混乱した責任とらないとね→嫌です!キリッ
丹羽取締役総務部長から呼び出しがかかった。
「やあ蒲生くん。呼び出してすまない。君、来年1月から急遽ですまないが、東京営業所長をやってみないか」
「へ?」
「異動だよ。内々にね。打診しておこうと思ってね。君の活躍のお陰でね、明智所長は退職されてね。現場は大変な混乱のなかにあるのだよ。妻木次長からも病気で休職願いが提出されているしね。
混乱の東京営業所を建て直せるのは他ならぬ今回の混乱の“功労者”たる君をおいて他にはないと思ってね」
やたらと“ね”が鼻につくなあ。と冷静に?ぼんやりと聴いていた。
「これは栄転だよ。東京を経験した人は一気に出世コース。次は取締役だよ」
「まあすぐにすぐ、答えられないと思うがこの話は悪いは「嫌です」…へ…?」
「お断りします」
「なんで?」
「私は今の経営支援部の部長に就任しまだ2年です。じゅうぶんな成果も残せてない上に、東京営業所を“混乱させた”張本人です。ここような立場で混乱の渦中にある、東京営業所の所長に私を据えるのは当社の利益に反すると考えるからです」
「き、君!会社からの命令を聞けないということなら、この会社にいられなくなるよ。いいのか!?」
「ちょうどいきつけの居酒屋でバイトを探していたので応募してみようと思います」
「勝手にしろ!」
丹羽総務部長が机を叩いて怒鳴ったと同時にオレは頭を下げ、総務部長室から退室した。
しかし、会社内では蒲生が東京営業所長を打診されたという前段部分だけが噂となって一気に広がっていた。
内々にじゃなかったのかよ。おい。
総務もオレが断るなんて考えもせずに、東京への異動が前提で段取りをすすめていたのだろう。
とりあえず、勤務時間が過ぎ喫茶室で缶コーヒーを開けていると、同期の北木が来た。
「おいおいヒロカズよ!ほんとに受けたんか?東京栄転!?」
脂ぎった汗を流しながら言う。中年の汗は全然爽やかじゃない。
ただクサいだけ。人のことは言える立場じゃないが。
「あ?話がはやいのう」
オレは鼻をツマミながら言う。クサいぜ北木よ。
自販機に130円を入れた。なぜ鼻を摘ままれたのかわからず、キョトンとした北木に缶コーヒーを買わせた。
眼下には眩しい晩秋の夕焼け。夕暮れの街。
「異動、断ったよ」
「やっぱりな。火中の栗を拾うようなもんだわ」
ただ単に、田舎者のオレとしては東京でくらせる自信がなかったわけだけど。総務部長に言った理由なんて後付けの言い訳なのだ。
北木の勧めで、とりあえずその日のうちに進退伺だけはつくった。
辞職願ではなく、あくまで進退伺なのだ。
《進退伺とは公務員や会社員などが、過失があったとき、責任を負って職を辞するか否かについて上役に指示を仰ぐこと(大辞林)》
あくまで、取締役総務部長が「断れば会社にいられなくなる」と発言したことをとらまえて、「私は会社の利益を考えて、総務部長の内示を断るという行為をしました。会社辞めなきゃいけませんか?」という意味だ。
そして、その日のうちに常務へ提出した。
あくまで部長としての直属の上司は常務なのだから。
ここまでが全て北木の入れ知恵。さすがだ。助かったぜ。クサい何て言ってすまない!我が心の友よ!
「わざわざ、お前を追い落とそうとする連中の企みに乗る必要なんてねーよ」ってのが北木の言い分だ。
オレは常務室の秘書に進退伺を提出すると、さっさと家に帰って
“謹慎”することにした。黄昏時に帰れるなんて久しぶりだ。
会社から駅まで徒歩10分。ハブ駅から地元の駅まで快速電車で10分。駅の改札を抜けると目の前の観光案内ポスターの前に、二海由樹が居た。
今にも泣き出しそうな面持ちで。




