倍返しだ!
「…あーーー!!やってもたー!!!!なんてこったー!!!!!」
自分がやってしまった恥ずかしい失態にひとりで見悶えた昨日。
朝になってもその恥ずかしさは増すばかりだ。
だってそうだろ?
今までの彼女にだって、あんなかっこつけたことはないんだよ!
しかし、オレは小さな決意をしていた。
オレのやったことは間違っていない。
この街の中小企業を元気にして、地域を豊かにする。オヤジのような人をもう出さないためにも。
オレはそう簡単には辞めない。
朝いつも通りに出勤すると、二海由樹と目が合う。お互いに少し気恥ずかしい。彼女は顔を思わず伏せた。耳まで真っ赤になっている。
「部長、常務室から電話です」
嗣原常務から呼び出しがかかったようだ。
昨日の一件だろう。
「ちょっと常務室に行ってくる」
と部下たちに告げ席をたった。
常務室に行き秘書に取り次ぎを依頼し、すると間もなく常務室に入るよう促される。
「おはようございます。蒲生です」
「どうぞ」
「失礼します」
オレはドアを開けると常務が座っていた。
ソファーに着座するように促され、常務も向かいのアームチェアに腰かけた。
「見ましたよ」
常務がため息をつきながらセンターテーブルに昨日オレが提出した進退伺を置く。
「常務、色々ご迷惑をかけてすみません。よろしくご判断お願いします」
頭を下げたオレに、
「センパイ、頭をあげてくださいよ。二人の時は常務って言わないって約束じゃないっすか」
「迷惑をかけて本当にすまない!」
またまた頭を下げるオレに
常務がまたため息をつく。
嗣原勘九郎常務は35歳を過ぎたばかりのわが社の若き後継者だ。
「センパイが辞めてもらったら困りますよ。僕が。社長になってからも僕を支えてくれるってこれも、約束したじゃないっすか」
「飲まされた時に約束いっぱいしちゃってるな。かなわないぜ」
オレはふっと笑ってしまった。
「ほんとっすよ。全部守ってもらわなきゃ(笑)」
ふふふ、と常務も笑う。
「しかし困ったことになりましたね」
「ああ。勘九郎はオレの異動は知っていたのか?」
「決済はオレですけど、人事の内定は総務が出すんですよ。しかも明智らをひっぱったのはオレと社長ですから。その責任はセンパイが取れっていうスジなんでしょうね」
嗣原総三郎のワンマン企業といえども、役員たちは海千山千のチカラのある奴ばかりだ。いつ足下を救われるかわからない。
ここでオレを庇うのは危険だということだ。
「あと、専務が帰ってきたら、まためんどくさいことになる」
そうだった…。嗣原勝重専務。アメリカのNYにいて現地でのグループ企業立ち上げを行っている。年末には必ず帰国するだろう。あいつらはそれを待っているのかもしれない。
「こういうのはどうでしょう。次の役員会で…」
「…さすが!常務さまだ!!」
「やられたらやり返しましょう。正義は我らにあるんです。倍返しだ!」
「なんか、あの何だっけ、銀行のドラマを思い出すな!」
「でしょ!僕も、ちょっと意識して言ってみました!」
お互いに目を見合わせて、がはははと笑う。
「倍がえしだ!」




