こりゃオレの友達の話なんだけどね。
もしも、若い女性の部下をメシに誘って、セッテイングした日が実はその部下の誕生日だった、ってわかったらどうする?やっぱ日にちを変えた方がいい?」
「そりゃ、事前のリサーチ不足ですな。空気読めない上司。」
「うっ、で、どうすりゃいい?」
「日にちを変えたらかえって意識してるって解って引きますし、かえって気を使わせちゃうんじゃないですか?だったら、その子に高くなく、かといって気の効いたプレゼントを用意したげたらいいじゃないかと。で、早めに解放すること!」
「…なるほど。」
メモをカキカキ…φ(..)
「しっかし、ダメ上司ですねえ。ていうか、友達の話っていう前置きって実はその本人の話だったりしますよね…」
浦野が目を細める。
「うっ!…ちがうちがう!あはは」
「ふーん、まあいいや、ねえ、部長。アタシ今日誕生日なんですよ」
「え、そうなの?」
「直属のカワイイ部下の誕生日くらい覚えといてくださいよ~」
「え?カワイイ?」
「…は?」
「いやー、そうなんだ!おめでとう!高くなく気の効いたプレゼントをしないと!なにがいい?」
「今日は美味しいビールが飲みたいな♪」
ということで、残っていた顧客の経営データの解析資料作成も浦野に手伝ってもらい、我々は遅い夕食へ駅前の居酒屋へと出かけた。
「では、「「カンパ~イ!!」」
「「ぷはー!」」
「浦野聡美ちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます!すみません、わざわざ、お気遣いいただいてー!」
ここで、えっ?というと、また刺すような細い目線が飛んでくるので、さすがに言わない。
「えーと、唐揚げと、ポテトと、ミモザサラダも頼んじゃお、あと、牛スジ煮込みも美味しそう!あと、揚げ出し豆腐もください!」
「そんなに食べると、またふと「…え?」…いやー!腹へった!食べようじゃんじゃん!」
テーブルにところ狭しと並べられた肴をつまみながら、
「で、何歳になったんだっけ?」
「女性にトシをストレートに聞きますか!?フツー!ほんっと、ヒロカズさんは、デリカシーがないですね!」
しまった!また地雷を自ら踏んづけてしまった。
「ご、ごめんなさい…(泣)」
「まあ、いいです!ココのゴハン美味しいし。33歳ですよお。もうオバハンです~」
そうか、もう浦野が入社して10年になるのか、俺との付き合いも10年。今ではお互いに遠慮なく、冗談が飛ばしあえる関係、最大の協力者とも言える。
「いやいや、ここからが大人の魅力の出る頃だよ!聡美ちゃんは男性社員からもダントツ人気があるし。ていうか、誕生日に残業まで手伝ってもらって、しかもこんなとこでオレと飲んでていいのか?」
普段は部下や他の社員の手前、「部長」、「係長」または「浦野さん」と呼ぶが、まあ10年も一緒にいれば戦友みたいなものだ。
こうして、ファーストネームで呼びあう。
「どうせ、彼氏も今いませんし、予定ないしね、一人で家に帰るより、ヒロカズさんと話でもしよーかな、と思ったんですよ。そしたらこんなにご馳走してもらうなんて♪♪」
色気より食い気…なんて口が裂けても言えない。
本当に八つ裂きにされるから(泣)
「それより、ヒロカズさんこそ、彼女つくらないんですか?若い女性社員の人気投票では1位でしたし、モテてるんじゃないんですか?まさかとっかえひっかえ若い女を…遊び人?きゃー」
我社は100人の社員のうち半数が女性だ。たしかに1位だったが、その主な理由が“人畜無害そう”“貢いでくれそう”なんだと浦野から聞かされたことがある。
「いやいや!違う違う!!」
「じゃ、男?そっちもきゃー萌える~!」
「くぉら!人の話をきけ!\(-_-)」
「モテねーよ!第一こんなブラック企業でどうやってつくれってんだチキショー!」「生おかわり!」
俺はビールを煽る。
「世間では、ウチの会社、ホワイトで通ってますよ。腕利きの部長がちゃんと部下を早く帰らせてくれてますからね。」
「ヒロカズさんも仕事以外に本気だせば、彼女の2、3人すぐできる気がするけどな。あ、その時は私も立候補しようかな!?」
「なに言ってんだ!褒めても何もでてこねーよ」
「なーんだww」
「それより飲め!ほら!」
「はーい!すみませーん!おかわり!」
その日は翌日も仕事なので、そこそこに切り上げて帰宅した。
浦野からほめられて、少し自分に自信がついた。もともとネガティブで卑屈で臆病者な俺だが、それでも認められるのは嬉しい。
ふと気がつくと、メールの着信が。




