オレが家に女性を連れ込むなんて!
ハブ駅から地元の駅まで快速電車で10分。駅の改札を抜けると目の前の観光案内ポスターの前に、二海由樹が居た。
「あ…」
二海由樹は言った。
「…お、どうしたの?」
観光案内ポスターは地元出身の若い女優が名産の団子を持って笑顔で写っている。
その女優と比べても遜色ないと言っていい美人の顔は今にも泣き出しそうだ。
「二海さん、どうしたの?」
もう一度声をかけた。
「蒲生さん、異動になるって聞きました」
やっぱりそれか。
「異動は断ったよ」
安心して、とオレは付け加えた。
「それはいけません!」
彼女はすぐに言葉を返した。まるで予測していたかのように。
「そう思うのかい」
「はい!」
「そうか、ちょっと話をしないか?」
彼女はコクコクと頷いた。
オレは彼女をつれだって小さな駅の構内を出た。
…とはいっても、
駅前にはコンビニが一軒。
酒屋が一軒。
あとは店らしきものは駅前のおばあちゃんがやってるタバコ屋くらい。17時には閉店してる。
ゆっくり話できる場所…ないねえ。
ハブ駅から10分動いただけでこの田舎…(泣)地方都市の駅前市街地の疲弊は深刻だ…。
二人して駅前通りを前に立ち尽くす。
仕方ない。
「ウチ、くる?」
と言ってみる。
ふとびっくりしたように、彼女は私の顔を見上げた。
「はい!」
しまった!目がキラキラしてるよ。期待の眼差しだよ。
こりゃなんのプレッシャーだよ。
オレの半歩後ろを物静かに歩く彼女。
しまった!この図式!なんか部下の女性をオレ連れ込んでるみたいじゃないか!!
…いや、みたい…じゃなくて事実か…。
事実…だけど、違うんだ!そんなんじゃないんだよ!
なんて言い訳を心の中でくりかえしつつ、
7階建てのマンションの3階。
玄関まで彼女を案内して
「ちょちょちょっっと待っててね」
とドアの前で彼女を待たせる。
いかん、声が上ずった。
女性はもちろんのこと、人をマンションに入れるのだって、ふだんは北木くらいだよ。
あ~!!!!
と心の中で絶叫しつつ、15分前の自分を恨みながら、部屋を猛烈な勢いで片付ける。
やっつけ仕事は得意だ!
「お、おまたせ」
はあはあ。息切れをしながらドアを開ける。
「すみません、ご迷惑じゃなかったでしょうか…。」
うん、大丈夫。これは変な意味の「はあはあ」じゃなくて、ただ単なる加齢による息切れだから。
「ど、どうぞ」
彼女を家に招き入れる。こら、見渡すな!目を見張るな!
なんて思いつつ口には出せない。
彼女にはソファーに腰かけてもらい、コーヒーを淹れる。
「あ、ありがとうございます」
彼女は頭を下げる。いやいや。
片付け大変だったけどね。うん大丈夫。
「話を聞かせてもらってもいいかな」
「私は、お断りになると思ってました」
「なんで」
「蒲生さんは都会はお嫌いだろうと思いました。なので積極的にはお受けしたがらないだろうなと思ったのがひとつ」
う、あたってる
「あと、明智元所長は談合疑惑で辞職したとはいえ、人望の篤かった方です。今混乱の渦中にある東京に異動し“明智元所長追放の張本人”とされる蒲生さんが行っても、部下がついてこないだろうと思ったのがふたつめ」
「あと、ご自身の功績ではなく、上の人たちが出世頭の蒲生さんを追い落とそうとする策謀が透けて見えてるなかでの異動だというのがみっつめです」
驚いた。…この人はとても頭がいい人だ。
「あと…、もうひとつ。蒲生さんは私たちの会社でもトップのマネジメント力を持つ方です。ご自身の異動が会社にとって何一つ得になるものではないことは良くお解りのはずです」
それは買い被りすぎだ。そこまではとても考えていなかった。
しかし、前から優秀だと思っていたが、見ている視野がとても広い。
「そこまで思っていてなぜ、断ってはいけないの?」
オレは率直に聞いてみたくなった。




