クリスマスが今年もやってくる
まだ2017年12月が続いています。しばらくややこしいですが、小説内の季節感を推察いただけるとありがたく存じます。
2017年12月24日(日) クリスマス・イブ
オレ達は2人で楽しく食事をした。
少し高め(少しじゃなかった)のレストランでディナーだ。
なんでこんなにオシャレな店を知っているのかって?
そりゃ、オレの行きつけ…ではなく、先日のゴルフの際に山内工業の山内社長にこっそりと教えてもらったのだ。さすが大会社の若社長、美味しいお店を良くご存じだ。
森の隠れ家的な静かなゆったりとしたお店だ。
アミューズから始まり、
・オマール海老と蕪のマリネ 蜂蜜ソース
・鴨のバロティーヌ〜イチジクとフォアグラ入り
・カレイのルーレ白ワイン蒸し
・和牛フィレ肉の網焼きとセロリラブのピューレ
・ヨーグルトのライムのエスプーマ
・ショコラとプラリネ
珍しいからしっかりメモをしてみた。
…が、舌を噛みそうなカタカナばっかしで意味がわからない(泣)
そして、チマチマと小っちゃいのが、ムダにでかい皿に乗っかって出てくる。
いや、美味しいんだよ、とっても。それだけに、田舎者のオレは、思わず大盛りで!と頼んでしまいたくなる。
が、ここは大人だ。紳士だ。ジェントルマンだ。
ぐぐぐっと我慢する。
「とっても美味しい!」
と料理を口に運ぶたびに目を丸くしている由樹。
「このアミュ?なんとか、大皿でいただきたいですね」
と小さな声で囁く。そのしぐさがかわいい。
ああ、虚勢張らなくてもなくてよかったんだ。
「今日はとても楽しいイブになりました。ありがとうございます!」
帰りの道すがら、由樹が言う。とっても嬉しそう。よかった。
「いや、こちらこそ。あ、これプレゼント」
「今日のがプレゼントじゃなかったんですか?」
オレは一枚のカードを渡す。
赤と緑が基調のクリスマスカードだ。
「…『プレゼントはとある場所に隠しています』ですか?」
「ああ、なので一緒に取りに行こう。明日の月曜日は定時退社で頼むよ」
「はい!わかりました!」
彼女は素直に返事をした。
2017年12月25日(月)クリスマス
17時の終業とともに、由樹はかねてからの予定どおりさりげなく退社した。
浦野もいそいそと帰る準備をしている。
北木とはどうなったのか気になるところだが、今はそれどころじゃない。
「おい、ちょっと今日はこれで帰るから、せっかくのクリスマスだ。みんなも早く帰れよー」
「あ~部長、今日はちょっと業務がたっぷり残っているので、残業します。あーはやく帰れる人はいいなあ。今日は徹夜になるかもしれないなあ…」
瀬尾がわざとらしく髪を振り乱してつぶやく。
「おい、君。ちょっと、今日は残業して仕上げなきゃいけない業務はないだろう。なにがあるんだ」
我が営業支援部支援課の森下課長が指摘する。先日退職した安原課長の後任として関連会社からの転勤でやってきたのだ。
「いや、その、丸八水産の経営指針書のチェックが・・・」
「ん?丸八水産なら先日チェックが済んで私が検印を押したじゃないか」
「あ…丸八…じゃあなかった。大山田建設だったかな…」
「瀬尾くん、君の残業したい理由はしらんが、残業代もコストだ。終業後まで残るとそのぶんの光熱費も必要になってくる。わが社は地元企業の経営を支援する会社だ。社員一人ひとりの経営感覚が求められるんだぞ。業務のないときは早く退社したまえ」
几帳面そうにクイッとメガネを直す。メガネの奥は鋭利な目がかがやく。オレより10歳年上のいぶし銀の男だ。
「課長の言うとおりだ。瀬尾、ひとりぼっちのクリスマスは寂しいだろうが、そういうことだ」
「うっ、一人ぼっちは余計ですよお…部長ぉ(泣)」
営業支援部がどっと笑いに包まれた。
「部長、何か御用事があるのでは?」
「あ、そうだった。課長、ありがとうございます。ま、そういうことだ。じゃ、お先に失礼!」
オレが会社を出ると、ビルのエントランスには由樹が待っていた。
「ああ、ごめんな。遅くなってすまない」
由樹をつれだって自社の社員駐車場にむかう。
普段は電車通勤だが、今日はすこし郊外に行くので、自家用車での通勤だ。
「和弘さん、今日はどこに行くんですか?」
「ひ、ひみつだ!」
車は一路、山裾を目指して走る。街を抜け、車も民家もまばらになる。今日も快晴だった。雨や雪ならプレゼント渡せなかったところだ。
夕陽は次第に傾き、夜の帳が落ちる。
車は“とある場所”に着く。
「すまないが目隠しをしてくれないかな」
と由樹に目隠しを渡すといぶかしがりながらも素直に目隠しを着けてくれた。
…こいつ変な場所に連れてくんじゃないだろうな。
…なんてと思われてないかな。ドキドキ。
“とある場所”の敷地内に入ると
“社長”はすでに準備を整えて待っていてくれた。
「社長、お世話になります。すみません無理言って」
「いやいや、なんの。ささ、乗って。今日はオレが運転するから」
中年の社長がヘルメットを被る。
ガー!!グルングルングル!!!!
エンジンがかかり、プロペラが回る。
「さあ、どうぞ。お客様」
オレは目隠しをした由樹の手をしっかりと握り、機体に乗せる。
機内は思いのほか狭く感じる。
しっかりシートベルトを締める。もちろん由樹にもオレが締める。
機体はゆっくりと走り出す。
-ガタガタッ
こりゃ思いのほか揺れるなあ。
オレは由樹の目隠しを取った。




