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二海由樹の恋は始まった

『戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ。』


『見せて貰おうか。連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!』


世の迷える青年?中年男子の永遠の憧れ…なんて…


10代女性にはわかるわけないね!

「今日からオレは毎日4時間残業だ!…だから、経営支援部みんな!オラに少しだけ元気をわけてくれ!」


ホントに残業をはじめた部長。猛烈な勢いで仕事を片付けていく。



部下には「仕事を押し付けないし、無理をさせない」っていうのがポリシーらしく、

「私も残業手伝います!」って言うと、「ムリしないで!」って返ってくる。

でも「“私は”若いですから!」ていうと渋々仕事くれた。だんだん部長の扱いわかってきたかもw


経営支援部はフォーラムにむけて、これまで社が取り組んできた経営支援データを集計して、データベース化していく。

「経営規模の大小や社員の多少、業種の如何に関わらず、企業がかかえる課題は共通するものがあるんだ」って部長は言ってた。



予告どおり、金曜にはキッチリ済ませて、部長念願のキャンプ。

宣言しても実行して実現することはなかなかできるもんじゃない。


私や小松さんも参加することにした。浦野係長に声かけてもらったし。部長のあまりのウキウキぶりがかわいかったし。


目的地を“タウン情報まっぷり”で見せてもらう。キャンプ…といってもテント張る訳じゃなく、かわいい湖畔のバンガローだった。


残業手伝わなかったのに、キャンプに来る瀬尾主任は運転手をさせられてた。でも瀬尾主任も「なんで、オレ運転手なんすか~」って口を尖らせつつ、ちょっと嬉しそう。


あら、部長、さっそくビール開けてるし。美味しそうだなあ。

部長の私服ははじめてみた。長袖のブラウンボーダーのラガーシャツにチノパンのラフなスタイル。

8人乗りのワゴン車の助手席にドカッと腰かけてビール缶加えながら、ナビを操作してる。


気がつけば未成年の私と、運転手の瀬尾主任以外、みんなアルコール飲んでるし(笑)これはさすがにかわいそう。私免許持ってないし。

「みんなひどいっすよー!」と瀬尾主任。

「いいから前向いて運転しろっ」と浦野係長。


----

車で2時間ほど走ると、湖畔のバンガローに到着する。高原はもう秋。涼やかな風。あたり一面の深緑!

「う~ん!」ずっとオフィス街と家との往復だった私はうんと背伸びをする。

「う~ん!!」

と横でも同時に声がしたかと思うと、まっすぐ伸ばした左腕に右腕をまく姿勢。私とまったく同じ格好で背伸びをしている蒲生部長。

おかしくて「くすっ」と笑うと目があった。

「ほへ?」

と不思議そうな顔でこちらを見るのが、おもしろくってまた笑ってしまった。


バンガローはログハウス風というか山小屋風というか、まあ行ったこともないけど、とにかく、ステキなつくりだった。「キャンプ」っていうからどんなところかと思ったけど。


夕飯は湖畔でバーベキュー。先輩方の手際の良さに驚く。


「BBQとは、常に二手三手先を読んで行うものだ」?とかなんとか、よくわからないことを北木課長(事業部なのに、特別参加らしい)が言うと、

炭火を起こしてた部長も「見せて貰おうか。事業部の課長の性能とやらを!」とか意味のよくわからない返しをしてた。


よくわからないけど、一部の人達がバカウケしてた。


------

バーベキューが終わり、男性が泊まる棟に女性のみんなも集まり、二次会が始まったようだ。


私は新人だし、まだお酒も飲めないし、湖畔の遊歩道を少し歩く。


月はまあるく、夜道を照らしている。

街中では見えない星が降るような景色。

すこし肌寒いくらいの涼やかな風。


りり…りり…りりり…

すぐ近くで聞こえる虫の音。


「あ~!」とまた思いっきり背伸びをする。

すると向こうの方でも「あ゛~!!」と背伸びをする声が聞こえる。

暗いからよくわからないが向こうに誰かいる。

「…あれ?誰かいるのかい?」

向こうも気がついたようだ。男の人だ。近づいてくる。少し身構える。

「ああ、二海さんか。」


聞きなれた少し高めの声。安心できる声。蒲生部長だ。

「あ、部長。」

私のこわばった力が抜けていく気がした。


「どうした?散歩かい?」

「はい。部長は…?」

「散歩だよー。少し飲み過ぎちゃってね」

少しですか?と聞くとへへへ。とはにかむように頭をかく。


「よかったら少し話でもしないか?」

私は頷くと、部長は私を水辺のベンチに案内して腰かける。

「…ありがとうね。」

「はい?」と聞き返すと、「キャンプ。来てくれて。そして、これるように手伝ってくれて。」と部長。

「楽しかったですよ!キャンプも残業も!」

「そうか!」部長が嬉しそうにこっちを見て頷く。


「仕事はどうだい?キツいかい?」

「大変だけど、やりがいあります。色んな会社があって、特色が知れて。」

「そうか。」また部長が微笑む。


「部長はどうして、この仕事を?」

私はもっと知りたくなった。仕事のことや、部長のことを。


「勤めてた会社が潰れてね。」

「大学を卒業してもフラフラしていたところを拾われたのが前の会社の社長だったんだよ。

中小企業のオヤジで、15人くらいの小さな鉄工所でね。地元にある大企業の孫請をしてたのさ。

でもね。2001年、その大企業が突然の工場を閉鎖した。そこからの仕事をもらうために、機械を買うから、銀行で新しい資金かりたばっかりだったのにね。

金策に追われて、そして、社員に給料を払うためにオヤジさんはかけずりまわったけどね。ダメだった。朝、オヤジさんと奥さん、工場で首を括ってたよ。それしか会社の赤字を減らす手段がなかった。社員にわずかばかりの給料を払う手段がなかった。」

「腕は確かだったのにね。で、オレはそのあと、この街で、企業の再生のための仕事をはじめた嗣原さん(社長)に出会った。

社長は教えてくれた。『経営環境の変化に対応し、学んで成長する中小企業は潰れない』と。オレは、地元の企業をもっと元気にする仕事をしたいと思った。

オヤジに教えたいんだわ「首括らなくても会社はたて直せる」ってね」

「全国の中小企業の数はいくらあるかしってるか?

…380万社だよ。県内では6万社。この街で働く人達の約84%が中小企業で働いている。この中小企業が元気になれば、社会は変わるって思わないかい?」


そんな視点で見てたんだ。

「‥は、はい!!思います!」

この人はすごい。自分の仕事が社会にどう繋がってるか、見えてる人だ。


「あっ!ごめんごめん!!オレひとりしゃべりまくっちゃって!」


「い、いえ、もっと話が聞きたいです!部長の話が聞きたいです!」


それから私達は仕事の話や、家族の話、夢の話、色々な話をした。


すっかり夜遅くなってしまい、バンガローに戻る頃には「二海由樹と部長が消えた!どこでナニをしてるんだ!」って噂になってて恥ずかしかったけど。


ただ、私にはわかったことがある。部長…蒲生和弘さんが…好き。

まっすぐな眼。優しい声。あの人の見る世界を私もみたい。


そう思うようになったことは誰にも秘密だ。




って!今さらかよ!







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