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二海由樹は雨降って地固まる!

すみません、まだ荒削りです。


のちほど、若干の修正をかける可能性があります。

つかの間の夏休みを終えた翌日からは、フォーラムにむけて追い込みの日々だった。


他の部ではみんな午前様だったようだけど、我が経営支援部は部長の采配のおかげでノー残業とはいかないが、他の部よりはかなり早く帰れていたと思う。


「よし、フォーラムで発表するためのスライドショーもこれでいいだろう。

経営分析表の最終校正は昨日の段階で送ったけど、いつ頃印刷屋から返ってくる?」

「事業部に確認しましたら、明日午前中には完成品が到着予定とのことです。」

「わかった。安原課長、講師との打ち合わせはどうなってますか?」

「講師は駅から会場のロイヤルホテルまで直接タクシーでこられる予定です。資料はメールで受け取り済み。講演で使用する資料はプロジェクター上映するよう、総務管理部に依頼済みですわ」

「講師は誰か駅に迎えに行ったほうが確実でしょう。近堂くん、当日の講師迎え、行ってもらえるかな?」

「了解しました。」

「よーし!当日ウチ(経営支援部)が使う機材の仕様はそれぞれの担当で確認しとけよ。総務管理部に丸投げするなー」

「「はい。」」


「よし。あとは、当日を待つのみか。あとはやっとくから、今日は帰っていいぞー」

うぃーす、とみんながぞろぞろと帰り出す。

その中で、


「もー!また、そんなこと言って、ひとりで抱え込んだらダメだっていつも言ってるでしょ!もう、しょうがないな。手伝いますよ、何からしましょうか!」

と浦野係長が部長に話しかけていたのが見えた。


ふだん私や他の部下に対しては「大丈夫、大丈夫、無理すんなー」と素直に聞き入れることはなかったのに、浦野係長には、あれやこれや頼んでる様子。


部長は浦野係長とどんな関係なんだろ。


そんなことを考えながら帰ってると、もやもやしてきた。


…仲いいんだろうな

…付き合ってるのかな

…浦野係長は部長が好きなのかな

…蒲生部長はどう思ってるんだろうか

…浦野係長、美人だし、仕事できるし、カッコいいし、勝ち目ないなあ

…「私も残業します」って言えばよかったかな

…でも係長と違って、私にはできないことが多すぎる


暗い公園を寄り道して帰る。

公園のまんなかにある池に向かって

「あ゛ーー!!!」と叫ぶと、散歩をしていたおじさんがビクっとして、池に落ちそうになっていた。



----

9月10日(日)

いよいよ経営フォーラム当日。

全県から、取り引きのある2300社の経営者や幹部社員の人たちをはじめ、県知事、市長、国会議員、県会議員、市町村会議員の先生方や、各役所の産業関係部局の職員、経済団体の代表の方などもご招待している。


今ここに爆弾落ちたら、県の経済終わる…なんて、そうそうたる招待者名簿を眺めながら思った。


私たち経営支援部はフォーラムのメインである、テレビでお馴染みの関東経済大学教授桑渕照明先生の講演、その後の経営分析事例の発表、そして夜の記念祝賀会などを担当している。


といっても私たちは上司の指示に従うしかなかったけど。


怒濤の一日が過ぎさり、最後は記念祝賀会。

地元選出で経産関係の国会議員の先生による乾杯の挨拶。

そののちは、皆さんお酒を持ちながらも関心は名刺交換のよう。パーティは人脈を広げる絶好の機会…らしい。

料理は申し訳程度にしか手をつけない。


ただ、お一人を覗けば。

「おい!なんだここの料理は!こんなエサをおれに食わすのか!」

…そんなに言うなら食べなきゃいいのに。一人で食べながら文句言ってる人がいる。

「なんだこの酒は!?こんな不味い酒は初めてだ!三流酒を出すなよな~!」

その割になんですかね、その赤ら顔は。

今日の講師の桑渕氏だった。


講演そのものは、示唆に富んでとても好評だったが、どうやら酒乱の気があるらしい。

安原課長が唖然として呟く。「なんだ大学に頼んだときには教授の秘書はなにも言ってなかったぞ…」

「ちょ、小松くん、二海くん、先生を別室にお通ししろ」

「え、え?」

「早くしないか…!」

「は、はい」

 私たちは教授にお願いし、用意していた講師の控え室にお連れした。


しかし

「きゃっ止めてください!」

突然、教授は酒臭い赤ら顔で私に抱きついた。

「止めろと言ってもねえ!もう!今日のフォーラムが丸つぶれに、なってもいいのかい?私が怒って帰っちゃうよ。なら私の言うことを聞かなきゃ。それが賢明じゃないか」

…助けて!蒲生部長!

大きな男の人が私をくみしこうとする。私は今まで体験したことのない恐怖に襲われた。

小松さんも突然のことで体が硬直して動きも声をあげることもできない。

「止めろ!」

教授は強引に引き剥がされた。

入ってきたのは 


…近堂さんだった。近堂さんは私たちの2年先輩。仕事もでき、よく気がつくと評判の男性だ。


「先生。困りますな。私たちのフォーラムがこれじゃ丸つぶれだ」

「貴様は朝の運転手だな。丸つぶれにされたくなければ、大人しくこの部屋から出ていけ!オレはこの娘たちと楽しく遊ぶよ!」

「お帰りください!先生はお疲れで酔ってらっしゃるようだ。そうでなければこの録画データを今すぐYouTubuかネコ動にでも公開しましょうか?大学もびっくりされるでしょうな」

ネット拡散をちらつかせると、突然、教授は青い顔になり、


「不愉快だ!帰る!」

と言い、部屋を出ていこうとする。


「スタッフさん!講師がお帰りになられます。タクシー乗り場までご案内を」

近堂さんは部屋の外に待機させていたホテルスタッフに桑渕教授の案内をさせ、控え室のドアを静かに閉めた。

「大丈夫かい、二海さん、小松さん」

あ…声がでない。

「今部長を呼ぶからちょっと待っててね」

すぐに蒲生部長は駆けつけた。

事情を聞くなり、すぐ私たちに「大変だったろう、本当に申し訳ないことをした」と深々と頭を下げた。


「体は大丈夫かい?」

心配そうに優しく部長が声をかけてくれる。襲われそうになったときはショックだったけど、部長が私のことを心配してくれてると思うと、なんだか嬉しくなってきて、

「ハイ!」

となんだか涙を流しながら、元気よく返事をしてしまった。

「小松さんは大丈夫だったかい?」

「すみません。わ、私びっくりしてしまって、こ、恐くて、体が動かなくて…、由樹ちゃんを守れなくて、本当に、ごめんね」

小松さんも泣いている。


「今すぐ安原課長を呼べ!」

部長の顔が私たちが普段見たこともない険しい顔になっている。

怒りとも悲しみともとれる顔だ。


---

「なんでしょうか、先生はどこへ行かれた?」

控室へとやってきた課長に、部長は私たちではなく、近堂さんに説明をさせた。

課長の指示で控室へと桑渕教授を連れていったこと。

そこで私たちが乱暴されそうになったこと。

近堂さんが発見し、教授を追い返したこと。

                     

細い眼鏡の奥に感情を押し込んで、淡々と事実だけ述べるところが近堂さんらしい。


「なぜ教授を追い返した!!」

課長は教授を追い返したことで自分の顔が潰れたことに、怒り心頭のようだった。

「貴様ら、大変なことをしてくれたな!近堂!お前のせいでフォーラムは滅茶苦茶だ!二海!小松!お前らも大人なら“それぐらい”何故我慢できない!お前ら、これだけの大問題を起こしたのだ。覚悟はできているのだろうな!」



「…大問題なのは課長!あんたの方だ!」

蒲生部長が課長に向き直り、今までになく、大きな声で怒る。

「二海さん、小松さん、近堂くんはわが社の大事な社員だ。わが社の女性社員が乱暴されそうなったことに対して、なぜ怒らないのですか!」

「それは…。」

「そして責任を問われるのは君だ。君が課長として講師対応を担当していたにも関わらず、放置した末、泥酔させ、女性社員に講師対応を丸投げした。そしてこの事態を招いたのだろう。なのに我慢を強いるとは何事か!わが社が人権感覚が欠如した企業だと自ら証明したいのか!」


あう…と声にならない声を発して課長はしゃがみこんでしまった。


「近堂くん、君の対応は称賛されるべきだ。犯罪は未遂に終わり、講師は『体調不良のため講演終了後、早めに帰られた』のだ」

「はい。教授の『ご病気』が私の手に終えなければ、ホテルスタッフに対応してもらう予定でしたが、そうならずに済んでよかったです」

近堂さんは、爽やかにニッコリと笑う。


「安原課長、君は仕事に戻りたまえ。今回の結果はフォーラムが終わってから追って沙汰をします」 


「さ、君たちは疲れただろう、その顔では仕事にならないだろう。さ、今のうちに帰りたまえ。あとは私たちがしておくよ」

部長の顔がまたいつもの優しい顔になった。



私たちは二人してとぼとぼと家に帰る。

疲れたことと、緊張の糸が切れたこととがあわさって、なんだか妙にふわふわした気分を味わっていた。


「…ねえ、由樹ちゃん」

「はい?」

「さっきはほんとにゴメンね」

「そんなこと!謝る必要なんてないです!」

「わ、私ね、その、由樹ちゃんのこと、本当に友達だと思ってるの。だいぶ年上なのに、辛いときに助けられなくて…」


「そんなことないです!私も…小松さんのこと、大切な友達だと思ってます!だから何でも話せます。これからも友達でいてください!」

私は正直な思いを伝えた。こんなことで嫌な関係になんて、なりたくなかったから。


「ほんと?嬉しい」


私も嬉しかった。嫌なことがあっても、それでぎゅっと二人の関係が縮まった気がしたから。


「由樹ちゃん、じゃあ由樹ちゃん、お願いがあるの」

「なんですか?」

「私のこと、これからは美佳って呼んでくれない?」

「はい!美佳ちゃん!」

少しむずがゆい感じがした。


「ありがと~!!嬉しい!やっぱり由樹ちゃん、カワイイ!」

美佳ちゃんにぎゅー!と抱き締められた。

いい匂いがした。


「美佳ちゃん…苦しい…あはは。ねえ、美佳ちゃん、ちょっとお茶してかえりませんか?」

「うん!アタシもそう思ってた!」


よかった。美佳ちゃんが前の明るい美佳ちゃんに戻った。

私たちはまた歩きだしてカフェへと向かった。


「…ところで由樹ちゃん、ちょっと部長に心配されてうれしそうな顔してたでしょ!」

「そそそんな、そんなことありませんよ!」

「話しなさ~い!何でも話せるんでしょ~♪」


フォーラムの顛末はわからないが、私は、相変わらず美佳ちゃんの尋問にさらされるのであった。



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