オトコよ飲め!!
ぐぅ…
ぐっ、
…
げほっん、げほっん!
はっ!
しまった!寝てた!!
座布団にするわり、暖房の暖かさ、昭和世代には心地よい家の雰囲気に、ついつい座ったまま寝ちゃってた!
スマホを見る。ウトウトしていたのは10分くらいだろうか。
あれ?なんか、部屋に気配がする。
背後に…
振り向く。
お土産をいれている袋を覗きこむ少女がひとり…
眼があった。
…ビクッ!!!!
ビックリした猫のように、わかりやすくビックリした彼女は
ザザザ!!!
ものすごい勢いで畳の上を這いながら部屋を出ようとする。
「ちょっ、ちょっと待った!!」
またビクッ!!と肩を震わせて止まった。
「…真樹ちゃん…だよね?」
恐る恐る此方をみる少女。黒い長い髪に、黒い服。
瞳は大きくくりっとしていて、由樹にソックリだなあ。と意外に冷静にそう思ったり…。
こくっ、と頷く。
逃げ腰なのは変わらないけど。
「あの、さ、これ、ケーキ。みんなに食べてもらおうと思って」
「なま物なのだからさ、冷蔵庫かどこかに置いておいてもらえないかな…?」
「…わ、わかりました」
ようやくちゃんと?会話が成立して、ちょっと安心した。
と、そそくさと土産のはいった紙袋を持って、部屋を出てった。
あ、プリザーブドフラワーも一緒に持ってっちゃった。
そして、またひとりになりましたとさ。
…
…
ポツーン
…
…
ああ、この感じ、夏休みの登校日を一日間違えて登校しちゃったこの孤独感。
…いや、違うな。
小学生のとき、チンゲン菜の白和えを食べられなくて昼休みになっても教室に取り残されて白和えとひとりにらめっこしていたあの感じか…。
どうでもいいことを頭に浮かべ、また再び眠くなってきた。
再び出港すべく船こぎだしたその瞬間!
ガラッガラ!ピッシャーン!!!
稲光のごとくガラスの格子戸が勢いよく開き、オレとほぼ同世代であろう女性、お義母さん、もとい、二海みのりさんが現れた。
右足をあげて、足で格子戸を蹴り開いているのが見えた。
右手には何やら料理が盛られた皿を。
左手には一升瓶が。ラベルには「二十歳盛り(ハタチざかり)」と行書体で書かれていて、半分ぐらい減っている。
そして、みのりさんは、顔がすでに紅潮している。オレに照れてるわけじゃないのは間違いないようだな。酔ってるよ、この人。
写真で見た通りの、少し気の強そうな美人は、長い髪を後で束ね、化粧薄い顔を赤らめて…こちらをみる。ていうか凝視されてるよ。
言葉が出ない。
蛇とマングース…じゃなかった。
ヘビに睨まれたカエルだわ。
「…もう、お母さん!」
由樹の言葉に、みのりさんは肩をびくっと震わせ、
「ふん、」
と小さく、言ったかと思うと
ドカっとオレの前に腰をおろす。
「…どうぞ…」
とガラスのコップを差し出す。
オレがガラスコップを持ったことを確認すると、並々と酒を注ぐ。出会って30秒でコップ酒かよ!
「…どうぞ…」
「は、はあ、」
勧められるがままに、ぐいっと酒をあおる。
…こりゃうまい。
「香りがとても豊かですね。果物のような花のような、そんないい香りが爽やかに通りすぎていきますね。実にうまい」
とオレが言うと
みのりさんはニコッと笑って、再び
「どうぞ、飲んで」
と言い、オレに再び酒をすすめる。
「和弘さん、娘のどこがよかったんですか?」
「それは、「まあ飲んでください」あ、はい!」
ぐいっとコップ酒をあおる。
「答えてください!答えられないんですか?!」
いやいや、オレが話そうとしたらアンタに飲まされたんだろ!
かあさん、お義母さんは、3歳差でしかも、からみ酒だったわけで…。




